全正面戦争
 
 第3戦同様南軍のサドンデス勝ちで終わり、南北2勝2敗となった第4戦以来、久しぶりにFor the Peopleをしました。今回は私が北軍、Y君が南軍です。
 前2回で成功した南軍の基本戦略は、リー、フォレストの最強ペアを西部に送り、北部州を荒し回ったり、大戦闘で勝利したりして、戦意を稼ぐというものです。
 これに対して北軍は今回、グラントが登場するまで南軍の主力との決戦は避けるという、ファビアン戦略の徹底を目指しました。具体的には北部州への進路には小部隊をばらまいて南軍の損耗を誘い、その他の戦線で攻勢に出るが、南軍主力が迫ってきた時には散開して、大規模戦闘にならないようにするというものです。
 また最近の北軍は第1ターンに最西部の港湾に上陸して、封鎖と、テキサスの支配と、ミシシッピの北上を狙っていました。しかし今回は可能であればガドソン要塞を落として、ジョージア州コロンブスを占領し、周辺の資源都市を狙ってみる事にしました。これは南軍の主力に近くて妨害を受けやすい代わりに、放置するとより多くの戦意源となるため、南軍に対応を強要できる利点があります。

 
 For the People、これは南軍の夢を実現するゲームである。
 歴史において、両軍を通じて最高の将軍であるR.E.リーは、東部に於ける不毛な直接的アプローチによる消耗戦のあげく、最後の賭けゲティスバーグにおいて、騎兵の単独行動によってその能力も曇り、戦争そのものに破れ去った。
 例えばもし彼と、やはり両軍を通して最高の騎兵指揮官フォレストが共同し、西部での戦いに投入されて、北軍の侵入を阻止するばかりか、大々的に北部への侵攻に成功していたら?恐らく戦いの様相は大きく違ったものになっていたであろう。
 このフォレスト将軍に活躍の場を与えられる戦略級という点でも、For the Peopleは希有なゲームである。他の戦略級でフォレストを評価しているものは、The Civil Warしか私は知らないが、それでさえ、総司令官以外は何人でも戦闘能力を足せて、合計6で頭打ちなので、フォレストでなければならない理由はあまりない。最善の使い道が、バン・ドーンと組ませて回避に自動成功する軍を作り、後方撹乱に使うことだというのは、それらしいことは確かだが、やはりフォレストを第一線で使いたい。

 そして南軍の方針が変わり得れば、北軍の可能性もまた大きく広がることになる。「東部で主力を引き付けて一進一退を繰り返している間に、海上封鎖とミシシッピの支配をすれば、そのうち南軍は干上がる」などという単純な考えは通用しない。己の戦略が敵の戦略を変え、敵の戦略が己の戦略を変えるのだ。
 そこで北軍は戦争開始前にいくつかのプランを考えた。しかし引かれたカード=情勢や物資の量などによって、何ができるかは全て始まるまでわからない。
 最有力と考えていたのは、南部生産の中心地ジョージア州コロンブスへの上陸であるが、これには上陸に必要な3のカードが2枚以上なければならない。そして配られたカードを開く。
 3のカードは・・・、1枚。だめか・・・。しかしじきに1枚のカードに気づく。「ファラガット提督」!これこそ開始前に最も期待していたカードである。作戦開始だ。
 最初はあせらず互いに様子を探る。北軍はまずミシシッピ河口のやや東、モーガン要塞に上陸する。南軍は奇妙な場所への上陸をいぶかりながら、イベントで北軍の3SPを除去する。かなり痛い。しかし北軍もイベントで南軍の戦意を下げる。
 そして最後のラウンド、北軍は切り札ファラガットを出した。まずこのカード以外では抜けられない沿岸要塞をすり抜け、コロンブスに無血上陸する。さらにイベントの効果で即コロンブスの支配を獲得し、それに連動してガドソン要塞が降伏する。
 恐るべしファラガット提督。これで第1ターンから湾東海域の封鎖と資源都市コロンブスの占領に成功し、戦意で大きく優位に立った(プレイヤーのものも含め)。

