浄土和讃
弥陀の名号となえつつ 信心まことにうるひとは
憶念の心つねにして 仏恩報ずるおもいあり
誓願不思議をうたがいて 御名を称する往生は
宮殿のうちに五百歳 むなしくすぐとぞときたまう
『讃阿弥陀仏偈』曰
曇鸞御造
「南無阿弥陀仏
釈名無量寿傍経
奉讃亦曰安養
成仏已来 歴十劫
寿命方将 無有量
法身光輪 遍法界
照世盲冥
故頂礼
又号無量光 真実明
又号無辺光 平等覚
又号無碍光 難思議
又号無対光 畢竟依
又号光炎王 大応供
又号清浄光 又号歓喜光
大安慰 又号智慧光
又号不断光 又号難思光
又号無称光 号超日月光
無等等 広大会
大心海 無上尊
平等力 大心力
無称仏 婆伽婆
講堂 清浄大摂受
不可思議尊 道場樹
真無量 清浄楽
本願功徳聚 清浄勲
功徳蔵 無極尊
南無不可思議光」已上略抄也
『十住毘婆娑論』(易行品)曰
「自在人 我礼 清浄人 帰命
無量徳 称讃」 已上
讃阿弥陀仏偈和讃 愚禿親鸞作
南無阿弥陀仏
<第一首>
弥陀成仏のこのかたは いまに十劫をへたまえり
法身の光輪きわもなく 世の盲冥をてらすなり
<第二首>
智慧の光明はかりなし 有量の諸相ことごとく
光暁かぶらぬものはなし 真実明に帰命せよ
<第三首>
解脱の光輪きわもなし 光触かぶるものはみな
有無をはなるとのべたまう 平等覚に帰命せよ
<第四首>
光雲無碍如虚空 一切の有碍にさわりなし
光沢かぶらぬものぞなき 難思議を帰命せよ
<第五首>
清浄光明ならびなし 遇斯光のゆえなれば
一切の業繋ものぞこりぬ 畢竟依を帰命せよ
<第六首>
仏光照曜最第一 光炎王仏となづけたり
三塗の黒闇ひらくなり 大応供を帰命せよ
<第七首>
道光明朗超絶せり 清浄光仏ともうすなり
ひとたび光照かぶるもの 業垢をのぞき解脱をう
<第八首>
慈光はるかにかぶらしめ ひかりのいたるところには
法喜をうとぞのべたまう 大安慰を帰命せよ
<第九首>
無明の闇を破するゆえ 智慧光仏となづけたり
一切諸仏三乗衆 ともに嘆誉したまえり
<第十首>
光明てらしてたえざれば 不断光仏となづけたり
聞光力のゆえなれば 心不断にて往生す
<第十一首>
仏光測量なきゆえに 難思光仏となづけたり
諸仏は往生嘆じつつ 弥陀の功徳を称せしむ
<第十二首>
神光の離相をとかざれば 無称光仏となづけたり
因光成仏のひかりをば 諸仏の嘆ずるところなり
<第十三首>
光明月日に勝過して 超日月光となづけたり
釈迦嘆じてなおつきず 無等等を帰命せよ
<第十四首>
弥陀初会の聖衆は 算数のおよぶことぞなき
浄土をねがわんひとはみな 広大会を帰命せよ
<第十五首>
安楽無量の大菩薩 一生補処にいたるなり
普賢の徳に帰してこそ 穢国にかならず化するなれ
<第十六首>
十方衆生のためにとて 如来の法蔵あつめてぞ
本願弘誓に帰せしむる 大心海を帰命せよ
<第十七首>
観音勢至もろともに 慈光世界を照曜し
有縁を度してしばらくも 休息あることなかりけり
<第十八首>
安楽浄土にいたるひと 五濁悪世にかえりては
釈迦牟尼仏のごとくにて 利益衆生はきわもなし
<第十九首>
神力自在なることは 測量すべきことぞなき
不思議の徳をあつめたり 無上尊を帰命せよ
<第二十首>
安楽声聞菩薩衆 人天智慧ほがらかに
身相荘厳みなおなじ 他方に順じて名をつらぬ
<第二十一首>
顔容端正たぐいなし 精微妙躯非人天
虚無之身無極体 平等力を帰命せよ
<第二十二首>
安楽国をねがうひと 正定聚にこそ住すなれ
邪定不定聚くにになし 諸仏讃嘆したまえり
<第二十三首>
十方諸有の衆生は 阿弥陀至徳の御名をきき
真実信心いたりなば おおきに所聞を慶喜せん
<第二十四首>
若不生者のちかいゆえ 信楽まことにときいたり
一念慶喜するひとは 往生かならずさだまりぬ
<第二十五首>
安楽仏土の依正は 法蔵願力のなせるなり
天上天下にたぐいなし 大心力を帰命せよ
<第二十六首>
安楽国土の荘厳は 釈迦無碍のみことにて
とくともつきじとのべたもう 無称仏を帰命せよ
<第二十七首>
已今当の往生は この土の衆生のみならず
十方仏土よりきたる 無量無数不可計なり
<第二十八首>
阿弥陀仏の御名をきき 歓喜讃仰せしむれば
功徳の宝を具足して 一念大利無上なり
<第二十九首>
たとい大千世界に みてらん火をもすぎゆきて
仏の御名をきくひとは ながく不退にかなうなり
<第三十首>
神力無極の阿弥陀は 無量の諸仏ほめたまう
東方恒沙の仏国より 無数の菩薩ゆきたまう
<第三十一首>
自余の九方の仏国も 菩薩の往覲みなおなじ
釈迦牟尼如来偈をときて 無量の功徳をほめたまう
<第三十二首>
十方の無量菩薩衆 徳本うえんためにとて
恭敬をいたし歌嘆す みなひと婆伽婆を帰命せよ
<第三十三首>
七宝講堂道場樹 方便化身の浄土なり
十方来生きわもなし 講堂道場礼すべし
<第三十四首>
妙土広大超数限 本願荘厳よりおこる
清浄大摂受に 稽首帰命せしむべし
<第三十五首>
自利利他円満して 帰命方便巧荘厳
こころもことばもたえたれば 不可思議尊を帰命せよ
<第三十六首>
神力本願及満足 明了堅固究竟願
慈悲方便不思議なり 真無量を帰命せよ
<第三十七首>
宝林宝樹微妙音 自然清和の伎楽にて
哀婉雅亮すぐれたり 清浄楽を帰命せよ
<第三十八首>
七宝樹林くににみつ 光曜たがいにかがやけり
華菓枝葉またおなじ 本願功徳聚を帰命せよ
<第三十九首>
