日経の記事 マーケティング No 1
2001・05・01〜
有料老人ホーム 入居金抑制型を拡充 経済新聞 01.5.1 19面
介護大手が入居時の金額負担を大幅に抑えた有料老人ホームを相次いで拡充する。ベネッセコーポレーションの子会社、ベネッセケア(東京・渋谷)は入居金が無料の施設を2001年度中に2倍以上に増やす。ライフコミューン(東京・港)は一律500万円に設定した施設を大幅に増やす。入居金は通常2、3千万円程度かかるが、入居時の負担を軽減して施設の稼働率を引き上げるのが狙い。ベネッセケアは4月中旬に大阪府豊中市と岡山市でそれぞれ1カ所開設し、全国12カ所とした。今年度中に合計15カ所を追加、27カ所に増やす。定員数は昨年度末に比べ約2.5倍の1400人になる。月額利用料は家賃や食費、介護サービスの自己負担分などすべて含めて30万円台でやや高めだが、入居金は無料。ライフコミューンは入居金を一律500万円に設定。入居率は約75%と高水準になっている。17カ所を24カ所に増やす。定員数では前年度比約6割増の1100人となる。
サニーライフ東京(千葉県君津市)の有料老人ホームの入居金は200万−750万円。現在は都内と千葉県に1カ所ずつで展開しており、拡充に向け首都圏を中心に物件の選定を進めている。大企業を中心に経費削減のため福利厚生施設を削減する動きが相次いでいる。施設を入手・改装すれば新築に比べ低コストで有料老人ホームを開設できる。
コメント − 供給者の論理から利用者の論理への進化
入会金・入学金・入居金として、利用の早い段階で多額な費用を徴収する仕組みは、初期費用を回収する上でうまいやり方だ。しかしそれは供給者側の論理であり、運営費以外に募集費や建設費を別途負担するというのは、利用者にとって必ずしも納得のいくものとは言い難い。しかもそれが著しい高額となれば、支払う余裕があるのは高額所得者層に限られる。特注品ならともかく、工業製品なら、製品単価にプラスして設備費を別建てで請求することはない。設備費は限界利益の範囲内でカバーするのが普通だ。となれば、ベネッセケアのように、月額利用料は割高でも、入居金を無料にした方が、まだ納得はいくし、費用負担もしやすい。加えて、多額な入居金のために入居率(稼働率)が低いとなれば、経営的にも合理性を欠くことになる。既存施設の改装による開設など、合理性を追求すれば、利用者にとって納得のいく料金体系の設定は可能となるし、市場の成熟化はその方向への進化を促進していくのだとも言えるだろう。
供給者側の論理による料金設定は、顧客側からみれば合理性を欠き、利用のハードルが高過ぎてしまうかも知れない。自社の設定する商品価格・サービス料金の設定基準を顧客の視点から見直してみよう。
パソコン販売 初心者狙え 日本経済新聞2001.5.8 31面
総合スーパーや百貨店がパソコン販売に再び力を入れている。ブームは一段落し市場の伸びは鈍ったものの、主婦や中高年などの間にはまだまだユーザー予備軍がいる。こうした初心者を取り込むには家電専門店などよりも、生活に身近なスーパー、百貨店に分があるとの読みがあり、周辺機器の品ぞろえやサポート体制を充実させるなど工夫を凝らす。
イトーヨーカ堂は昨年後半以降の新店を中心にパソコン売り場を開設、現在二十七店で展開している。今年度中には既存店改装に合わせて、さらに取扱店舗を三十店増やす計画だ。店あたりの売り場面積は二百平方メートル前後。ソニーの「VAIO」など最新機種を主体に十五品目前後をそろえ、プリンターやデジタルカメラなど周辺機器類も陳列している。同社は九六年にいったんパソコン販売を縮小したが、主要顧客の主婦層などの需要にこたえる狙いで“再挑戦”に踏み切った。すでに十五店に設けているパソコン教室は「駅前などの教室は専門的で気後れがする」という主婦、中高年の受講が目立ち、今後は基本的にパソコン売り場に併設していく。料金は一回二時間月四回のコースで一万二千円。子供が自由にインターネットで遊べる「キッズコーナー」も増やす。
