I'm On Fire






 ――Jはしつこい。





 INORANは上がりっぱなしでちっとも落ち着いてくれない呼吸に溜息をこっそり混ぜた。



 本当に冗談じゃないと思う。
 けれど、最初からこうなることを分かってもいたのだ。その上で拒まなかったのはINORAN自身だったし、むしろそれを望んでさえいたかもしれないとも思う。
 だがしかし。



 ――やっぱり、しつこいものはしつこいのだ。



「井上、大好き」

 Jのキスが降ってくる。これは嫌いではない。セックスの前でも後でも、セックスに発展しない時でも、Jのキスは嫌いではなかった。
 それは、キスだけがあまりしつこくないものだからだったりするのだけれど。
 特に、今みたいに第1ラウンドが終わった後のキスなんかは、けっこう好きだ。大半は唇を押し当てるだけだし、強くてもほんの少し吸いつかれる程度。そういう、誰とでもできるスキンシップの範囲におさまりそうなキスは、INORANも好きだった。

 しかし、その後がいただけない。

 INORANはようやく落ち着いてきたばかりの呼吸にもう一つ、溜息を混ぜた。
 今日くらいは我慢してやってもいいかな、なんて思った自分を内心でちょっとだけ恨みつつ。










 本日は小野瀬さんのお誕生日である。
 INORANはいい加減に大袈裟なプレゼントなどを考えるのが面倒になり、J本人に聞いてみた。時間のかかるものをリクエストされることも考えて、1ヶ月ほど前に。
 すると、Jは世界でもINORANにしか用意できないものを要求してきたのだ。



 曰く、井上をくれ、と。



 Jにその話をするべく電話した時、INORANはよりによって飲んでいた。しかも珍しくけっこう酔っていた。だから、素直に答えてしまったのだ。

嫁には行けないけどその日1日くらいならやってもいいよ、なんて笑いながら。



 アルコールが抜けてから後悔しても、もう遅い。
 まぁべつにヴァージンでもないし、久しぶりだし誕生日だし、いいか……なんて思ったのは、今日こうしてJの家のベッドに押し倒されるまでだった。





 Jとのセックスは、まぁそこそこ気持ちいい。と、INORANはいつも思う。

 悪くはない。
 Jはライヴの時の暴れっぷり等からは想像もつかない方向へ優しいし、丁寧だ。
 だから悪くはないのだけれど、INORANの負担が大きいことに変わりはない。
 Jはそれも承知の上で、負担が少しでも軽くなるように時間をかけて丹念にINORANの身体を高めてくれるし、終わった後もこれでもかというほどあれこれと世話を焼いてくれる。
 それも含めて悪くはない。

 が。



 いかんせん、丁寧すぎるのだ。
 特に、今のように第1ラウンド終了後は。





 Jは嬉しそうにINORANの顔やら髪やら肩やらに小さなキスをたくさん落としていく。
 問題は、それが押し倒された当初とまったく同じだということだ。



 Jという男は、丁寧なのはいいのだが、第2ラウンドとなるとまた最初から全部やり直すのだ。
 つまり、今されているような軽いキスから始まり、キスが深くなると共に身体のあちこちに触れられて……というオーソドックスな手順を踏むわけで。

 しかし、一度高みを味わったINORANの身体に、それは焦れったいのだ。非常にとってもものすごく、焦れったいのだ。





「……いいから、早く」



 さっき飲んだワインのせいにして、INORANは珍しくそんな言葉を口にしてみた。これで手を早めてくれなければJに自分から圧し掛かったりしてしまいそうなくらい、焦れったい。

 この先さらにゆっくり時間をかけられるのが目に見えているのだ。それは、想像するだけでも肌が粟立ってしまうような、快感に近い不快感を思い出させる。身体は気持ちいいのだが、精神的に非常に不快なのだ。



 なのに、Jの手は相変わらず緩やかにしか触れてこない。キスも深くはならず、ただ普通に気持ちいいだけに留まってしまう。
 しかし、それが焦れったいのだと訴えるだけの余裕はない。それは第2ラウンド用の愛撫のせいではなく、第1ラウンドの余韻のせいなのだけれど。



 INORANは、ふたたび上がり始めた呼吸にまた一つ、溜息を混ぜた。
 混ぜたつもりだったが、それは快感に引きずられた吐息にしかならなかった。

 それが逆に、Jを煽ったらしい。

 唐突に動きを速めた大きな手に全ての感覚をさらわせて、INORANは目を閉じた。
 あとの流れが早いことを、INORANは知っている。だから、こうなってしまえば割とどうでもいいのだ。










 しかし、INORANはこの後、また溜息を落とすことになった。

 Jはしつこさというか律儀さを保ち続け、そのやり方のままで、なんと。



 一晩の最高記録に挑戦してしまったのだ。



 無論、1ラウンド毎にINORANが身体のものとは別の疲れを覚えたのは言うまでもない。
 しかし、INORANはそれも「誕生日だから仕方ないか」という一心で抑え込んだ。



 そんなINORANの心境をJが知っていたかどうかは、誰にも分からない。








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