マリア・テレジア「この裏切り者・・・」
 
 オーストリア継承戦争のゲーム、A pragmatic warを初めてやりました。ですが私はオーストリア継承戦争を良く知らないので、ちょっと調べてみました。
 男児のいなかったハプスブルク家の神聖ローマ皇帝カール6世は、娘のマリア・テレジアにオーストリアを相続させるよう各国に約束を取り付けていました。しかしいざカール6世が亡くなると、各国は約束を反故にしてオーストリアに攻め込んできた上、神聖ローマ皇帝の地位も奪いに来ました。しかし何ら王としての教育を受けていない弱冠23歳の美しき女王マリア・テレジアが、ここから奇跡のような才覚でこの難局を押し返していくとは、ほとんどの者が思ってもみませんでした。

 選択ルールは使わず、Y君がルイ15世、私がマリア・テレジアです。


 真っ先にオーストリアに攻め込んできたのは、プロイセンのフリードリヒ2世でした。父のフリードリヒ1世に殺されそうになったところを、テレジアの父カール6世の取り成しで命を救われた恩も忘れて。
「この裏切り者・・・」
怒りに震えるテレジアは、ナイペルク伯(ゲームでは無名指揮官)にシレジア奪還を命じます。兵力を集めたナイペルクは、プロイセン前衛のシュヴェリーン軍を攻撃してこれを撃破し、そのままブレスラウも奪還します。一方神聖ローマ皇帝の地位を狙うバイエルン選帝侯カール・アルブレヒトは、オーストリア領ザルツブルクに侵攻し、オーストリア東西の連絡線を遮断します。またルイ15世は非公式参戦ながら、帝国領に入ってハノーバー軍の動きをけん制すると共に、オーストリアに侵攻してプラハに隣接してきます。そしてこの年最大の事件は、マリア・テレジアが生まれたばかりの赤子を連れて単身ハンガリー議会に乗り込み、涙ながらの訴えでハンガリーの戦争協力を取り付けたことでした。これによりオーストリアは、資源・兵力・グレンツァー(敵の補給を妨害する非正規部隊)を得ます。

 戦争2年目、テレジアはザルツブルクを奪還し、ブレスラウにはグレンツァーを置いてシレジアを守りますが、前線に出てきたフリードリヒは、矛先を変えて鬼のような攻撃であっさりプラハを占領してしまいます。またイタリアに登場したスペイン軍も、ピエドモント王エマニュエルの妨害を振り切って、ミラノ内の要塞を攻略し、再びオーストリア東西の連絡線を断ちます。

 戦争3年目になってようやくイギリス、オランダ、ハノーバーが正式参戦し、テレジアは孤立無援の状況を脱します。しかしこの年ルイ15世の手札は1が無く2、3ばかり。その対応に追われたテレジアはミラノの要塞奪還に失敗し、イギリス軍も全く動けません。その間にフリードリヒは再びブレスラウを占領し、ルイ15世は帝国領に兵をばらまいて、今や神聖ローマ皇帝となったアルブレヒトの死去による帝国喪失に備えます。

 そして4年目、状況は大きく変わります。フリードリヒはシレジア全ての割譲を条件に戦争から離脱。代わりにルイ15世が正式参戦し、大量の増援と最強将軍モーリス・ド・サクセが登場します。しかもこのタイミングで、ルイの手札は3が3枚2が2枚、テレジアは1が3枚2が2枚。テレジア絶望的な状況です。このチャンスにルイは、ド・サクセに帝国内を迂回させて、アムステルダムを直撃させます。しかし未だにアルブレヒトが健在のため、ババリアに阻まれてテレジアはこれに手を出せず、プラハを奪還するのみ。そしてついにアムステルダム攻略戦が開始され、これが陥落したらルイ15世の勝利です。止むを得ずここでイギリスが行動を開始し、ド・サクセの反撃を受けるのは覚悟の上で、補給線を妨害に行きます。補給が切れては攻囲継続もできないので、ド・サクセは引き返してイギリス軍を攻撃し、壊滅的損害を与える大勝利を得ます。テレジアは即時の敗北こそ免れたものの、VPは開始から11も減っていて危機的な状況。来年は持ちこたえられるのでしょうか?
 
