誤算
この度Y君にとって2度目になるIMPERIUMをプレイしました。前回から随分間が空いてしまいましたが、Y君もタイミングを狙って積極的な作戦を取るようになり、前回よりぐっと緊張感のある戦いとなりました。今回は前回と立場を入れ換え、私が帝国、Y君が地球側です。
なおルールは初版をベースにした推奨環境を使用しています。
「いきなりやっちまった。」
俺は言葉にも表情にも出さなかったが、心の中でそう叫んでいた。
今回俺が属州長官として赴任してきたこの地球連邦戦線、始めから少し嫌な予感はしていた。最近のビーム射程の向上で、戦闘におけるビーム戦の占める比率が微妙に増え、さらにミサイルでは相手の突撃を阻止できなくなっている。これがどの位影響するのか俺は掴みかねていた。
と言っても、事前の調査によれば、地球の標準艦はビーム重視であるものの、同時にミサイル専門艦艇が多用され、ミサイル比重は我々とあまり変わらないということだ。そう。この技術変化で大した影響はないはずだった。
弱小にも見える戦力しか持たない地球連邦は、折り悪く俺がここに着任して早々宣戦してきた。事前想定と概ね同じく、中枢への関門バーナード星のモニター艦に費用を費やして整備し、小型艦の増産を開始した。もちろん反対側の進入路プロキオンには要塞が築かれ、その前面の難所シリウスには警戒の偵察艦が派遣されている。
一般には優勢な戦力で戦争が始まったなら、全軍を集結して敵の中枢へ進み、一気に優位を拡大する。もしそれに十分な戦力がないなら、無理攻めをせず、資源開発によって生産力で優位を得るというのが普通だ。
しかし今回俺はそのどちらも選ばず、一見最悪に見える戦力の逐次投入を行うことにした。帝国の艦艇補充制度を有効活用するためだ。地球が第一段配置を終えるとすぐ、重巡洋艦をバーナード星に単独突入させる。間近に迫った整備時期に引っかかってしばらく役立たずになるリスクを取るより、敵と差し違えさせて補充してもらった方が効率的ということだ。
鬼?それは戦争なんか始めたがる奴に言ってくれ。それにこれはプロキオン方面の圧力を軽減してしまうので、必ずしもいいことばかりではない。
送り込んだ重巡洋艦は地球のミサイル艇を道連れにし、その補充が届くころ、現存の全艦が整備完了との報告が入る。すばらしい。地球側も整備万全のようだが、ミサイル艇のない地球艦隊に何ができよう。俺はバーナード星へ向け全艦出撃の命令を下した。
バーナード星域へ到達し、宙域の制圧を終えたころ、突如警戒警報が鳴り響く。
「地球艦隊ジャンプアウト!基地からのモニター艦発進を確認!」
こちらの隊列にはまだいくらか乱れが残ったまま、ミサイル射程に入る。第1斉射!こちらの優勢なミサイル力により地球艦隊に乱れが生じた。
「今だ!モニター艦にミサイルをぶちこめ!第2斉射!」
しかしミサイルはモニター艦の分厚いスクリーンに阻まれた。そして第3斉射をする間もなく、地球艦隊はビーム射程に迫って来る。
たちまちモニター艦の強力なビームに撃沈される重巡洋艦。しかもプロキオン方面の圧力が無くなったことで、こちらに回されてきた地球の偵察艦は予想外に活躍している。その後健闘していくらか盛り返すものの、もう勝利はない。距離が離れたタイミングを見計らって離脱する。
「いきなりやっちまった。」
しかし今は後悔している場合ではない。残存艦隊を各地に散らして遅滞線を作り、新造艦の完成まで前線を持たせなければならない。鍵となるシリウスの戦闘を手際良く片付け、早々の敗北は食い止めた。
それから2ターン(我々は生産期をターンと呼んでいる)ほどは互いに生産と小競り合いの小康状態となった。負けたとはいえその差は小さく、帝国の補充や偵察艦性能の優越を考えると、まだそれほど危険な状況にはなっていない。
そんな中戦争3ターン目に地球は強気の作戦に出た。プロキオン宙域に主力を集結して、こちらの生産・攻撃を待ち受けたのだ。普通宇宙戦では戦闘の組み合わせ決定権のある攻撃側が有利なため、主力を後方に置き防御側になるのを避ける。しかし十分な戦力優越があると思えば、あえて前線に主力を置き、戦線を敵側に押し進めることが可能だ。もちろん敵の攻撃をはね除けることができればだが。
「少し早すぎないか?」俺は思った。確かに地球は艦数の優越もあり、幾らかの戦闘機支援もある。だが現状で地球の主力となっているミサイル艇は、スクリーンが薄く防御に回ると極めて脆い。「やってみるか。」大戦闘をすれば、補充計画を変更してまた巡洋艦の補充を受けられるという旨味もある。俺は決断した。
シリウスを越えて次々とジャンプアウトする艦隊。すぐさま隊形を整えると地球艦隊に襲いかかる。偵察艦を地球のミサイル艇に当てる形で仕掛けるが、全体に十分ダメージを与えられないまま近距離戦に突入してしまう。
近距離になればミサイル艇はほとんど無力であり、突撃によってこれを楽にしとめることができる。しかしやはりビーム戦の時間が長くなると、地球は有利になってくる。結局壁を崩すことができず、またも敗退となってしまった。
そこからは厳しい防衛戦が続いた。アジッダは戦闘機だのみ、シリウス方面は1ユニットずつの戦線で時間稼ぎという有様。それも普通にやっていたら内部への突破を食い止められないので、軽巡洋艦と駆逐艦を両方の前線に単独出撃させ、両方とも一方的に撃破できることに賭けたり、重巡洋艦1ユニットで偵察艦3ユニットを攻撃したり、少し危ない橋を渡った。
そのかいあって一時はシュルパクまで侵入を許すものの、次第に戦線は安定していく。ミサイル艇を減らしたことで、地球の爆撃力が不足したのも幸いした。決定的勝利が遠のき、厭戦気分が蔓延してきた両者は、自然に軍備増強より星系開発に重点を移しはじめ、戦争開始8ターンをもって停戦に合意した。
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