 第2ターンから第3ターンにかけて、北軍はポープ将軍の軍団を派遣して、コロンブス付近の資源都市を狙うが、補給の問題があるため、南軍が妨害してくると、隣のメイコン以外はなかなか占領できない。
 代わりに北軍は北方から出撃し、南軍戦力の少なくなったテネシー州にある資源都市を狙う。中央ではケンタッキーを通ってナッシュビルを襲い、極西部では北部州の最西端セントルイスから、バーンサイド率いる軍団で、メンフィスへの道を開いていく。しかし戦力と戦術能力の不足により、ケンタッキー州コロンブスの砦を攻めることができず、河川による補給線を確保できない。そのため一歩手前のニューマドリードまで迫りながら、メンフィスへ補給線を確保しつつ到達することができなくなってしまった。
 そこで北軍は次の目標をアーカンソー州の支配に変更する。ここはメンフィスのさらに西に当たり、南軍の妨害は届きにくい。
 北軍はマイナーキャンペーンを使い、一気に作戦を進める。まずバーンサイドは川を上って、リトルロックの南軍砦を攻略し、塞がれていた南への入り口を開く。そしてセントルイスにいたロゼクランが、アーカンソーの西の入り口から進入して縦断し、支配を確立した。
 しかし南軍もただやられてはいない。ケンタッキーの支配を確保して増援を増やすとともに、北部への進入路を確保し、あの男達を待つ。いよいよリーとフォレストの登場である。

 第4ターンに登場した彼らは、ナッシュビルとアトランタの中間に陣を構える。南北西どちらにも対応できるようにするためだが、彼らはまず南のポープを攻めることにした。敵が迫るとポープは無理せずフロリダ半島に逃げ、ここに散らばってフロリダの支配を狙うとともに、攻撃されても相手に損害を強いれるようにした。
 リーも資源都市防衛の目的を達成したので、深追いは避け北に引き返したが、この時間の浪費のため、このターンの北部侵攻は間に合わなかった。
 同じころ極西部ではバーンサイドがテキサスに達し、既に落ちていたフィリップジャクソン要塞と共に、湾西海域の封鎖を完成し、テキサス州を支配下に置くことに成功した。

 第5ターンになると、リーの北部への侵入が開始される。2戦力づつ配置された北軍師団を潰しながら進むリー軍。形の上では、倍の損害を与えつつ前進するという理想的な展開だが、すでに南軍はこれまでの小競り合いでだいぶ損耗しており、倍近い動員力を持つ北軍に対して、これがどちらの有利に作用するかははっきりしない。
 しかし第5第6ターンとも北部の2州を荒らし、南軍は大きく戦意を稼ぐことに成功する。特に第6ターンは3州から戦意を奪える勢いだったが、ワシントンからはるばる駆けつけたストーンマンの騎兵隊により、惜しくも3つ目は阻止された。
 一方リーのいなくなった南方では、ポープが再び資源都市目指して進撃を開始し、サウスカロライナのチャールストンを占領して、さらにオーガスタを狙う。これに対して南軍は、大都市オーガスタそしてアトランタまで失っては重大と考え、ジャクソン将軍の派遣を決定する。ジャクソンの行動は素早く、ポープの軍団はあっさり撃退された。そしてこれ以上この方面で都市を襲撃するのは難しいと考えた北軍は、大半の部隊を引き上げていった。