ジャスコも九九年度末に十六店だったパソコン売り場の設置店を現在六十八店まで増やしており、今年度中には百店以上まで拡大する。四店に導入した売り場面積六百六十平方メートル規模の「デジタルワールド」は、初心者向け機種やデジカメ、ゲームソフトなどを一堂に集めた。パソコンのディスプレーには、ビデオカメラで写した店内の映像などを流し、「デジタルライフ」の一例を提案している。
西武百貨店は昨年末、池袋西武(東京・豊島)にNTTエムイー(NTT―ME、東京・千代田)が運営するパソコンショップ「インターネットスタジオ」を開設した。需要拡大が予想される中高年層を取り込む狙いで、丁寧な商品説明や自宅に出向いてのインターネット接続など充実したサポート体制が売り物。これまでに主婦を中心に数十台を販売した。外商の得意客にパソコン購入を促しているほか、カード会員に対しても販促キャンペーンを検討中だ。
コメント − 競争のルールは一つではない
今回の記事によれば、スーパーや百貨店は、当然のことながら、「生活に身近」等、家電量販店とは異なる競争ルールで戦おうとしている。主婦層という常連顧客資産を持つ強みも活かしている。また、パソコンという商品が、専門店で扱われる製品(プロダクト)から、スーパーなどで普通に売られるありふれた日用品(コモディティ)へと急速に位置付けを変えているという見方もできる。既にコモディティ化しているテレビや冷蔵庫、エアコンなどの家電製品は、スーパーで普通に売っている。家電量販店がパソコン販売で業績を伸ばしてきたのは、むしろ今までスーパーがパソコンをまともに扱っていなかったからではないだろうか。コモディティの販売ならスーパーの得意分野のはずだ。価格競争に勝ち残るために規模を追求し、再編が進んでいく家電量販店業界。一方、別次元の競争ルールでパソコン市場への食い込みを狙うスーパー、百貨店。企業の戦略は多元的に展開される。それが面白いと思う。
業界全体が一つの方向に進んでいくように見えても、別の道がないわけではない。競争のルールは一つではないし、戦略の選択肢も多様だ。唯一の正解は存在しないと考えよう。
フィットネスクラブ各社 有料プログラム拡充 日経新聞 01.5.14 19面
フィットネスクラブ各社が月会費とは別に、一回500〜2000円程度の有料プログラムを相次ぎ導入している。ダイエットや生活習慣病予防などのテーマに沿ってよりきめ細かく指導する。各種ダンスや空手など特殊な技能を習得したり、少人数でより専門的なトレーニングを施すメニューも目立つ。多様化する個人会員のニーズを満たし、付帯収入を増やす狙い。
日本体育施設運営(東京・千代田、NAS)では、昨春に全体の約一割だった有料プログラムが現在は約三割を占める。 ディックルネサンス(東京・墨田)は一月から主要店の一つ、ルネサンス住道(大阪府大東市)で実験的に有料プログラムを提供、本格導入へ向けて会員の反応を調べ始めた。フィットネスクラブ各社は利用時間を限定する分、月会費を安く抑えた「限定会員」を多く設定し、会員数を増やしてきた。しかし設備に限りがあるなかで「時間の切り売りも限界に達している」(セントラルスポーツ)といい、この先、会員数や収益を伸ばしにくい事情があった。また、企業が福利厚生コストを圧縮するなかで、法人会員数は低迷。特色のあるメニューづくりで個人会員をつなぎ止める必要に迫られるなど、フィットネスクラブを取り巻く経営環境の変化も有料プログラム拡充の背景にありそうだ。
コメント − 軸足を移動させると発展性が広がる
収益拡大のためにサービスを拡充していくという手法はしばしば使われる。
記事は、フィットネスクラブが有料プログラムを拡充しているというものだ。この有料プログラムは、会員から会費(本質は施設使用料)以外の追加収益を獲得する手段として位置付けることができる。その場合、収益の柱はあくまでも施設使用料であり、軸足はそこにある。既存事業の継続を前提としたプラスアルファ売上追求型の発想だ。会員に売れるものがあれば、フィットネスに無関係なものでもよいかも知れない。
一方、自社が会員に提供するフィットネスという価値を最大化するためには、自分自身のフィットネスを実現することだ。それは、「いかにして施設からの収益を拡大するか」ではなく、「いかなる企業になるべきか」という本質的な命題に取り組むことを意味する。将来的には施設の所有にすらこだわらなくてよくなるかも知れない。