清風宝樹をふくときは いつつの音声いだしつつ
宮商和して自然なり 清浄勲を礼すべし
<第四十首>
一一のはなのなかよりは 三十六百千億の
光明てらしてほがらかに いたらぬところはさらになし
<第四十一首>
一一のはなのなかよりは 三十六百千億の
仏身もひかりもひとしくて 相好金山のごとくなり
<第四十二首>
相好ごとに百千の ひかりを十方にはなちてぞ
つねに妙法ときひろめ 衆生を仏道にいらしむる
<第四十三首>
七宝の宝池いさぎよく 八功徳水みちみてり
無漏の依果不思議なり 功徳蔵を帰命せよ
<第四十四首>
三塗苦難ながくとじ 但有自然快楽音
このゆえ安楽となづけたり 無極尊を帰命せよ
<第四十五首>
十方三世の無量慧 おなじく一如に乗じてぞ
二智円満道平等 摂化随縁不思議なり
<第四十六首>
弥陀の浄土に帰しぬれば すなわち諸仏に帰するなり
一心をもちて一仏を ほむるは無碍人をほむるなり
<第四十七首>
信心歓喜慶所聞 乃曁一念至心者
南無不可思議光仏 頭面に礼したてまつれ
<第四十八首>
仏慧功徳をほめしめて 十方の有縁にきかしめん
信心すでにえんひとは つねに仏恩報ずべし
已上四十八首 愚禿親鸞作
阿弥陀如来 観世音菩薩
大勢至菩薩
釈迦牟尼如来 富楼那尊者
大目 連
阿難尊者
頻婆娑羅王 韋提夫人
耆婆大臣
月光大臣
提婆尊者 阿闍世王
雨行大臣
守門者
浄土和讃 愚禿親鸞作
観経意 九首
<第一首>
恩徳広大釈迦如来 韋提夫人に勅してぞ
光台現国のそのなかに 安楽世界をえらばしむ
<第二首>
頻婆娑羅王勅せしめ 宿因その期をまたずして
仙人殺害のむくいには 七重のむろにとじられき
<第三首>
阿闍世王は瞋怒して 我母是賊としめしてぞ
無道に母を害せんと つるぎをぬきてむかいける
<第四首>
耆婆月光ねんごろに 是旃陀羅とはじしめて
不宜住此と奏してぞ 闍王の逆心いさめける
<第五首>
耆婆大臣おさえてぞ 却行而退せしめつつ
闍王つるぎをすてしめて 韋提をみやに禁じける
<第六首>
弥陀釈迦方便して 阿難目連富楼那韋提
達多闍王頻婆娑羅 耆婆月光行雨等
<第七首>
大聖おのおのもろともに 凡愚底下のつみびとを
逆悪もらさぬ誓願に 方便引入せしめけり
<第八首>
釈迦韋提方便して 浄土の機縁熟すれば
雨行大臣証として 闍王逆悪興ぜしむ
<第九首>
定散諸機各別の 自力の三心ひるがえし
如来利他の信心に 通入せんとねがうべし
已上観経意
弥陀経意 五首
<第一首>
十方微塵世界の 念仏の衆生をみそなわし
摂取してすてざれば 阿弥陀となづけたてまつる
<第二首>
恒沙塵数の如来は 万行の少善きらいつつ
名号不思議の信心を ひとしくひとえにすすめしむ
<第三首>
十方恒沙の諸仏は 極難信ののりをとき
五濁悪世のためにとて 証誠護念せしめたり
<第四首>
諸仏の護念証誠は 悲願成就のゆえなれば
金剛心をえんひとは 弥陀の大恩報ずべし
<第五首>
五濁悪時悪世界 濁悪邪見の衆生には
弥陀の名号あたえてぞ 恒沙の諸仏すすめたる
已上弥陀経意
諸経のこころによりて
弥陀和讃 九首
<第一首>
無明の大夜をあわれみて 法身の光輪きわもなく
無碍光仏としめしてぞ 安養界に影現する
<第二首>
久遠実成阿弥陀仏 五濁の凡愚をあわれみて
釈迦牟尼仏としめしてぞ 迦耶城には応現する
<第三首>
百千倶胝の劫をへて 百千倶胝のしたをいだし
したごと無量のこえをして 弥陀をほめんになおつきじ
<第四首>
大聖易往とときたまう 浄土をうたがう衆生をば
無眼人とぞなづけたる 無耳人とぞのべたまう
<第五首>
無上上は真解脱 真解脱は如来なり
真解脱にいたりてぞ 無愛無疑とはあらわるる
<第六首>
平等心をうるときを 一子地となづけたり
一子地は仏性なり 安養にいたりてさとるべし
<第七首>
如来すなわち涅槃なり 涅槃を仏性となづけたり
凡地にしてはさとられず 安養にいたりて証すべし
<第八首>
信心よろこぶそのひとを 如来とひとしとときたまう
大信心は仏性なり 仏性すなわち如来なり
<第九首>
衆生有碍のさとりにて 無碍の仏智をうたがえば
曾婆羅頻陀羅地獄にて 多劫衆苦にしずむなり
已上諸経意
現世利益和讃 十五首
<第一首>
阿弥陀如来来化して 息災延命のためにとて
金光明の寿量品 ときおきたまえるみのりなり
<第二首>
山家の伝教大師は 国土人民をあわれみて
七難消滅の誦文には 南無阿弥陀仏をとなうべし
<第三首>
一切の功徳にすぐれたる 南無阿弥陀仏をとなうれば
三世の重障みなながら かならず転じて軽微なり
<第四首>
南無阿弥陀仏をとなうれば この世の利益きわもなし
流転輪回のつみきえて 定業中夭のぞこりぬ
<第五首>
南無阿弥陀仏をとなうれば 梵王帝釈帰敬す
諸天善神ことごとく よるひるつねにまもるなり
<第六首>
南無阿弥陀仏をとなうれば 四天大王もろともに
よるひるつねにまもりつつ よろずの悪鬼をちかづけず
<第七首>
南無阿弥陀仏をとなうれば 堅牢地祇は尊敬す
かげとかたちとのごとくにて よるひるつねにまもるなり
<第八首>
南無阿弥陀仏をとなうれば 難陀跋難大龍等
無量の龍神尊敬し よるひるつねにまもるなり
<第九首>
南無阿弥陀仏をとなうれば 炎魔法王尊敬す
五道の冥官みなともに よるひるつねにまもるなり
<第十首>
南無阿弥陀仏をとなうれば 他化天の大魔王
釈迦牟尼仏のみまえにて まもらんとこそちかいしか
<第十一首>
