歴史観を問い直す
War in the Pacific: 1941-1945の日本語版を、Y君日本、私連合軍でやってみました。
このゲームは太平洋戦争全体を扱う戦略級で、戦場は中国・インドからアメリカ西海岸までと他にあまり見ない広さとなっています。そしてユニットは空母、艦隊、陸上機、地上軍の4種類だけとシンプルで、他に兵站駒とイベントカードがあります。コンポーネントは全体に良いデザインになっていると思います。
そしてまず勝利条件が特徴的で、日本軍が序盤に大成功すると勝てたり勝利ポイントをもらえたりという有りがちなルールは一切ありません。純粋に日本が1945年の秋を降伏せずに持ちこたえたかどうかだけで勝敗が決まります。
ターンはイベントと資源を受け取り、兵站設置(要資源)、補給確認、移動(要資源)、戦闘、再配置、補充(要資源)、増援をそれぞれ交互に行うという流れです。移動は実際に動かしたユニット数に関係なく、各スタックが移動した距離と敵航空ZOC通過で資源を消費します。戦闘は戦闘力にサイの目を加えて決まり、空母が強いのは当然ですが、地上機が結構強くその配置が重要になってきます。
また中国戦線、油田確保、インドやオーストラリアへの進攻によって資源量が増減します。特に中国では日本が攻撃を行わないと毎ターン地上軍を1個失い、地上軍が2個以下しかいないターンは日本の資源が3減ります。これらをどうするかや、真珠港攻撃をやるかどうかも考えどころです。
それから日本語版には反映されていない、ギークで見つかるイラータやQ&Aを適用してやりました。主なものは中国軍が第1ターンに再配置できないことと、中国軍は日本軍しかいない所にも再配置できることです。これにより中国軍がいきなり全軍で重慶に籠ることはなくなるので、それに関する日本版ヴァリアントは使用しません。
まず最初日本はどうすればいいのか非常に難しいです。将来領域をどう守るのかというのを、最初に攻撃を始める時点から考えなければいけないのです。本来はそうするのが当たり前なのですが、史実の日本軍が全くこれをやっていなかったので、改めてこれを突きつけられると戸惑います。
まずは真珠港攻撃をするべきかどうかから全然分かりません。一方的にアメリカの戦力を除去できれば、後半の反撃力を削ぐことができるだろうということで、今回はやってみることになりました。結果は両者6の目でどちらも空母に対する追加ヒットを与え、アメリカ艦隊は空母を含めて全滅、日本艦隊はそこそこの損傷を受けます。ただ損傷は修復できるので、アメリカは空母を失ったのが痛いところ。日本は次ターンの中国や資源地帯攻撃に備えて再配置をします。連合軍は貴重な陸空軍をフィリピンから撤退させました。
第2ターン、日本は中国とブルネイ、ティモールに進攻し、中国軍3ユニットを全滅させ、目標を全て占領しました。連合軍は再配置でシンガポールからオーストラリアにかけての防衛線を構築し、残った中国軍6個を全て重慶に集めます。
第3ターン、日本は太平洋を放置して中国での攻撃に集中。しかし中国軍は強く重慶占領に失敗してしまいました。しかしここを取らなければ明日は無いと、日本は本土の部隊を全て中国に送り込み、再攻撃に備えます。
第4ターン、途方もない戦力と資源を注ぎ込んで必勝を期した重慶攻略戦はついに成功し、中国は降伏しました。しかしアメリカ軍もここでマーシャル諸島を攻撃し、占領に成功します。

第5ターン、後顧の憂いを断った日本軍は、太平洋での攻撃を再開し、グアムとスラバヤを占領し、資源の完全確保まであと一歩。しかしラングーンのイギリス軍が隙をついてインドシナに進撃し、日本の地上機を追い払います。これによって未だ連合軍の手にあったレイテに陸上機が送り込まれ、資源地帯の日本軍は補給を切られてしまいました。
しかも悪いことに第6ターン、日本は資源が少なくてあまり身動きが取れず、連合軍は暗号解読に成功して、日本軍は東西から攻撃されます。しかしイギリス空母部隊は日本の空母部隊に勝利したものの、アメリカ空母部隊は日本陸上機の反撃を受けて敗退してしまいました。
という具合で第7ターンを迎えましたが、アメリカはここからどう進めばいいのか?というのも日本は東側に横須賀からトラック島までの航空防衛線を築いていて、どこを攻めても日本軍は地上機と迎撃艦隊が集まって来ます。しかしその外側には隣接する島が無いので、アメリカ軍は陸上機の支援を受けられず、継続戦闘になっても援軍を送れないのです。これでは攻めようが無い。

ここまでプレイ時間が1ターン1時間くらいかかり、もうこの日の内には終わらないのでここで切り上げて、この後どうすればいいのか考えてみました。日本は西側にも同様の航空防衛線を引いていましたが、こちらは港や飛行場がイギリス支配地域から連なっているので、連合軍も航空支援を受けながら進攻することができます。そしてこのゲームでは補給が米英共通で使え、遠距離の再配置にもコストはかからないので、アメリカ軍も西側に持ってきて、こちらから攻めるしかないだろうという結論になりました。
これは太平洋戦争に対する歴史観を問い直す野心作です。今までの太平洋戦争ゲームの多くは、歴史に沿った展開を再現するよう、ルールで強制・誘導してきました。しかしこのゲームはそれに真っ向から異を唱え、日本はどのような戦略を取るのが良かったか(ましだったか)を考えさせる真の戦略級と言えます。
1.日本に電撃的勝利は無い
日本が緒戦にどれだけ連戦連勝し、オーストラリアを取ろうが、インドを取ろうが、ハワイを取ろうが、アメリカ西海岸に上陸しようが、(どれもほぼ実現不可能だが)それで連合軍が戦意を失って日本が有利な講和を結べることはありえない。
2.二正面戦争をするな
日本が中国を倒せもしない内に、同時に米英に戦争を仕掛けて二正面戦争をするなど、自ら泥沼に突っ込むようなもの。米英と戦うなら、どれほどのコストがかかろうと、まず中国を倒してからだ。
3.最初から守れ
電撃的勝利は無いのだから、日本は守りやすい範囲を占領したら、その後すぐ防御に徹して、米英が諦めるまで耐えるしかない。珊瑚海だ、ミッドウェーだ、ガダルカナルだと無駄に攻撃して消耗し、もう守る戦力がろくに無くなってから「絶対国防圏」とか言い始めても遅すぎる。しかもその後なおインパールとかやってるし。
4.反攻ルート
これらのことを日本が理解し実行していたら、アメリカが東から進撃するのは史実よりもずっと難しくなっていた。そうなれば反攻ルートは歴史と違って、アメリカがイギリスと共同して西から攻めることも有り得た。
というのがデザイナーからの強烈なメッセージです。言われてみるとどれも納得のいく話ですが、今までのゲームは歴史通りの展開を追認するばかりで、このような視点はあまり見られませんでした。
これらの事から考えれば、真珠港を攻撃せずにまず全力で中国を攻撃するというのも理にかなった戦略で、次にやる時は試してみたいものです。
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