イオン飲料とむし歯

歯科医の実際の診察による厚生省歯科疾患実態調査(昭和56年、平成5年、平成11年施行)によると、小児のむし歯は過去20年にわたり確実に減少している。すなわち、昭和56年、平成5年、平成11年のむし歯羅患率は3歳児でそれぞれ72.3−59.736.3%に、5歳児で95.0−76.9−63.9%と減少している。これは養育者などの口腔保健に対する関心が高まった結果と考えられるが、ここへきて新たな問題が発生している。小児は口腔管理のよいグループと悪いグループに大別され、悪い方の群では本来むし歯になり難い下の前歯がむし歯になってしまっているのである。この傾向は乳幼児のみでなく学童にも認められている。そしてこの原因の1つとしてイオン飲料の飲み方が関係していると考えられている。

むし歯の原因はいろいろの要因が考えられるが、イオン飲料の飲ませ方の問題点と対策についてまとめた。

1.問題と背景

1)乳幼児とイオン飲料

テレビのコマーシャルなどにより、多くの母親は市販されているイオン飲料は身体によいと考えている。汗をかいたときや、入浴後やのどが渇いたときに積極的に与える傾向がある。イオン飲料の組成は経口維持輸液に比べ、Naなどの電解質はやや低値かほぼ同程度

であるが、浸透圧が高値のため水電解質の吸収の点でやや劣るが、下痢や嘔吐による軽度の脱水に使用される。普通の食事をしている乳幼児にこれを与えると電解質が多くなりかえってのどが渇いてしまう。その結果、イオン飲料を絶えず飲んでいなければいられない状態となってしまう。イオン飲料経口維持輸液よりも糖分の濃度が高く甘味がより強いので、習慣化する傾向がある。イオン飲料のpHは3.6−4.6と低く、pH5.4以下ではエナメル質の脱灰が起こりむし歯になりやすいことなどより、イオン飲料が絶えず口腔内に残存するとむし歯の原因となる。夜寝る前や、夜中に起きたときにもこれを与えると益々この傾向を助長する。

もう一つの原因として下痢や嘔吐で小児科医を受診したときに輸液が必要でない軽度の脱水の場合は医療用の経口輸液顆粒は水に溶かしてから使用しなくてはならないので、医師から市販のイオン飲料を勧められることが多い。しかし脱水が改善した後はイオン飲料による水分補給は必要ないという指導は殆ど受けていない。親はイオン飲料を水代わりにいくら与えても身体によい飲み物と思うばかりでなく、子どもも欲しがるので、それから後も、積極的に与え、習慣化してしまう。

イオン飲料を多量与えることは肥満の原因となるばかりでなく、食欲不振など全身に悪

2)学童とイオン飲料(スポーツ飲料)

1)スポーツ練習:いろいろなスポーツで運動し、汗をかいたとき、イオン飲料(スポーツ飲料)を飲む傾向がある。これがきっかけとなりイオン飲料のペットボトルを持ち歩き、だらだら飲みの習慣がついてしまう。この結果、乳幼児と同じ理由で生えて間もない幼君永久歯がむし歯となってしまう。

2)塾通い:放課後、塾通いの学童も、行き帰りに食物と一緒に飲み物を買うことが多い。水代わりにイオン飲料を飲む。電車の中でも、道を歩いていてもなんとなく飲む習慣がついてしまう。

以上の学童の場合は自分で好きなだけ買うので、むし歯だけでなく飲み過ぎると肥満の原因となる。さらに肥満の学童の耐糖能を傷害し糖尿病に気づかないで多飲するとケトアシドーシスや昏睡となる「ペットボトル症候群」となる危険がある。

3.対策

1)乳幼児に対して:

*過激な運動や極端に汗をかいたとき以外は、普通の水を与える。

*イオン飲料を水の代わりに使用しない。

*下痢や嘔吐でイオン飲料を飲ませたときは症状が軽快したら中止する。のどがかわいたときは普通の水を飲ませるようにする。

*寝る前や寝ながらイオン飲料を与えないようにする。夜中にのどが渇いたときには水

3.対策

1)乳幼児に対して:

*過激な運動や極端に汗をかいたとき以外は、普通の水を与える。

*イオン飲料を水の代わりに使用しない。

*下痢や嘔吐でイオン飲料を飲ませたときは症状が軽快したら中止する。のどがかわいたときは普通の水を飲ませるようにする。

*寝る前や寝ながらイオン飲料を与えないようにする。夜中にのどが渇いたときには水

母乳とむし歯一現在の考え方(案)

小児科と小児歯科の保健検討委員会

平成16年1月16日

「イオン飲料とむし歯」に関する考え方(案)


  小児科と小児歯科の保健検討委員会 
        平成16年1月16日