天神地祇はことごとく 善鬼神となづけたり
これらの善神みなともに 念仏のひとをまもるなり
<第十二首>
願力不思議の信心は 大菩提心なりければ
天地にみてる悪鬼神 みなことごとくおそるなり
<第十三首>
南無阿弥陀仏をとなうれば 観音勢至はもろともに
恒沙塵数の菩薩と かげのごとくに身にそえり
<第十四首>
無碍光仏のひかりには 無数の阿弥陀ましまして
化仏おのおのことごとく 真実信心をまもるなり
<第十五首>
南無阿弥陀仏をとなうれば 十方無量の諸仏は
百重千重囲繞して よろこびまもりたまうなり
已上現世利益
首楞厳経によりて大勢至菩薩
和讃したてまつる 八首
<第一首>
勢至念仏円通して 五十二菩薩もろともに
すなわち座よりたたしめて 仏足頂礼せしめつつ
<第二首>
教主世尊にもうさしむ 往昔恒河沙劫に
仏世にいでたまえりき 無量光ともうしけり
<第三首>
十二の如来あいつぎて 十二劫をへたまえり
最後の如来をなづけてぞ 超日月光ともうしける
<第四首>
超日月光この身には 念仏三昧おしえしむ
十方の如来は衆生を 一子のごとく憐念す
<第五首>
子の母をおもうがごとくにて 衆生仏を憶すれば
現前当来とおからず 如来を拝見うたがわず
<第六首>
染香人のその身には 香気あるがごとくなり
これをすなわちなづけてぞ 香光荘厳ともうすなる
<第七首>
われもと因地にありしとき 念仏の心をもちてこそ
無生忍にはいりしかば いまこの娑婆界にして
<第八首>
念仏のひとを摂取して 浄土に帰せしむるなり
大勢至菩薩の 大恩ふかく報ずべし
已上大勢至菩薩
源空聖人御本地也
高僧和讃 愚禿親鸞作
龍樹菩薩付釈文 十首
<第一首>
本師龍樹菩薩は 智度十住毘婆娑等
つくりておおく西をほめ すすめて念仏せしめたり
<第二首>
南天竺に比丘あらん 龍樹菩薩となづくべし
有無の邪見を破すべしと 世尊はかねてときたまう
<第三首>
本師龍樹菩薩は 大乗無上の法をとき
歓喜地を証してぞ ひとえに念仏すすめける
<第四首>
龍樹大士世にいでて 難行易行のみちおしえ
流転輪回のわれらをば 弘誓のふねにのせたまう
<第五首>
本師龍樹菩薩の おしえをつたえきかんひと
本願こころにかけしめて つねに弥陀を称すべし
<第六首>
不退のくらいすみやかに えんとおもわんひとはみな
恭敬の心に執持して 弥陀の名号称すべし
<第七首>
生死の苦海ほとりなし ひさしくしずめるわれらをば
弥陀弘誓のふねのみぞ のせてかならずわたしける
<第八首>
智度論にのたまわく 如来は無上法皇なり
菩薩は法臣としたまいて 尊重すべきは世尊なり
<第九首>
一切菩薩ののたまわく われら因地にありしとき
無量劫をへめぐりて 万善諸行を修せしかど
<第十首>
恩愛はなはだたちがたく 生死はなはだつきがたし
念仏三昧行じてぞ 罪障を滅し度脱せし
已上龍樹菩薩
天親菩薩 付釈文 十首
<第一首>
釈迦の教法おおけれど 天親菩薩はねんごろに
煩悩成就のわれらには 弥陀の弘誓をすすめしむ
<第二首>
安養浄土の荘厳は 唯仏与仏の知見なり
究竟せること虚空にして 広大にして辺際なし
<第三首>
本願力にあいぬれば むなしくすぐるひとぞなき
功徳の宝海みちみちて 煩悩の濁水へだてなし
<第四首>
如来浄華の聖衆は 正覚のはなより化生して
衆生の願楽ことごとく すみやかにとく満足す
<第五首>
天人不動の聖衆は 弘誓の智海より生ず
心業の功徳清浄にて 虚空のごとく差別なし
<第六首>
天親論主は一心に 無碍光に帰命す
本願力に乗ずれば 報土にいたるとのべたまう
<第七首>
尽十方の無碍光仏 一心に帰命するをこそ
天親論主のみことには 願作仏心とのべたまえ
<第八首>
願作仏の心はこれ 度衆生のこころなり
度衆生の心はこれ 利他真実の信心なり
<第九首>
信心すなわち一心なり 一心すなわち金剛心
金剛心は菩提心 この心すなわち他力なり
<第十首>
願土にいたればすみやかに 無上涅槃を証してぞ
すなわち大悲をおこすなり これを回向となづけたり
已上天親菩薩
曇鸞和尚 付釈文 三十四首
<第一首>
本師曇鸞和尚は 菩提流支のおしえにて 仙経ながくやきすてて 浄土にふかく帰せしめき
<第二首>
四論の講説さしおきて 本願他力をときたまい
具縛の凡衆をみちびきて 涅槃のかどにぞいらしめし
<第三首>
世俗の君子幸臨し 勅して浄土のゆえをとう
十方仏国浄土なり なにによりてか西にある
<第四首>
鸞師こたえてのたまわく わが身は智慧あさくして
いまだ地位にいらざれば 念力ひとしくおよばれず
<第五首>
一切道俗もろともに 帰すべきところぞさらになき
安楽勧帰のこころざし 鸞師ひとりさだめたり
<第六首>
巍の主勅して并州の 大巌寺にぞおわしける
ようやくおわりにのぞみては 汾州にうつりたまいにき
<第七首>
巍の天子はとうとみて 神鸞とこそ号せしか
おわせしところのその名をば 鸞公厳とぞなづけたる
<第八首>
浄業さかりにすすめつつ 玄忠寺にぞおわしける
巍の興和四年に 遥山寺にこそうつりしか
<第九首>
六十有七ときいたり 浄土の往生とげたまう
そのとき霊瑞不思議にて 一切道俗帰敬しき
<第十首>
君子ひとえにおもくして 勅宣くだしてたちまちに
汾州汾西秦陵の 勝地に霊廟たてたまう
<第十一首>
天親菩薩のみことをも 鸞師ときのべたまわずは
他力広大威徳の 心行いかでかさとらまし