過去からの延長にとらわれず、むしろ現状を否定し、生まれ変わることをビジョンとして考えている。ビジネスとしての「発展性」も、後者の方がはるかに大きく広がるだろう。同じことをやるにしても、軸足を移して事業の再定義を行なうことまで念頭に入れれば、ビジネスの発展性は拡大する。
JTB 「三世代割引」を強化 日経産業新聞 2001.5.18
JTBは国内旅行向けの「三世代割引」を強化する。例年、秋から春にかけて4−6の宿泊施設を対象にしていた割引を今年は夏休み向けにも実施、対象の宿泊施設も21に増やす。エリアもこれまで多かった関東周辺だけでなく、静岡、新潟などに広げる。ここ数年、世代を超えた家族ぐるみの旅行が増えているのに対応する。同社の国内旅行向け「三世代割引」は、親、子供、孫の三世代そろって宿泊を申し込んだ場合、孫の料金を大人(親、子供)の10%の水準に引き下げるもの。通常なら孫の料金は大人の50−70%の水準にとどまるといい、割安さをアピールできる。
対象の宿舎施設はこれまで、湯河原温泉(神奈川県)や水上温泉(群馬県)など関東周辺の施設が多かったが、今回の夏休み向けから熱海温泉・大月ホテル(静岡県)、越後湯沢温泉・湯沢ニューオータニホテル(新潟県)などを追加し、合計21施設に増やした。対象期間は7月14日から9月2日まで。
三世代旅行の需要は拡大している。レジャー消費のけん引役として高齢者が若い女性に代わって台頭。離れて暮らす孫と触れ合いの場を持ちたいというニーズも高い。JTBによると、2000年の同商品の売り上げは前年比5割増。今年も「二ケタ増は見込める」(JTB)という。
コメント − 二重、三重に商品の魅力を訴求する
モノがあり余っている今の世の中だ。価格を下げても、消費者が見向きもしないというのはよくある。商品自体に魅力があり、もう少し安ければ買いたい、と消費者が感じていなければ、割引作戦も成功しない。また、それ以前に、割引価格がまったくインセンティブになっていない場合もある。例えば小売店で時々、レジで2割引します、といったサービスが謳われていることがある。割引してくれるからその商品を買うという意識を持ってレジに向かう消費者はどれだけいるだろうか。レジに行ったら割引してくれると言われ、少し得した気分になることはあるだろうが、購買のインセンティブとしては機能していない。
販売で差別化に成功するには、商品の魅力が一つだけでは物足りない。価格を含め、少なくとも二つ、三つとメリットを訴えてはじめて、買い手の心が大きく動き、購買行動につながると考えておいた方がよいだろう。あなたの扱う商品について、他社商品との差別化ポイントはいくつあるだろうか。
全商品の3割海外調達に 日経流通新聞 01.5.22 22面
作業用衣料・用品チェーン最大手のワークマンは、2005年度3月末までに商品全体の3割を海外調達に切り替える。「今後、全商品の平均価格を毎年一割ずつ下げていく」(同社経営企画部)方針だ。低価格化を武器に、これまで店舗が少なかった東京、神奈川や近畿エリアへの出店を進める。今期は、全体の約1割にあたる600種類の商品を海外調達にする。衣料品や作業用手袋の中国製品への切り替えが中心になる。一束98円の革手袋など、「商品によっては従来の半額程度に価格を引き下げられる」(経営企画部)という。ワークマンは3月末現在、27都県に433店舗を持つ。北関東や南東北、東海地方など「12県でトップシェアを維持している」(同社)。「顧客層の主力を占める建築・工事関係者では景気低迷の影響で、作業服などを作業員の自前調達に切り替える企業が増えている」(同社)ことから、作業服や靴の需要が増大すると判断。販売網の拡大を急ぐ。
コメントー変化を予測してロジカルに対策を考える
全商品の平均価格を毎年1割づつ下げていくというのは、大胆な目標だ。しかし、明確でわかりやすい。低価格を大量出店の武器にするという。作業服などが作業者の自前調達になる傾向が高まると予測し、市場規模(記事によれば、需要)が拡大するという判断に基づいている。なぜ市場規模が拡大するのだろうか。作業員の数が増えるのだろうか。世の中、好景気に沸いているわけではないのだから、それは考えにくい。そうではなく、作業服が自前調達になることにより、彼らが買い物に行く店舗での小売りの市場が拡大するわけだ。今までは企業が作業服を作業者に配給していた。作業服は、企業の総務や労務セクションを通じて購入されていた。作業服が自前調達になれば、そのような購入のされ方=ビジネスモデルは変わっていく。となると、企業向け販売中心の作業服小売業者は厳しくなる。
