誤算
 

 戦争が終わるとここでの最後の仕事が待っている。平時生産計画の作成だ。停戦合意が6ターンと長かったため、両軍とも大量の退役が発生した。
 特に地球は砲台、モニターがことごとく退役し、再生産に大いに支障をきたした。しかしそれでも地球は地上重視で、砲台をバーナード星とプロキオンにそれぞれ二重配置してきた。さすがに手堅い。
 ここで問題となったのは、ミラビリスがワールドとなって、地球側の生産力が大きく増大したことだ。ワールドを生産力に変える地球の力はすさまじい。もし速やかに片付けることができなければ、この属州を失うばかりか帝国全体が危機に陥るだろう。そこで次期戦争で早々に基地攻略を果たせるよう、俺はモニター6ユニットをアジッダに揃えた。もちろん偵察艦、駆逐艦、戦闘機、地上軍は生産上限まで作った上でのことだ。こんな大規模な生産が可能になるのも、俺がこの状況を見越して、前の戦争末期から資源を最大量備蓄したからだ。

 そして俺はここを離れ、その後のことは伝え聞いた話しか知らない。あのアジッダ・バーナード会戦のことだ。
 二次戦争が始まると、帝国はすぐにモニターをバーナード星に向けた長旅に送り出した。それを知った地球が、その到着直前にアジッダを抜こうとしたのが、あの会戦の発端だったらしい。
 足止めを食らうとモニターとの共同作戦ができなくなるので、帝国は大量の戦闘機で護衛した艦隊を、アジッダへ集結させていた。そこへミサイル艇を主力とする地球艦隊の攻撃だ。突然の襲撃に帝国の巡洋艦は次々と沈んでいった。
 2回のミサイル斉射の応酬で帝国が劣勢になった所で、近距離戦になる。誰もが帝国側の敗北を確信した。しかし新しい長官はこれからビームの時代が来ることを見越して、射撃訓練を繰り返していたらしい。普通なら互角かやや不利なはずの小型艦同士のビーム戦で、地球を圧倒する撃破率を見せたのだ。
 前の戦争で俺は誤算を重ね苦渋を味わうこととなったが、今度は地球の番だった。みるみる地球艦隊は艦艇を失っていき、しまいにはわずかな小型艦と、数だけは半分近く残っているものの、ミサイルが切れかけたミサイル艇だけになった。帝国の損害も大きかったが、地球にはこれ以上戦闘を継続する余力はなく、失意の内に退却していった。

 次のターン遂にモニターの到着時期を迎える。そしてそれに合わせて建造を続けていた打撃巡洋艦隊も完成する。それを加えると帝国の爆撃力は114にも昇った。しかも好運なことに、アジッダの大宇宙戦にも関わらず、輸送艦は9ユニットも生き残っていた。
 だが地球もバーナード星に2つの砲台を配置しており、これを確実に黙らせることはできない。成功率は3つに2つ位だろうか。それでも長官は迷うことなく突入を命じた。今を逃せば次はないと知っていたのだろう。
 大量のミサイルが惑星に飲み込まれていく。そして一斉に広がる光のモザイク。反撃は・・・ない。成功だ!地上軍を積んだモニター、輸送艦が雲の下に消えて行く。そして帝国の誇る降下兵が花火のように空に広がる。
 バーナード星にも多くの地球兵が配備されていたが、圧倒的な兵力差にはなす術もなく全滅した。また地上で撃破されるよりはと地球の残存艦隊が出撃していったが、いくらかの帝国艦を道連れに消えていった。
 その後この帝国がまだ健在ということは、地球が盛り返すことはなかったのだと思うが、遠い辺境の事、詳しいことは判らない。

 

 このバーナード星攻略で勝負はついたと思い、ゲームを終わりにしました。しかし今になって考えてみると、使っている直訴制限のルールのために、地球は敗者のメリットを受けることができるので、第3次戦争ではまだ地球が逆転するチャンスはあったかもしれません。
 このゲームの初期配置はだいたい決まっていて、流れの変わるイベントはほとんどないにもかかわらず、未だに展開がパターン化しないというのは、本当によくできたシステムです。版を重ねても解決しない問題点はありますが、根本のシステムはしっかりしているので、自分の気に入るように微調整すれば良いでしょう。
 移動・戦闘といった戦術・作戦部分の負担が小さく、一番おもしろい戦略部分に最大限頭を使えるというのが、このゲームの特に良いところです。戦闘で勝つ前に、整備や退役の効率で勝つというのは、正に戦略級の醍醐味と言えるでしょう。そういう点でこのGDW版ベースのIMPERIUMは、後に発売され移動や戦闘のルールをごちゃごちゃ着けたアバランチ版より、遥かに洗練され優れていると思います。

 
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