<第十二首>
本願円頓一乗は 逆悪摂すと信知して
煩悩菩提体無二と すみやかにとくさとらしむ
<第十三首>
いつつの不思議をとくなかに 仏法不思議にしくぞなき
仏法不思議ということは 弥陀の弘誓になづけたり
<第十四首>
弥陀の回向成就して 往相還相ふたつなり
これらの回向によりてこそ 心行ともにえしむなれ
<第十五首>
往相の回向ととくことは 弥陀の方便ときいたり
悲願の信行えしむれば 生死すなわち涅槃なり
<第十六首>
還相の回向ととくことは 利他教化の果をえしめ
すなわち諸有に回入して 普賢の徳を修するなり
<第十七首>
論主の一心ととけるをば 曇鸞大師のみことには
煩悩成就のわれらが 他力の信とのべたまう
<第十八首>
尽十方の無碍光は 無明のやみをてらしつつ
一念歓喜するひとを かならず滅度にいたらしむ
<第十九首>
無碍光の利益より 威徳広大の信をえて
かならず煩悩のこおりとけ すなわち菩提のみずとなる
<第二十首>
罪障功徳の体となる こおりとみずのごとくにて
こおりおおきにみずおおし さわりおおきに徳おおし
<第二十一首>
名号不思議の海水は 逆謗の屍骸もとどまらず
衆悪の万川帰しぬれば 功徳のうしおに一味なり
<第二十二首>
尽十方無碍光の 大悲大願の海水に
煩悩の衆流帰しぬれば 智慧にうしおに一味なり
<第二十三首>
安楽仏国に生ずるは 畢竟成仏の道路にて
無上の方便なりければ 諸仏浄土をすすめけり
<第二十四首>
諸仏三業荘厳して 畢竟平等なることは
衆生虚誑の身口意を 治せんがためとのべたまう
<第二十五首>
安楽仏国にいたるには 無上宝珠の名号と
真実信心ひとつにて 無別道故とときたまう
<第二十六首>
如来清浄本願の 無生の生なりければ
本則三三の品なれど 一二もかわることぞなき
<第二十七首>
無碍光如来の名号と かの光明智相とは
無明長夜の闇を破し 衆生の志願をみてたまう
<第二十八首>
不如実修行といえること 鸞師釈してのたまわく
一者信心あつからず 若存若亡するゆえに
<第二十九首>
二者信心一ならず 決定なきゆえなれば
三者信心相続せず 余念間故とのべたまう
<第三十首>
三信展転相成す 行者こころをとどむべし
信心あつからざるゆえに 決定の信なかりけり
<第三十一首>
決定の信なきゆえに 念相続せざるなり
念相続せざるゆえ 決定の信をえざるなり
<第三十二首>
決定の信をえざるゆえ 信心不淳とのべたまう
如実修行相応は 信心ひとつにさだめたり
<第三十三首>
万行諸善の小路より 本願一実の大道に
帰入しぬれば涅槃の さとりはすなわちひらくなり
<第三十四首>
本師曇鸞大師をば 粱の天子蕭王は
おわせしかたにつねにむき 鸞菩薩とぞ礼しける
已上曇鸞和尚
道綽禅師 付釈文 七首
<第一首>
本師道綽禅師は 聖道万行さしおきて
唯有浄土一門を 通入すべきみちととく
<第二首>
本師道綽大師は 涅槃の広業さしおきて
本願他力をたのみつつ 五濁の群生すすめしむ
<第三首>
末法五濁の衆生は 聖道の修行せしむとも
ひとりも証をえじとこそ 教主世尊はときたまえ
<第四首>
鸞師のおしえをうけつたえ 綽和尚はもろともに
在此起心立行は 此是自力とさだめたり
<第五首>
濁世の起悪造罪は 暴風駛雨にことならず
諸仏これらをあわれみて すすめて浄土に帰せしめり
<第六首>
一形悪をつくれども 専精にこころをかけしめて
つねに念仏せしむれば 諸障自然にのぞこりぬ
<第七首>
縦令一生造悪の 衆生引接のためにとて
称我名字と願じつつ 若不生者とちかいたり
已上道綽大師
善導大師 付釈文 二十六首
<第一首>
大心海より化してこそ 善導和尚とおわしけれ
末代濁世のためにとて 十方諸仏に証をこう
<第二首>
世世に善導いでたまい 法照少康としめしつつ
功徳蔵をひらきてぞ 諸仏の本意とげたまう
<第三首>
弥陀の名願によらざれば 百千万劫すぐれども
いつつのさわりはなれねば 女身をいかでか転ずべき
<第四首>
釈迦は要門ひらきつつ 定散諸機をこしらえて
正雑二行方便し ひとえに専修をすすめしむ
<第五首>
助正ならべて修するをば すなわち雑修となづけたり
一心をえざるひとなれば 仏恩報ずるこころなし
<第六首>
仏号むねと修すれども 現世をいのる行者をば
これも雑修となづけてぞ 千中無一ときらわるる
<第七首>
こころはひとつにあらねども 雑行雑修これにたり
浄土の行にあらぬをば ひとえに雑行となづけたり
<第八首>
善導大師証をこい 定散二心をひるがえし
貪瞋二河の譬喩をとき 弘願の信心守護せしむ
<第九首>
経道滅尽ときいたり 如来出世の本意なる
弘願真宗にあいぬれば 凡夫念じてさとるなり
<第十首>
仏法力の不思議には 諸邪業繋さわらねば
弥陀の本弘誓願を 増上縁となづけたり
<第十一首>
願力成就の報土には 自力の心行いたらねば
大小聖人みなながら 如来の弘誓に乗ずなり
<第十二首>
煩悩具足と信知して 本願力に乗ずれば
すなわち穢身すてはてて 法性常楽証せしむ
<第十三首>
釈迦弥陀は慈悲の父母 種種に善巧方便し
われらが無上の信心を 発起せしめたまいけり
<第十四首>
真心徹到するひとは 金剛心なりければ
三品の懺悔するひとと ひとしと宗師はのたまえり
<第十五首>
五濁悪世のわれらこそ 金剛の信心ばかりにて
ながく生死をすてはてて 自然の浄土にいたるなれ
<第十六首>
