スーペリア・サンタ・アナ
10年以上前に出たメキシコ・アメリカ戦争のゲームThe Halls of Montezumaを、Y君アメリカ、私メキシコでやってみました。このゲームはボードゲームギークで平均評価6.5のクソゲー扱いとなっていて、そのせいで未だに売れ残り値引きされていましたが、コメントの中にはルール改定後は良いゲームという評もあったので、試しに買ってみたものです。
米墨戦争と言うと、アメリカが優れた装備と指揮で一方的に首都へ勝ち進んだだけというイメージで、それも今まで興味を持てなかった理由でした。しかしルールをよく読んでみると、このゲームではそんなに単純なものではないようです。
まず地形等の険しいメキシコでは補給の確保が大変です。補給源から5移動力先までしか補給できず、特に港からだと橋頭保以外は軍規模の補給ができません。しかも補給線は敵以外にも、荒地、ジャングル、襲撃、州の反乱で妨害されます。補給が切れていると移動や戦闘で不利益があるだけでなく、ターンの途中で不意に発生する補給イベントでは部隊が半壊してしまいます。また移動すると暑さや反乱、未開地などでしょっちゅう部隊が損耗します。
プレイはよくあるカードドゥリヴンですが、イベントや移動・戦闘の他に、反乱鎮圧、ゾーン(広い地域を表す)の支配、ゾーンでの攻撃、城塞の攻囲、支配マーカー配置、防御工事、補充(ターンに1回まで)、兵站再建、海上移動、上陸、艦隊活性化、軍編成、襲撃、ゲリラの隠蔽と、アクションは非常に多彩です。
移動力は、めくったカードの指揮官の能力に対応した欄の数値になり、動けなかったり動くと損耗することもあります。移動中は迎撃や回避があり、騎兵と、荒れ地・ジャングルにいるメキシコ軍は、自動回避ができます。
指揮官、部隊の質や士官(若き日のリーやグラントが出てくる)でアメリカ軍は戦闘に有利ですが、メキシコもサンタ・アナは侮れない指揮官で、ゲリラや防御施設で強い工兵などもおり、アメリカも入念な準備なしに攻撃すると痛い目に会います。
戦闘は戦力と指揮能力だけでなく、精鋭部隊の突撃やゲリラの補給妨害、攻撃側の移動力消費(どのくらい攻撃準備をしたか)、地形、防御施設、イベントなど、様々なことが影響します。そして戦闘は振れが大きく、結果が戦略意志を上下して勝敗に直結するので、安易には行えません。
他にカードや増援が増えるアメリカの宣戦ルールや、封鎖・反乱・アメリカの州支配等様々な要因で修正したチェックの失敗により、メキシコ政府が崩壊する(ゲームは続くがメキシコは不利になる)ルールなどがあります。勝利は特定の場所を全て支配するサドンデスか、メキシコの戦略意志が0(政府崩壊時は10以下)になると決まり、最終ターンまでどちらも起きなければメキシコの勝利です。
開始時には、沿岸沿いの国境で両者の主力軍が対峙していて、戦力は明らかにメキシコが不利です。第1ターンの最初にだけ、メキシコはTejas!イベントを起こせて、アメリカの宣戦しやすさを1下げ、1増援を競合ゾーンに出せるのですが、それをやるとこの軍は破られそうです。
そこでメキシコはここに防塁を造りました。防塁はそれ自体が防御力を持ちますが、メキシコ軍だけが持つ工兵(Zapadores)が居ることで、さらに1d10の半分(端数切上げ)の戦力が加わるのです。
これで有利な攻撃ができなくなったアメリカは、代わりに襲撃を行います。襲撃は両者合わせて5か所までマーカーを置け、補給妨害効果以外に、ターン終了時には配置数の多い方が数の差の半分の戦意を稼げます。地味ですが、他に大した成果が見込めない序盤などは、結構有効なアクションです。アメリカは3か所で配置に成功し、メキシコも追従して2か所配置しました。
その後両者は補充で戦力を増強し、メキシコは別動隊を送ってテキサスに支配を1つ配置。最後にアメリカはイベントでバハカリフォルニアに反乱を起こして、ターン終了です。
