南北戦争(旧GJ)
最近入門者や復帰組の人が現れたので、そういう人向けに使えないかと思って、Y君と旧GJ59号南北戦争の標準シナリオを試してみました。北軍を持った私は、ルールを読んだ時点でこれしかないと思えた戦略を実行します。
まずこのゲームでは極端に海上封鎖の効果が強調されており、北軍8の増援に対して、南軍は最初4の増援が、封鎖を進めると1か0程度まで落ちます。そして要塞は異常に堅く、大都市にいれば補給は切れないので、攻撃を繰り返しても普通に増援がある間はなかなか落とせません。つまり封鎖を最優先して南軍の増援を絶つしか、北軍に手はないようになっています。
そして地図上に戦域は4つありますが、東部は、他に行くと弱くなるという陰謀ルールによって、強力無比のリーが居座ることになり、ここを攻めて勝つのはほぼ不可能です。西部も唯一の道を要塞が塞いでいる上、北軍の行動チットは1枚しかなく、しかも仮に攻撃に成功しても得られる点数は多くなく、ここを攻める価値はありません。そしてミシシッピ以西も、道は悪く、チットは1枚しかなく、しかも得られる点数は僅かで全く攻める意味がありません。
それに比べてミシシッピ戦域は、最初からグラントがおり、行動チットは2枚使え、道は良く、しかもこの戦域を取るだけでほぼ勝てるほどの得点源が集中しており、ミシシッピ河占領のメリットも受けられます。はっきり言ってひたすらここを攻める以外にない事を、極端に強調した作りになっています。
結果として北軍の生産力はまず攻撃艦隊を4ユニットにし、余ったら封鎖艦隊の補充、それでも余った時だけ戦力ユニットに使います。そして4ユニット体勢で沿岸要塞攻略を進め(可能ならモーガン要塞は陸路で占領)、艦隊増援は封鎖に使って、攻撃艦隊も7港封鎖後は封鎖艦隊に転用します。そして陸上ではグラントとシャーマンでミシシッピを進み、ジャクソンの要塞に突撃を繰り返します。
一方南軍はミシシッピが全て落ちるとほぼ負けなので(そこまで行けばあと2点で北軍が勝ち、南軍は小都市全ては守れ切れない)、ジャクソンに要塞を作ってジョージョンストンを入れ、ここで全滅するまで戦うしかありません。この戦域でよけいな攻勢に出て、損害を受けるのは無意味です。
東部では北軍の将軍の足が異常に遅いのに比べて、南軍は異常に早くて強く、北軍がどう最善を尽くしても、チットの出方しだいでは、南軍は労せずしてサドンデス勝利してしまいそうなのが難点です。状況によっては、北軍はシャーマンを呼ばなければいけないかもしれません。
プレイは概ね戦略どおりに進みます。ただ東部では南軍が英仏の南部承認に成功しますが、その戦闘でジャクソンが早々戦死して、以後東部の北軍は大分楽になります。ミシシッピでは南軍が敢えてグレナダで要塞を作って一歩前で守り、反攻の余地を残そうとします。しかしやはりこれは無理で、シャーマンらに前面を任せてグラントが後ろに回り込むのを防げず、ジャクソンが落ちて補給切れ。西部を守る戦力はもはや無く、この時点で北軍の勝ちが決まります。
実際に対戦した結果、やはり他に戦略の選択の可能性は考えられないというのが、Y君との一致した結論です。カードも役に立つものと立たないものはほぼ決まっていて、流れを変えるようなものはありません。要は「海を塞いで川下り」をするしかないようにしてあるのです。以前これについてデザイナーから「海を塞いで川下りが有効な戦略になるように作りました」というメールをもらったことがあり、これは裏付けられています。
実際の史実における戦略は、正確には「海を塞いで川下り」ではありませんでした。海上封鎖を行って経済に打撃を与えはしますが、完全に塞ぐのは不可能で、それだけで南部の生産を0にはしていません。
また川下りは前半の主要な侵攻ルートではありますが、それだけで勝負がついた訳ではありません。それに加えて、東部でのマクレランによる巧妙な誘引と迎撃、ファラガットによるニューオーリンズ攻略、西部でのチャタヌーガ攻略後、シャーマンによるアトランタから大西洋への破壊行。これらによって南部州を分断脱落させて行き、最終的にリッチモンドを包囲するような形でこれへの補給を絶ち陥落させるというのが、史実の戦略です。
他の状況が悪ければ、リンカーンが選挙に負けて中途半端な講和に終わった可能性もあり、封鎖と川下りさえすれば勝ちという訳にはいきませんでした。ミニゲームなのでやむをえないことですが、このゲームではかなりの誇張と単純化がなされています。
つまりこのゲームは、南北戦争をほとんど知らない大多数の日本のゲーマーに、南北戦争がおおよそどんな流れで戦われたかを教えるためのツールであり、その意味ではとてもよくできていると言えます。しかもこのルールとプレイ時間の手軽さで南北戦争の世界に引き込んだ後は、戦略選択の余地のなさで欲求不満にさせ、幅広い戦略の取れるFor the Peopleなどに誘導するという巧妙な仕掛けも備えています。(実際にそういう例をネットで見かけます。)まさに南北戦争の入門編として、うってつけの作品と言えるでしょう。
ただこれだけ親切な作りになっているにも関わらず、「北軍でどうやったら勝てるかわからない。でもいろいろな戦略がとれて、何度やってもおもしろいから、他の南北戦争戦略級はいらない。」という人もいるようです。そういう人には、「そのいろいろな戦略が、このゲームでは全て間違いになるように作ってあるから、北軍で勝てないんだ」ということに早く気づいて、本当にいろいろな戦略を取れるFor the Peopleにステップアップして欲しいと願うばかりです。
国際通信社の広告にも「歴史を覆す決断の醍醐味」とあるように、シミュレーションゲームの価値は、歴史と違う戦略・作戦を自分で考えることにあるのです。
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