金剛堅固の信心の さだまるときをまちえてぞ
弥陀の心光摂護して ながく生死をへだてける
<第十七首>
真実信心えざるをば 一心かけぬとおしえたり
一心かけたるひとはみな 三信具せずとおもうべし
<第十八首>
利他の信楽うるひとは 願に相応するゆえに
教と仏語にしたがえば 外の雑縁さらになし
<第十九首>
真宗念仏ききえつつ 一念無疑なるをこそ
希有最勝人とほめ 正念をうとはさだめたれ
<第二十首>
本願相応せざるゆえ 雑縁きたりみだるなり
信心乱失するをこそ 正念うすとはのべたまえ
<第二十一首>
心は願より生ずれば 念仏成仏自然なり
自然はすなわち報土なり 証大涅槃うたがわず
<第二十二首>
五濁増のときいたり 疑謗のともがらおおくして
道俗ともにあいきらい 修するをみてはあたをなす
<第二十三首>
本願毀滅のともがらは 生盲闡提となづけたり
大地微塵劫をへて ながく三途にしずむなり
<第二十四首>
西路を指授せしかども 自障障他せしほどに
曠劫已来もいたずらに むなしくこそはすぎにけれ
<第二十五首>
弘誓のちからをかぶらずは いずれのときにか娑婆をいでん
仏恩ふかくおもいつつ つねに弥陀を念ずべし
<第二十六首>
娑婆永劫の苦をすてて 浄土無為を期すること
本師釈迦のちからなり 長時に慈恩を報ずべし
已上善導大師
源信大師 付釈文 十首
<第一首>
源信和尚ののたまわく われこれ故仏とあらわれて
化縁すでにつきぬれば 本土にかえるとしめしけり
<第二首>
本師源信ねんごろに 一代仏教のそのなかに
念仏一門ひらきてぞ 濁世末代おしえける
<第三首>
霊山聴衆とおわしける 源信僧都のおしえには
報化二土をおしえてぞ 専雑の得失さだめたる
<第四首>
本師源信和尚は 懐感禅師の釈により
処胎経をひらきてぞ 懈慢界をばあらわせる
<第五首>
専修のひとをほむるには 千無一失とおしえたり
雑修のひとをきらうには 万不一生とのべたまう
<第六首>
報の浄土の往生は おおからずとぞあらわせる
化土にうまるる衆生をば すくなからずとおしえたり
<第七首>
男女貴賎ことごとく 弥陀の名号称するに
行住座臥もえらばれず 時処諸縁もさわりなし
<第八首>
煩悩にまなこさえられて 摂取の光明みざれども
大悲ものうきことなくて つねにわが身をてらすなり
<第九首>
弥陀の報土をねがうひと 外儀のすがたはことなりと
本願名号信受して 寤寐にわするることなかれ
<第十首>
極悪深重の衆生は 他の方便さらになし
ひとえに弥陀を称してぞ 浄土にうまるとのべたまう
已上源信大師
源空聖人 付釈文 二十首
<第一首>
本師源空世にいでて 弘願の一乗ひろめつつ
日本一州ことごとく 浄土の機縁あらわれぬ
<第二首>
智慧光のちからより 本師源空あらわれて
浄土真宗をひらきつつ 選択本願のべたまう
<第三首>
善導源信すすむとも 本師源空ひろめずは
片州濁世のともがらは いかでか真宗をさとらまし
<第四首>
曠劫多生のあいだにも 出離の強縁しらざりき
本師源空いまさずは このたびむなしくすぎなまし
<第五首>
源空三五のよわいにて 無常のことわりさとりつつ
厭離の素懐をあらわして 菩提のみちにぞいらしめし
<第六首>
源空智行の至徳には 聖道諸宗の師主も
みなもろともに帰せしめて 一心金剛の戒師とす
<第七首>
源空存在せしときに 金色の光明はなたしむ
禅定博陸まのあたり 拝見せしめたまいけり
<第八首>
本師源空の本地をば 世俗のひとびとあいつたえ
綽和尚と称せしめ あるいは善導としめしけり
<第九首>
源空勢至と示現し あるいは弥陀と顕現す
上皇群臣尊敬し 京夷庶民欽仰す
<第十首>
承久の太上法皇は 本師源空を帰敬しき
釈門儒林みなともに ひとしく真宗に悟入せり
<第十一首>
諸仏方便ときいたり 源空ひじりとしめしつつ
無上の信心おしえてぞ 涅槃のかどをばひらきける
<第十二首>
真の知識にあうことは かたきがなかになおかたし
流転輪回のきわなきは 疑情のさわりにしくぞなき
<第十三首>
源空光明はなたしめ 門徒につねにみせしめき
賢哲愚夫もえらばれず 豪貴鄙賎もへだてなし
<第十四首>
命終その期ちかづきて 本師源空のたまわく
往生みたびになりぬるに このたびことにとげやすし
<第十五首>
源空みずからのたまわく 霊山会上にありしとき
声聞僧にまじわりて 頭陀を行じて化度せしむ
<第十六首>
粟散片州に誕生して 念仏宗をひろめしむ
衆生化度のためにとて この土にたびたびきたらしむ
<第十七首>
阿弥陀如来化してこそ 本師源空としめしけれ
化縁すでにつきぬれば 浄土にかえりたまいにき
<第十八首>
本師源空のおわりには 光明紫雲のごとくなり
音楽哀婉雅亮にて 異香みぎりに暎芳す
<第十九首>
道俗男女預参し 卿上雲客群集す
頭北面西右脇にて 如来涅槃の儀をまもる
<第二十首>
本師源空命終時 建暦第二壬申歳 初春下旬第五日 浄土に還帰せしめけり
已上源空聖人
已上七高僧和讃 一百十七首
五濁悪世の衆生の 選択本願信ずれば
不可称不可説不可思議の 功徳は行者の身にみてり
天竺 龍樹菩薩
天親菩薩
震旦 曇鸞和尚
道綽禅師
善導禅師
和朝 源信和尚
源空聖人 已上七人
聖徳太子 敏達天皇元年
正月一日誕生したまう
当仏滅後一千五百二十一年也
南無阿弥陀仏をとけるには 善海水のごとくなり
かの清浄の善身にえたり ひとしく衆生に回向せん