 アムステルダムがルイの目の前にある5年目、ルイはもちろん攻撃を再開します。しかし攻略支援のための海戦には負け、最初の攻撃も1を出して失敗。1のカードでやろうとした2回目の攻撃も、悪天候により中止させられます。しかし終始直接の手出しはできないテレジアを尻目に、ルイは第4ラウンドついに最初の命中を与え、最終ラウンドの攻撃に望みを繋ぎます。陥落=勝利の可能性は五分五分。そして攻撃の結果は、、足りない。
「裏切り者に天は味方しないわ。」
喜ぶテレジア。神聖ローマ皇帝を僭称したアルブレヒトはこの年死去し、幼いころから恋焦がれ17歳の時に結婚した愛する夫フランツがついに皇帝に即位したこともあって、喜びもひとしおです。テレジアはこの年早春より作戦を開始していて、義弟カールによるフランス軍への奇襲はまさかの同損害負けを喫するものの、フランスに逆侵攻したオランダ軍がダンケルクを占領し、イギリス軍もハノーバーを奪回して、一気に情勢を揺り戻します。

(帝国中央のフランクフルトに士気喪失状態のカール軍)

 6年目、テレジアに側面をさらしたままアムステルダムを攻略するのは難しいと悟ったルイは、ここで強行軍によりド・サクセの軍でカールの軍を攻撃します。もし勝てば双方に王族がいるので少なくとも2VP、大勝利すれば3VPとなります。しかしカールは危ういところで回避に成功し、要塞地帯に撤退。結局ルイはハノーバーを再占領しただけで終わります。一方テレジアは長年の懸案だったミラノの要塞をようやく陥落させ、帝国内の要塞も一つ占領します。
 7年目、テレジアは勝敗ラインに何VPも足りないので、攻勢を仕掛けたいところですが、ド・サクセが強すぎてなかなか手がだせません。結局この年テレジアは、The'45とルイブールのイベントで点数を稼いだだけで、何も土地を得られずに終わります。しかしルイの方はオランダ内の城塞都市ナイメンヘンの奪取に成功します。

 そして最終年、膠着状態の戦況に厭戦気分が高まる中、ロシアの参戦により各国は講和に傾きます。この年はルイがラウンドの頭にサイを振り、そのラウンド数以下の目を出すと、直後のテレジアラウンドまでで終戦となります。シレジア確保で満足したフリードリヒが最後まで再参戦しなかったのはテレジアにとって幸いでしたが、それでもテレジアが勝つには4VP足りません。そこでテレジアはジェノバとフランスのベルフォートの攻囲を始めます。またルイは早春から作戦を開始し、テレジアの拡大を阻止してきます。
 そんな中で第3ラウンド、ついにロシア軍来るの報が。この機を見たテレジアはハプスブルク家に代々伝わる呪いの秘術を使い、ルイは重病に伏せってしまいます。
「裏切りの報いよ。」
これによりこのラウンドはフランス軍が作戦不能になったので、ブルボン陣営は代わりにスペイン軍でサヴォイに侵入し、1VPをもぎとります。
 さあ1ラウンドで5VPも取らなければならなくなったテレジアですが、攻囲はもう間に合いません。またサヴォイも移動力が足りず奪還できません。しかしフランスが動けなかったため、フローニンゲン(4VP)とハノーバー(3VP)が空いています。もし隣接するフランス軍が迎撃に失敗すればそこを奪還できるのです。そこでまずオランダ軍がフローニンゲンに進みます。そしてこれは見事フランス軍の迎撃をかわして占領に成功。あともう1VPですが、この時都合良くド・サクセがカールを追ってフランクフルトを離れていました。この隙を突いてオーストリアの小部隊がそこを占領し、マリア・テレジアはぎりぎり勝利を掴みました。

(手前のベージュArmy Aがカール、隣の青いArmy Cがド・サクセ)

 最初ルールを読んだときは、外交ルールが無く参戦がスケジュールと多少のサイの目だけなのは、前半ルイの攻勢から後半テレジアの反撃といった流れが決まってしまって物足りないんじゃないかなとか、その割に一番強力なプロイセンについては参戦期間がランダムに大きく変わり、この運の要素が大きすぎじゃないかなと思っていました。また指揮官でも戦力でも優るルイ15世側は、かなり有利そうに感じていました。
 しかし実際にやってみると、刻々と変化する参戦状況や、中央に中立の帝国領があって、南と北にオーストリアと海事国の同盟、西と東にフランスとプロイセンの同盟と、主要な同盟国が離れている複雑な状況で、興味深いゲームになっています。また要塞攻囲が中心となったシステムや、キャンペーン、移送、補充、士気回復などのアクションと、イベントとは別になったアクションカードといった組み合わせも良い感じです。運の要素についてもいろいろなランダム要素が均されて、意外と運だけでゲームが崩れることは少ないのかもしれません。今回もルイに有利なコマンドカードに対し、テレジアに有利なイベントカードで、結果的に非常に良いバランスでした。
 またプロイセンが突然離脱してあてにならないことや、テレジア側がイベントVPを得られたり必ず最後の番を取れることで、フランス・プロイセンの軍事的な有利をかなり相殺できているようです。後半攻めなければならないテレジア側が強くないというのも、ゲームの流れが一筋縄ではいかなくて意外と良いです。戦略級の割に作戦面重視の作りですが、ゲームとしてはおもしろくできていると感じました。
 
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