最後の政治フェイズでは反乱の拡大が起こります。そしてアメリカは襲撃と反乱で2、メキシコはテキサス支配で1で、メキシコの戦略意志は差し引き1減少しました。
第2ターン初頭、アメリカは自然宣戦しやすくなる好戦度も上がっておらず、ランダムイベントの増援により戦力もほぼ出し尽くしてしまっていました。そこで増援余地を作るため、アメリカは戦略意志5を払って宣戦を強行します。これによってメキシコには、キューバに亡命中だった前の大統領アントニオ・ロペス・デ・サンタ・アナ・ペレス・デ・レブロンが呼び戻されることとなりました。
サンタ・アナは政治家としては独裁的でしたが、将軍としては有能で、ゲームでは最高の戦略値1と最高の統率力8を持ち、戦術値は1と優れ(最高の2はスコットのみ)、2つ星で精兵突撃や補充でも強力になっています。後の英雄スコットが出てくるまでは、アメリカにとってかなりの脅威になるでしょう。
このターンはアメリカだけがカード増を選択し、それによってメキシコの戦意は1上がりました。そしてアメリカはまず襲撃。続いて有能な将軍カーニーで軍を作り、国境付近でテキサス侵入を狙っていたアリスタ将軍を攻撃します。アリスタは回避に失敗して攻撃され、カーニーはこれを全滅させて兵站も捕獲し、戦意を2獲得しました。
好調なアメリカですが、これに対してメキシコはイベントでユカタン半島の反乱を鎮圧。さらにベラクルスにいたブラボー将軍が、ここに拡大していた反乱も鎮圧します。これで南方の安定を確保できたメキシコは、シウダード・メヒコ(メキシコシティー)よりサンタ・アナを北へ急進させます。そしてすばやく国境に到達した彼は、テイラーと対峙していたテハス軍の指揮を掌握しました。
テイラーの能力では、サンタ・アナに攻められたら全く太刀打ちできません。アメリカはテイラーの軍を後退させ、その後イベントでユカタン半島に再び反乱を起こします。メキシコも無理な侵攻はせず、ホイッグ党の反対イベントで、戦意を1上げアメリカにカードを1枚捨てさせて、ターンを終えました。全体では戦闘と襲撃が効き、メキシコの戦略意志は4下がって31になりました。

第3ターン、またアメリカだけが追加カードを引き、先番をメキシコに渡します。メキシコはまず襲撃を行い、次にサンタ・アナでテキサスに侵入し、さらにイベントで反乱を2つとも鎮圧してしまいます。
一方アメリカは、将軍を派遣して競合ゾーンに出た部隊を拾うと、アルタ・カリフォルニアに進んでここの支配を奪いました。しかし全体としては、追加カードを引いた割に戦果は少なく、反乱も全て鎮圧されてしまったため、メキシコの戦意は1しか下がりませんでした。スコット様が来てくれないと、アメリカはいまいち精彩を欠きます。
第4ターン、またスコットが来なかったため、アメリカはここで起死回生の大技を放ちます。それは「サンタ・アナ大統領就任」。
これはメキシコに4ユニットを与えて、一見アメリカにとって損なカードのように見えます。しかし実は大統領就任式のためにサンタ・アナはシウダードメヒコに呼び戻され、その隙にアメリカはアクションを行えるのです。これによってサンタ・アナが不在で無能なアンプディアが率いるテハス軍14ユニットを、現在最高位の星2つで戦術的にも有能なワース将軍が攻撃します。
そしてアメリカは弾不足を出してメキシコ軍の戦闘力を半減させた上、テキサスレンジャーまで使って自分の戦闘力を増加させます。凶悪な攻撃。これに対してメキシコも砲火の洗礼を出し、追加2ステップ損害を受けるのと引き換えに、戦力を倍加して半減効果を相殺します。しかしそれでもメキシコの劣勢は否めません。
戦闘の結果はアメリカ11ステップの損害(Brisk)に対し、メキシコは19ステップもの大損害(Superior)。テハス軍は敗走し、全軍損耗した上に5ユニットを失いました。
これで一見メキシコ軍は雪崩的に崩壊してしまいそうですが、まだ補充を行っていない防御側はすぐに補充ができるので、メキシコはテハス軍の戦力を回復します。こうなると退却先は砦ができていてサパドーレスもおり、アメリカもすぐに追加攻撃はできそうもありません。