正像末和讃
康元二歳丁巳二月九日夜
寅時夢告云
弥陀の本願信ずべし 本願信ずるひとはみな
摂取不捨の利益にて 無上覚をばさとるなり
正像末浄土和讃
愚禿善信集
<第一首>
釈迦如来かくれましまして 余年になりたまう 正像の二時はおわりにき 如来の遺弟悲泣せよ
<第二首>
末法五濁の有情の 行証かなわぬときなれば 釈迦の遺法ことごとく 龍宮にいりたまいにき
<第三首>
正像末の三時には 弥陀の本願ひろまれり 像季末法のこの世には 諸善龍宮にいりたまう
<第四首>
大集経にときたまう この世は第五の五百年 闘諍堅固なるゆえに 白法隠滞したまえり
<第五首>
数万歳の有情も 果報ようやくおとろえて 二万歳にいたりては 五濁悪世の名をえたり
<第六首>
劫濁のときうつるには 有情ようやく身小なり
五濁悪邪まさるゆえ 毒蛇悪龍のごとくなり
<第七首>
無明煩悩しげくして 塵数のごとく遍満す
愛憎違順することは 高峯岳山にことならず
<第八首>
有情の邪見熾盛にて 叢林棘刺のごとくなり
念仏の信者を疑謗して 破壊瞋毒さかりなり
<第九首>
命濁中夭刹那にて 依正二報滅亡し
背正帰邪まさるゆえ 横にあたをぞおこしける
<第十首>
末法第五の五百年 この世の一切有情の
如来の悲願を信ぜずは 出離その期はなかるべし
<第十一首>
九十五種世をけがす 唯仏一道きよくます
菩提に出到してのみぞ 火宅の利益は自然なる
<第十二首>
五濁の時機いたりては 道俗ともにあらそいて
念仏信ずるひとをみて 疑謗破滅さかりなり
<第十三首>
菩提をうまじきひとはみな 専修念仏にあたをなす
頓教毀滅のしるしには 生死の大海きわもなし
<第十四首>
正法の時機とおもえども 底下の凡愚となれる身は
清浄真実のこころなし 発菩提心いかがせん
<第十五首>
自力聖道の菩提心 こころもことばもおよばれず
常没流転の凡愚は いかでか発起せしむべき
<第十六首>
三恒河沙の諸仏の 出世のみもとにありしとき
大菩提心おこせども 自力かなわで流転せり
<第十七首>
像末五濁の世となりて 釈迦の遺教かくれしむ
弥陀の悲願ひろまりて 念仏往生さかりなり
<第十八首>
超世無上に摂取し 選択五劫思惟して
光明寿命の誓願を 大悲の本としたまえり
<第十九首>
浄土の大菩提心は 願作仏心をすすめしむ
すなわち願作仏心を 度衆生心となづけたり
<第二十首>
度衆生心ということは 弥陀智願の回向なり
回向の信楽うるひとは 大般涅槃をさとるなり
<第二十一首>
如来の回向に帰入して 願作仏心をうるひとは
自力の回向をすてはてて 利益有情はきわもなし
<第二十二首>
弥陀の智願海水に 他力の信水いりぬれば
真実報土のならいにて 煩悩菩提一味なり
<第二十三首>
如来二種の回向を ふかく信ずるひとはみな
等正覚にいたるゆえ 憶念の心はたえぬなり
<第二十四首>
弥陀智願の回向の 信楽まことにうるひとは
摂取不捨の利益ゆえ 等正覚にいたるなり
<第二十五首>
五十六億七千万 弥勒菩薩はとしをへん
まことの信心うるひとは このたびさとりをひらくべし
<第二十六首>
念仏往生の願により 等正覚にいたるひと
すなわち弥勒におなじくて 大般涅槃をさとるべし
<第二十七首>
真実信心うるゆえに すなわち定聚にいりぬれば
補処の弥勒におなじくて 無上覚をさとるなり
<第二十八首>
像法のときの智人も 自力の諸教をさしおきて
時機相応の法なれば 念仏門にぞいりたまう
<第二十九首>
弥陀の尊号となえつつ 信楽まことにうるひとは
憶念の心つねにして 仏恩報ずるおもいあり
<第三十首>
五濁悪世の有情の 選択本願信ずれば
不可称不可説不可思議の 功徳は行者の身にみてり
<第三十一首>
無碍光仏のみことには 未来の有情利せんとて
大勢至菩薩に 智慧の念仏さずけしむ
<第三十二首>
濁世の有情をあわれみて 勢至念仏すすめしむ
信心のひとを摂取して 浄土に帰入せしめけり
<第三十三首>
釈迦弥陀の慈悲よりぞ 願作仏心はえしめたる
信心の智慧にいりてこそ 仏恩報ずる身とはなれ
<第三十四首>
智慧の念仏うることは 法蔵願力のなせるなり
信心の智慧なかりせば いかでか涅槃をさとらまし
<第三十五首>
無明長夜の燈炬なり 智眼くらしとかなしむな
生死大海の船筏なり 罪障おもしとなげかざれ
<第三十六首>
願力無窮にましませば 罪業深重もおもからず
仏智無辺にましませば 散乱放逸もすてられず
<第三十七首>
如来の作願をたずぬれば 苦悩の有情をすてずして
回向を首としたまいて 大悲心をば成就せり
<第三十八首>
真実信心の称名は 弥陀回向の法なれば
不回向となづけてぞ 自力の称念きらわるる
<第三十九首>
弥陀智願の広海に 凡夫善悪の心水も
帰入しぬればすなわちに 大悲心とぞ転ずなる
<第四十首>
造悪このむわが弟子の 邪見放逸さかりにて
末世にわが法破すべしと 蓮華面経にときたまう
<第四十一首>
念仏誹謗の有情は 阿鼻地獄に堕在して
八万劫中大苦悩 ひまなくうくとぞときたまう
<第四十二首>
真実報土の正因を 二尊のみことにたまわりて
正定聚に住すれば かならず滅度をさとるなり
<第四十三首>
十方無量の諸仏の 証誠護念のみことにて
自力の大菩提心の かなわぬほどはしりぬべし
<第四十四首>
真実信心うることは 末法濁世にまれなりと
恒沙の諸仏の証誠に えがたきほどをあらわせり
<第四十五首>
