∞無限大∞

第1話 〜友達〜

  
悩み多き年頃
何考えてるんだかちっともわからない
むしろ、何を考えていいのかがわからない
今、何を目標にしていいのかもわからない
何か一つ考えるとその考えは百にも膨らむ
その百は千、万、億・・・無限へと・・・
親指と人差し指を合わせて輪を作る
その指を右と左で合わせる
それは『∞ 〜無限大〜』

  
《風間俊介》

今日は嫌なことがあった
食事も摂らずに部屋に閉じこもった
「無限ねぇ・・・」
ベットに寝そべりながら、自分で作った『無限大』の文字を見つめていた
この文字は何を物語っているのだろう
俺の悩み?
俺の考え?
それとも・・・・・・
俺の未来???
年齢を重ねるごとに大きくなるそれは俺の許容範囲を超えていた
何を考えても、何気ない一言もすべて深く考え込んでしまうのだ
文字通りそれは『無限大』

ベットの端に飛ばされていた携帯が目に入った
【メール有り】
ディスプレイにはそう表示されていた
悩み過ぎて、電話がなった音も気付かなかったのかと悲しくなった
それと同時に相手の想像もついた
「あ〜、やっぱりねぇ・・・」
相手は山下だった
メールを読むのを少しためらった
手も読むのを拒否していた
俺は携帯を元の位置に戻し、近くにあった本を手にした
   

―――――話は3時間ほど前
一つの仕事を終え、俺と山下は一緒に帰路に着いた
二人で帰るのは久し振りで話も山ほどあった
遠くなった距離が近づいていた
近くの公園に来たとき、二人の行く方向が逆になった
「じゃぁな」と手を振り、俺は山下に別れを告げた
山下からの返事はなかった
先へ進もうと歩き出す俺、止まったままの山下
いつもならすぐに歩き出す山下に俺は疑問を持った
「どーした?」
俺は山下の近くまで行って話し掛けた
山下は照れくさそうに一言
「風間クンが遠い・・・」
ガタガタと何かが崩れる音がした
山下のその先の言葉を聞き取ることも出来なかった
何が崩れたのか見当もつかなかった
ただ、イライラするものだけが残った
自分に何が起きたのか・・・さっぱりわからなかった
山下に何も告げずに俺はまた歩き出したのだ

   嫌なこと・・・は何?
何が嫌だったのか・・・?
崩れたものは何?
疑問だけしか残らない出来事だった
   

手にとった本をパラパラと目を通していた
一つのフレーズが目に入った
『友達の一言で人生が変わった』
「人生!?」
その本を最初から目を通した
俺と同じ18歳のとき主人公は友人関係で悩んでいた
中学からの親友と高校が別々になった主人公
主人公はその親友との距離に悩んでいたのだ
高校にも友達がいる
でも、横にいて安心するのはその親友だけだった
高校が別々になってなかなか会えなかったその親友に久々に会った日
中学生の時のように会話は弾み楽しい時間を過ごした
高校の話
夢の話
高校の友達には言っていない話
留まることなく話が続いた
主人公は遠くなった距離が近くなったと確信していたのだ
別れ際、その親友は主人公に一言
「お前が遠くなって良かった」
そう言ったそうだ
主人公はこの言葉の意味がわからず、ひどく悩んだ
八つ当たりするものもなく
ただ、悩み・・・
親友そのものに疑問をもったこともあった
数日後、親友から手紙をもらい主人公は目を通した
『高校生活に満足して楽しむお前を見て嬉しくなった』
『俺にばっかり執着していたお前が心配だった』
『他に友達を作れて感動した』
『言葉を上手く伝えられなかった』
そのようなフレーズが並んでいた
主人公は自分の『考え方』を『人生』に置き換えていた
彼はこの手紙を読んで『考え方』が変わったのだ

俺は、山下の言葉の深さに気付かなかったのかもしれないと考えた
聞き逃していた言葉に何が隠されているのかすごく気になった
読まなかったメールに何が書かれているのか
今度は読みかけていた本を放り出し、携帯を手にとった
【どうしたの?】
メールはそこから始まっていた
【俺、さっき何か気に障ること言ったのかな?】
【風間クンが仕事しまくりで体壊さないかなって心配だった】
【でも、そんなこと言ったらそんなんじゃねーって反発するでしょ?】
【うまく言葉を見つけられなかったんだ】
【遠いっていう言葉は、仕事しすぎで遠いってこと】
【体壊さないで頑張って!それ伝えたかった。】
【今度遊んでね】
【FROM:山P】
そこには本と同じ言葉の伝え方の難しさが伝えられていた
自分の満足感に反された言葉には温かい言葉が隠されていた
頬に温かいものが流れた
「・・・・・・」
『返信』を選ばず、俺は山下の電話番号を押していた
「あ!山下?」
  

一言一言が気になる
それを考え何もかもが嫌になる
そういう年頃
反発したくなる
そういう年頃
無限にある考えから一つを見つけ出すのは難しい
無限にある考えから一つを見つけ出すのは簡単
『簡単』にするのは
何か一つの言葉をもらうこと

    

   
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