そこでアメリカも補充を行って攻撃の準備をしますが、サンタ・アナが単身シウダードメヒコから舞い戻ってきて再び指揮を執り、もうこれ以上の攻勢は無理そうです。その後は大きな動きも無くターンを終え、戦闘の影響でメキシコの戦意は4下がって26となりました。

第5ターンには、スケジュールによりやっとスコットが登場します。これはさすがにもう持ちこたえられないと見たサンタ・アナは、国境から引いてモンテレーに下がることにしました。ここは歴史上でも大きな戦いがあった戦略都市です。ここにいる限り補給は確保でき、アメリカ軍が脇をすり抜けようとしても、補給線を妨害されて難しいでしょう。
ここでアメリカはスコットでサンタ・アナと決戦するか、それともニューオリンズに下がってから強襲上陸するか思案します。しかし「スコットの侵攻」イベントが無ければ軍規模の上陸はできず、それはずっとメキシコが握っていました。またゲームは6〜10ターンの間のどこかでサイの目によって終わりますが、今のメキシコの戦意の下がり方では、決戦に勝たないと足りないだろうとというのもあり、アメリカは陸路で戦いを挑むことに決めました。
態勢を整えて攻め上るスコット。精鋭を集めて迎え撃つサンタ・アナ。ユニット数はスコット13対サンタ・アナ14とほぼ互角。戦闘カードはスコットが弾幕砲撃で、サンタ・アナが騎兵突撃と、さらにゲリラも投入してスコットの軍の補給を絶ちます。

これで戦力的にはサンタ・アナが有利になったものの、サイの目修正はスコットの優位を迎撃で埋めて互角。このゲームの戦闘はサイの目で振れ幅が大きいので、どうなるかまだ分かりません。そして結果はサンタ・アナの攻撃がスピリアー(戦力の2分の1ダメージ)で、スコットはブリスク(3分の1ダメージ)。スコットの軍は3ユニットを残して壊滅です。
これでメキシコはかなり有利になりました。しかしサンタ・アナもそれなりに大きな損害を受けたので、すぐに部隊を補充。そしてそこへアメリカは、ワースの軍で最後の勝負を挑みます。しかしサンタ・アナはここでもスピリアーを出し、ワースはプア(6分の1ダメージ)。アメリカ軍は一方的に壊滅して、メキシコの完全勝利で終わりとなりました。
これは大方の評判に反して結構いいゲームだと思います。今回のゲームを最後だけ見ると、サイの目で勝敗が決まってしまったようにも見えます。しかし実際にはその前に強行宣戦、反乱鎮圧成功、戦意を犠牲にしてのカード獲得、テキサス侵入などで、アメリカはじりじりと戦略的な劣勢が拡大していました。これによって本来なら有利に戦えるはずのスコットが、士官不足でゲリラの罠に突っ込むという、危険な賭けに追い込まれることとなったのです。このゲームでは目先の戦闘ばかりでなく、幅広く全体を見てひとつひとつ小さな有利を積み重ねていくこともまた大切です。
地方での攻撃や、艦隊による港の奪取、強襲上陸、サンタ・アナを呼んでしまう宣戦をいつするかや、カードと戦意のどちらを取るかなど、アメリカの選択はより難しいですが、その分幅広い戦略を取ることができるでしょう。
またカードドリヴンの良し悪しはカードの出来不出来の影響が大きいものですが、これも強すぎたりつまらなすぎたりせず適度な驚きがあり、カードを1枚保持して将来に備えられるのも良いと思います。またカードを引いて移動力や損耗を決めることで、移動のままならなさをシンプルに再現できています。
惜しい所は、とにかくルールに覚えにくい項目が多く、エイドカードでもそれが十分網羅しきれていないことです。そのためシステムを使いこなすのに時間がかかり、とっつきにくいです。しかしこれはゲームの奥深さと表裏一体な部分でもあり、何度かプレイすればそれも自然に身について、このゲームの良さを実感できるようになるのではないかと思います。
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