 そんな中で迎えた第7ターン、遂にリーのライバルとなる男、北軍待望のグラントが登場する。前のターン、オハイオへの攻撃を阻止した騎兵がいるシンシナティに、グラントと共に1個軍の最大兵力が送り込まれ、リーと相対する。
 シンシナティーは、ケンタッキーを通ってリー軍の補給を切ることができる位置にある。そのためリーは北部州への入り口ルイスビルの砦まで後退した。リーがいなくなったところで、グラントはインディアナの奪還に乗り出すが、そこにリーの長距離迎撃カードが切られる。ついに両雄最初の決戦である。
 リーとグラントの能力に差は無いものの、フォレスト将軍の差は大きい。両軍共に大損害と指揮官の戦死を出しながら、最初の勝負はリーが勝利を収めた。しかしなんと縦横無尽の活躍をしたフォレスト将軍は、それがために負傷してしまい、1年間戦線を離れることになってしまった。戦闘には勝利したものの、南軍にとって大きな痛手である。
 しかしフォレストを失ったとは言え、リー軍は未だ強力である。そこで北軍は北からのミシシッピの入り口の砦を攻撃したり、南西部からバーンサイドにミシシッピを渡らせ、資源都市ジャクソンを攻撃したりして時を待つ。これに対し南軍はまたジャクソン将軍を向かわせ、北軍もそれより先に進めなくなる。しかし北軍にとってはこれで十分であった。
 というのも通常ターンの最後の行動は南軍であるが、このターンは南軍が迎撃カードを追加で使ったため、北軍が最後になる。グラントがケンタッキーに回ってリーの補給を切ることができるのだ。そうなるとリー軍は二重の損耗を受ける上に、増援を受けられなくなってしまう。
 やむなくリーは退却し、グラントは敵のいなくなったインディアナとイリノイを解放した。

 第8ターンになるとグラントは、イリノイの南軍残党を掃討し、ミズーリ州の支配を築きながら、リーの残るケンタッキー方面を避けて、ミシシッピ川沿いに南下を始める。しかしリーも対応してテネシー防衛に下がって来たので、成果はあまり上がらない。
 そこで北軍は、ワシントン前面のバージニア入り口に都市制圧隊をばらまいたり、空になっていたジョージア州コロンブスに再上陸したりする。すでに戦力の差が大きくなってきた今、北軍の小さな行動の阻止に回すほどの戦力が、もはや南軍には無い。
 そして北軍の最後の移動で、グラントはジャクソン将軍をミシシッピ河口部に追い詰める。しかしイベントにより北軍のカードを減らしていた南軍は、最後がダブルアクションになっている。これを使ってリッチモンドから出発した軍団は、ペンシルバニアとオハイオに侵入して大いに戦意を高めることに成功した。

 そして第9ターン、北軍はしばらく侵入部隊の掃討に追われた後、グラントでジャクソン部隊をじゅうりんし、ルイジアナの支配を確立する。自由な行動を得たグラントは、この一帯で大規模に支配を広げる可能性があるので、リーは南下して交通の要所メリディアンに陣を置き、グラントを牽制する。ルイジアナ支配が確定するまでは反撃を許すわけにいかないので、グラントもジャクソンに戻って両者の睨み合いが続くこととなる。
 だがもはやリーの敵はグラントだけではなくなっていた。あちこちに北軍の大規模な部隊が存在し、リーが居なくなると活動を開始する。オハイオから侵入した北軍は、一気にケンタッキーを制圧してしまった。さらにバージニアにおいても、北軍の支配領域は拡大していった。テネシーまで失う危険が出てきたため、結局リーはテネシーに戻り、都市の幾つかを奪還した。