とは言っても、企業側も苦しくなってきているから、作業服のコストダウンも図らなければならない。究極のコストダウンは、買わないことだ。すなわち、作業員に自前で購入させる。作業員にしてみれば、基本的に今までは無料だったものが有料になるのだから、出来る限り低価格で買いたい。
作業服という商品の購入のされ方が変わる。これは非常に大きな経営環境の変化だと言える。企業のコストダウン要求が作業服に及び、作業員の自前調達になり、店舗での小売が必要になる。顧客が価格に敏感な層にシフトするため、勝つためには低価格品の投入が必要になる。記事から判断する限り、ロジックとしてはこのように整理できるだろう。
戦略策定においては、経営環境の変化をロジックに落とし込み、ビジネスモデルの変化と競争要因を見極め、自社はどのような手を打つべきかを考えていく。
清水建設 ネット接続事業参入 日本経済 01.5.23 11面
清水建設は日立製作所や三菱地所など5社と共同で既存の賃貸マンションや社宅・寮の居住者向けのプロバイダー(インターネット接続会社)事業に参入する。5月末に共同で事業会社を設立、賃貸物件の場合で常時接続3千円弱(加入料2万5千円)の料金でサービスを開始する。入居者をまとめて囲い込める利点を武器に、不動産・建設大手がマンションの販売戦略に高速ネット接続を取り込む動きが増えてきた。
設立するのは「スーパーリージョナル」(東京・港、高橋淳一代表取締役)。資本金は1億2千万円で清水建設が51%、日立製作所が19%、三菱地所が15%、日本リロケーションが10%、残り5%を東京ベンチャーキャピタル(東京・中央、淀川和也社長)と三菱信託銀行が折半出資する。社員は3−5年後に30人強に拡大する。新会社は賃貸マンションや社宅・寮に通信回線を引き込み、棟内回線の整備も請け負う。導入費用は新会社と利用者(社宅・寮の場合は不要)が負担、不動産の所有者は費用負担する必要はない。通信速度は非対称デジタル加入者線(ADSL)と同じ毎秒1.5メガ(メガは100万)ビット。賃貸マンションの場合は専用アダプターの利用権など加入料として最初に2万5千円を支払えば利用料は月額2980円、転勤の多い社宅や寮の場合は加入料がかからない代わりに月3900円に設定、他社のサービスに比べ利用料は半分程度の水準に抑える。2年目以降には会員に対象を絞り込んだコンテンツ(情報の内容)サービスも開始する。ゴルフのワンポイントレッスンなど5分程度の番組を有料で数本用意、会員サービスを向上する。5年後には30万件の会員契約を獲得、売上高80億円を確保する計画だ。
コメントー 軸足の移動はブレイクスルーを生み出す
今や新築のマンションと言えば、インターネットに常時接続できる環境が整っているのが常識だ。物件の魅力を高める差別化サービスとして位置付けられてきたように思う。居住者へのサービスという位置付けであれば、赤字にならなければ上出来というスタンスでもよい。
しかし今回の記事によれば、清水建設はインターネット接続サービスを、一つの独立した収益事業としてとらえている。日経の同じ紙面に隣接した解説記事によれば、その背景にはゼネコンを取り巻く経営環境の厳しさがあるという。集合住宅であれば、ユーザをまとめて囲い込むができる。本業の不振極まって、いよいよ他の収益源を真剣に模索し始めたということだ。
一つのサービスを「付加サービス」と見るか、「新規事業」として見るかにより、取り組みの姿勢は大きく変わってくる。もし単純に、居住者がネットに常時接続する環境を整えてあげようとだけ考えていれば、記事にあるように、有料の番組提供などは思いもつかない。何をやるにしても、その位置付けや自社(自分自身)の軸足がどこにあるのかをしっかりと認識しよう。そして、軸足を移すとしたら何ができるかを考えてみよう。より大きな視野が広がる可能性がある。