往相還相の回向に もうあわぬ身となりにせば
流転輪回もきわもなし 苦海の沈淪いかがせん
<第四十六首>
仏智不思議を信ずれば 正定聚にこそ住しけれ
化生のひとは智慧すぐれ 無上覚をぞさとりける
<第四十七首>
不思議の仏智を信ずるを 報土の因としたまえり
信心の正因うることは かたきがなかになおかたし
<第四十八首>
無始流転の苦をすてて 無上涅槃を期すること
如来二種の回向の 恩徳まことに謝しがたし
<第四十九首>
報土の信者はおおからず 化土の行者はかずおおし
自力の菩提かなわねば 久遠劫より流転せり
<第五十首>
南無阿弥陀仏の回向の 恩徳広大不思議にて
往相回向の利益には 還相回向に回入せり
<第五十一首>
往相回向の大慈より 還相回向の大悲をう
如来の回向なかりせば 浄土の菩提はいかがせん
<第五十二首>
弥陀観音大勢至 大願のふねに乗じてぞ
生死のうみにうかみつつ 有情をよぼうてのせたまう
<第五十三首>
弥陀大悲の誓願を ふかく信ぜんひとはみな
ねてもさめてもへだてなく 南無阿弥陀仏をとなうべし
<第五十四首>
聖道門のひとはみな 自力の心をむねとして
他力不思議にいりぬれば 義なきを義とすと信知せり
<第五十五首>
釈迦の教法ましませど 修すべき有情のなきゆえに
さとりうるもの末法に 一人もあらじとときたまう
<第五十六首>
三朝浄土の大師等 哀愍摂受したまいて
真実信心すすめしめ 定聚のくらいにいれしめよ
<第五十七首>
他力の信心うるひとを うやまいおおきによろこべば
すなわちわが親友とぞ 教主世尊はほめたまう
<第五十八首>
如来大悲の恩徳は 身を粉にしても報ずべし
師主知識の恩徳も ほねをくだきても謝すべし
已上正像末法和讃 五十八首
<第一首>
不了仏智のしるしには 如来の諸智を疑惑して
罪福信じ善本を たのめば辺地にとまるなり
<第二首>
仏智の不思議をうたがいて 自力の称念このむゆえ
辺地懈慢にとどまりて 仏恩報ずるこころなし
<第三首>
罪福信ずる行者は 仏智の不思議をうたがいて
疑城胎宮にとどまれば 三宝にはなれたてまつる
<第四首>
仏智疑惑のつみにより 懈慢辺地にとまるなり
疑惑のつみのふかきゆえ 年歳劫数をふるととく
<第五首>
転輪王の王子の 皇につみをうるゆえに
金鎖をもちてつなぎつつ 牢獄にいるがごとくなり
<第六首>
自力称名のひとはみな 如来の本願信ぜねば
うたがうつみのふかきゆえ 七宝の獄にぞいましむる
<第七首>
信心のひとにおとらじと 疑心自力の行者も
如来大悲の恩をしり 称名念仏はげむべし
<第八首>
自力諸善のひとはみな 仏智の不思議をうたがえば
自業自得の道理にて 七宝の獄にぞいりにける
<第九首>
仏智不思議をうたがいて 善本徳本たのむひと
辺地懈慢にうまるれば 大慈大悲はえざりけり
<第十首>
本願疑惑の行者には 含花未出のひともあり
或生辺地ときらいつつ 或堕宮胎とすてらるる
<第十一首>
如来の諸智を疑惑して 信ぜずながらなおもまた
罪福ふかく信ぜしめ 善本修習すぐれたり
<第十二首>
仏智を疑惑するゆえに 胎生のものは智慧もなし
胎宮にかならずうまるるを 牢獄にいるとたとえたり
<第十三首>
七宝の宮殿にうまれては 五百歳のとしをとしをへて
三宝を見聞せざるゆえ 有情利益はさらになし
<第十四首>
辺地七宝の宮殿に 五百歳までいでずして
みずから過咎をなさしめて もろもろの厄をうくるなり
<第十五首>
罪福ふかく信じつつ 善本修習するひとは
疑心の善人なるゆえに 方便化土にとまるなり
<第十六首>
弥陀の本願信ぜねば 疑惑を帯してうまれつつ
はなはすなわちひらけねば 胎に処するにたとえたり
<第十七首>
ときに慈氏菩薩の 世尊にもうしたまいけり
何因何縁いかなれば 胎生化生となづけたる
<第十八首>
如来慈氏にのたまわく 疑惑の心をもちながら
善本修するをたのみにて 胎生辺地にとどまれり
<第十九首>
仏智疑惑のつみゆえに 五百歳まで牢獄に
かたくいましめおわします これを胎生とときたまう
<第二十首>
仏智不思議をうたがいて 罪福信ずる有情は
宮殿にかならずうまるれば 胎生のものとときたまう
<第二十一首>
自力の心をむねとして 不思議の仏智をたのまねば
胎宮にうまれて五百歳 三宝の慈悲にはなれたり
<第二十二首>
仏智の不思議を疑惑して 罪福信じ善本を
修して浄土をねがうをば 胎生というとときたまう
<第二十三首>
仏智うたがうつみふかし この心おもいしるならば
くゆるこころをむねとして 仏智の不思議をたのむべし
已上二十三首仏(智)不思議の弥陀の御ちかいをうたがうつみとがをしらせんとあらわせるなり
愚禿善信作
皇太子聖徳奉讃
<第一首>
仏智不思議の誓願を 聖徳皇のめぐみにて
正定聚に帰入して 補処の弥勒のごとくなり
<第二首>
救世観音大菩薩 聖徳皇と示現して
多多のごとくすてずして 阿摩のごとくにそいたまう
<第三首>
無始よりこのかたこの世まで 聖徳皇のあわれみに
多多のごとくにそいたまい 阿摩のごとくにおわします
<第四首>
聖徳皇のあわれみて 仏智不思議の誓願に
すすめいれしめたまいてぞ 住正定聚の身となれる
<第五首>
他力の信をえんひとは 仏恩報ぜんためにとて
如来二種の回向を 十方にひとしくひろむべし
<第六首>
大慈救世聖徳皇 父のごとくにおわします
大悲救世観世音 母のごとくにおわします
<第七首>