 そして第10ターン、北軍第2の男、シャーマンがいよいよ登場する。南軍もこれに対抗するため、このターンに復帰したジャクソンとフォレストで新たな軍を編成する。しかし戦力の優劣は明らかである。いきなり最大の15戦力でワシントン付近に新たな軍を編成したシャーマンに対して、ジャクソンの軍はわずか7戦力しかない。
 アトランタ方面に対処するため、チャタヌーガ付近に編成されたジャクソン軍であったが、シャーマンの脅威にすぐバージニアへ送られることになる。次のターンに北軍最高の騎兵指揮官シェリダンが登場してからでは、間に合わないのだ。
 再び行動の自由を得たグラントは、アラバマの資源都市セルマに向けて前進し、このターンから可能になった軍による非補給支配能力を使ってセルマを占領する。そしてこの先にはさらにアトランタ、オウガスタが控えている。リーはこれを阻止するためアトランタに入り、グラントも補給のためコロンブスに入って、再び睨み合いとなる。これによってミシシッピ州に空白が生じ、北軍はここに部隊を展開して支配を獲得した。
 これで北軍支配の境界・南部州は7つめとなる。戦意の差は今や75以上あり、これは勝利条件上3州分に相当するので、北軍は最終ターンの勝利条件10州支配に到達したことになる。南軍が逆転する可能性も全く無い訳ではないが、次のターンにシェリダンが登場して、シャーマンが本格的に活動を開始すれば、北軍支配が増えることはあっても、減ることはないだろう。これにより南軍は独立を諦め降伏することとなった。

 リー将軍の勝利にもかかわらず、今回は北軍の勝利に終わったが、これも無限の変化の1つに過ぎない。次に戦うことがあれば、全く違った流れと結果を見ることになるだろう。自由な発想は歴史を万華鏡に変えるのである。

 
 今回はコロンブスやリトルロックの早期陥落が、北軍の勝利につながったと思います。しかしあらゆる方向から南部を圧迫する戦略が、背景にあったことも忘れてはいけません。
 このFor the Peopleは、両軍とも戦略が難しく、少しとっつきが悪いかも知れません。しかしゲームが分かってくると、その奥の深さに舌を巻きます。
 戦線は国境だけでなく、まわりじゅうにある海岸線のどこにでも作られ得ます。しかも南軍も北軍も敵地奥深く一気に侵入してくる可能性が有り、マップ上全ての場所が常に最前線であると言えます。さらにマップ全体に、価値や性質の異なる様々な戦略目標があるため、どこをどのように攻め守り見捨てるのか、多様な要素が影響する勝利条件を考慮に入れて判断しなければならず、正確な大局観が求められます。
 また単純に兵力が多い方が有利とはならない上、このゲームの目的は敵の撃破ではなく戦意であるため、部隊の編成や規模は、様々な要因を考えて決めなければなりません。単に優勢な兵力を敵にぶつけるだけでは、戦闘には勝てたとしても戦争には勝てないのです。

 私は今回のプレイで、やっとFor the Peopleというものが解ってきた気がすると同時に、これは数あるハンニバルシステム(カードドゥリバンシステム)の中でも、最も奥が深くて多様な戦略のとれる、おもしろいゲームなのではないかと思うようになりました。私的な感覚では、他のゲームは次のように思います。ただしWe the Peopleは全く知らないですし、マルチは性質が違うので除きます。
 ハンニバルは初心者にもとっつきやすく、時間も手ごろな上に奥も深いという傑作ですが、奥深さだけを比べると一歩譲るでしょう。
 カードの使い道の多さや戦線の多さなどで、より深い部分も多いPaths of Gloryですが、戦線の位置が決まっているため、プレイヤーの自由な戦略という点ではやや遅れをとるように思います。
 また次の2つはルールを読んだり人の話を聞いただけで、プレイしていないので、不正確な点もあるかも知れません。
 Wilderness Warは、戦略よりもカードの運に左右される部分が大きく、カードだのみのイギリス専用上陸ルートとフランスの小銭稼ぎゾーンの西部を除けば、戦線は実質1つしかないので、ハンニバルシステムとしては初級者向きで、奥の浅い印象があります。
 Thirty Years Warは、目的が土地の支配だけで水上移動は無く、引き分けが多いというのは、このシステムの割には戦略の幅が狭めで、その優劣を競うにはやや不向きに見えます。

 もちろんゲームに求めるものは人それぞれなので、皆が同じ結論とはならないでしょう。しかしこのサイトの他の記事も見て、私とゲームの趣味が似ていると思う方がいたら、For the Peopleは非常にお勧めです。まだお持ちでなければ、値上げになる前に手に入れてみてはいかがでしょうか。

 
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