久遠劫よりこの世まで あわれみましますしるしには
仏智不思議につけしめて 善悪浄穢もなかりけり
<第八首>
和国の教主聖徳皇 広大恩徳謝しがたし
一心に帰命したてまつり 奉讃不退ならしめよ
<第九首>
上宮皇子方便し 和国の有情をあわれみて
如来の悲願を弘宣せり 慶喜奉讃せしむべし
<第十首>
多生曠劫この世まで あわれみかぶれるこの身なり
一心帰命たえずして 奉讃ひまなくこのむべし
<第十一首>
聖徳皇のおあわれみに 護持養育たえずして
如来二種の回向に すすめいれしめおわします
已上聖徳皇奉讃 十一首
愚禿悲歎述懐
<第一首>
浄土真宗に帰すれども 真実の心はありがたし
虚仮不実のわが身にて 清浄の心もさらになし
<第二首>
外儀のすがたはひとごとに 賢善精進現ぜしむ
貪瞋邪儀おおきゆえ 奸詐ももはし身にみてり
<第三首>
悪性さらにやめがたし こころは蛇蝎のごとくなり
修善も雑毒なるゆえに 虚仮の行とぞなづけたる
<第四首>
無慚無愧のこの身にて まことのこころはなけれども
弥陀の回向の御名なれば 功徳は十方にみちたまう
<第五首>
小慈小悲もなき身にて 有情利益はおもうまじ
如来の願船いまさずは 苦海をいかでかわたるべき
<第六首>
蛇蝎奸詐のこころにて 自力修善はかなうまじ
如来の回向をたのまでは 無慚無愧にてはてぞせん
<第七首>
五濁増のしるしには この世の道俗ことごとく
外儀は仏教のすがたにて 内心外道を帰敬せり
<第八首>
かなしきかなや道俗の 良時吉日えらばしめ
天神地祇をあがめつつ 卜占祭祀つとめとす
<第九首>
僧ぞ法師のその御名は とうときこととききしかど
提婆五邪の法ににて いやしきものになづけたり
<第十首>
外道梵士尼乾志に こころはかわらぬものとして
如来の法衣をつねにきて 一切鬼神をあがむめり
<第十一首>
かなしきかなやこのごろの 和国の道俗みなともに
仏教の威儀をもととして 天地の鬼神を尊敬す
<第十二首>
五濁邪悪のしるしには 僧ぞ法師という御名を
奴婢僕使となづけてぞ いやしきものとさだめたる
<第十三首>
無戒名字の比丘なれど 末法濁世の世となりて
舎利弗目連にひとしくて 供養恭敬をすすめしむ
<第十四首>
罪業もとよりかたちなし 妄想顛倒のなせるなり
心性もとよりきよけれど この世はまことのひとぞなき
<第十五首>
末法悪世のかなしみは 南都北嶺の仏法者の
輿かく僧達力者法師 高位をもてなす名としたり
<第十六首>
仏法あなずるしるしには 比丘比丘尼を奴婢として
法師僧徒のとうとさも 僕従ものの名としたり
已上十六首これは愚禿がかなしみなげきにして述懐としたり。この世の本寺本山のいみじき僧ともうすも法師ともうすも うきことなり
釈親鸞書之
<第一首>
善光寺の如来の われらをあわれみましまして
なにわのうらにきたります 御名をもしらぬ守屋にて
<第二首>
そのときほとおりけともうしける 疫癘あるいはこのゆえと
守屋がたぐいはみなともに ほとおりけとぞもうしける
<第三首>
やすくすすめんためにとて ほとけと守屋がもうすゆえ
ときの外道みなともに 如来をほとけとさだめたり
<第四首>
この世の仏法のひとはみな 守屋がことばをもととして
ほとけともうすをたのみにて 僧ぞ法師はいやしめり
<第五首>
弓削の守屋の大連 邪見きわまりなきゆえに
よろずのものをすすめんと やすくほとけともうしけり
親鸞八十八歳御筆
獲の字は、因位のときうるを獲という。得の字は、果位のときにいたりてうることを得というなり。名の字は、因位のときのなを名という。号の字は、果位のときのなを号という。自然というは、自は、おのずからという。行者のはからいにあらず、しからしむということばなり。然というは、しからしむということば、行者のはからいにあらず、如来のちかいにてあるがゆえに。法爾というは、如来の御ちかいなるがゆえに。しからしむるを法爾という。この法爾は、御ちかいなりけるゆえに、すべて行者のはからいなきをもちて、このゆえに、他力には義なきを義とすとしるべきなり。
自然というは、もとよりしからしむということばなり。弥陀仏の御ちかいの、もとより行者のはからいにあらずして、南無阿弥陀仏とたのませたまいて、むかえんとはからわせたまいたるによりて、行者のよからんともあしからんともおもわぬを、自然とはもうすぞとききてそうろう。ちかいのようは、無上仏にならしめんとちかいたまえるなり。無上仏ともうすは、かたちもなくまします。かたちもましまさぬゆえに、自然とはもうすなり。かたちましますとしめすときは、無上涅槃とはもうさず。かたちもましまさぬようをしらせんとて、はじめに弥陀仏とぞききならいてそうろう。弥陀仏は、自然のようをしらせんりょうなり。この道理をこころえつるのちには、この自然のことは、つねにさたすべきにはあらざるなり。つねに自然をさたせば、義なきを義とすということは、なお義のあるべし。これは仏智の不思議にてあるなり。
よしあしの文字をもしらぬひとはみな まことのこころなりけるを
善悪の字しりがおは おおそらごとのかたちなり
是非しらず邪正もわかぬ このみなり
小慈小悲もなけれども 名利に人師をこのむなり
已上
右斯三帖和讃并正信偈
四帖一部者末代為興際
板木開之者也而已
文明五年 癸巳 三月 日
(蓮如花押)
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