勝者の混迷
Compass gamesの新作Spartacvsをやってみました。このゲームはタイトルから想像されるようなスパルタクスの反乱だけをあつかったゲームではありません。
ポエニ戦争後のローマ内での主導権争いで、スッラが実権を握った後、スペインに逃れた反スッラ派によるセルトリウス戦役、それに呼応して小アジアでポントス王がローマに戦いを挑んだ第2次ミトリダテス戦役、そしてとどめを刺すように起きた奴隷たちによるスパルタクスの乱と、立て続けに起きたローマの危機の時代を扱ったゲームです。背景の理解には、塩野七生の大作「ローマ人の物語」勝者の混迷の巻がとても参考になります。
システムも戦場の範囲もハンニバルと似ています。地図はハンニバルのアフリカが小アジアに置き代わり、スペインが広くなったという感じです。ルールは基本システムに変わりはありませんが、カード戦闘は選択ルールだったり、スペイン軽歩兵や奴隷軍団は襲撃アクションでローマの支配マーカーを除去できる一方、ローマは軍又は軍団による和平工作アクションで隣接する小都市を寝返らせることができるなど、いろいろ小さな変更があります。
また地域ごとにそこで維持できるユニット数に上限があり、それを越えた分は冬期損耗(1ステップしかないユニットは除去)するので、維持と戦力集中の相反が悩ましく、おもしろいところになっています。
そして勝利は、ミトリダテスやスパルタクスの参戦(早期参戦を目論むと参戦しないこともある)により決まる数の州を、ゲーム終了時に支配できているかどうかで決まります。ただしローマには危機度というものがあり、州の支配や軍団の過剰動員、プロコンスルの強制留任など様々な条件で変化するのですが、これがゲーム中に振り切ってしまうと、その時点でローマの負けとなってしまいます。
今回は3人だったので少しだけルールを変えて、本当はカードをヨーロッパとアジアで分けるところを、Y君がセルトリウスのカード、かさいさんがミトリダテスとスパルタクスの分のカードを持ち、私がローマとしました。シナリオは中位の長さの「渦中の共和国」です。
第1ターン、遠スペインではセルトリウス陣営のヒルトレイウスが攻勢に出ます。決して有利とは思えない攻撃に疑問を感じ、守将メテルスは一旦退却します。しかし次のアクションでも、さらに侵入を続けるヒルトレイウス。いつまでも回避に成功し続けられる訳はなく、回避に失敗すれば戦闘で不利になるので、メテルスは戦いを受けます。そしてヒルトレイウスの繰り出した手は待ち伏せ。メテルスは兵の半数を失い、もはや守りきることは無理と海路ガリアに引き揚げます。
その後ローマはポンペイウスに兵力を集め、スペイン再奪還を目指しますが、ポンペイウスでは戦闘能力が足りず進めません。そこで説得と外交やスペイン部族の反乱で、東セルティベリアの大都市と部族を味方につけた上で、プロコンスルに再選されたメテルスで侵攻します。しかし戦闘はやや強いものの動きの遅いメテルスでは支配を広げ切れず、冬を前にしてガリアに引き揚げざるをえなくなります。
一方小アジアで最高の戦闘能力を発揮するL.ルクルスもローマはいっこうに引けず、ミトリダテスは維持しやすいよう兵を二手に分け、勢力をどんどん拡大していきます。ローマは本国から軍団を送り、戦力を6個軍団に拡大して対抗します。そしてミトリダテス亡命(ポントスにローマ軍が入るとミトリダテスをカッパドキアに追いやれるカード)を手に入れたローマは、ポントスに向けてミトリダテスに決戦を挑みます。しかし迎撃に成功したミトリダテスに破れ、もくろみは失敗に終わります。
最後他にどうしようもなく、大軍でベスビアス山を降りてきたスパルタクスに、不利を承知でクラッススが攻撃をかけます(もしも勝てれば退却先のないスパルタクスは全滅)。しかしやはり勝てず、危機度振り切りを止められなくなったので、ローマの敗北となりました。
バランス的には少なくともこのシナリオは、慣れないとローマが難しいようです。一旦ローマがスペインからたたき出されてしまうと、反攻はかなり難しくなりますし、小アジアも早めに守りを固めておかないと、ポントス軍の大兵力を防ぎ切れません。ルールブックにも不慣れな場合危機度の振り切り条件を緩和するように書いてあります(今回は通常条件)。
このゲームでは順次複数方面に戦域が広がり、地域ごとの保持ユニット制限から、同じ方面でも複数戦線になりやすいので、毎回多数の戦線のどこを動かすか迷うところがおもしろいカードドゥリヴァン向きのテーマと言えます。また襲撃と和平工作は作戦を多様化させるようにうまく働いており、イベントも今回やった限りでは強すぎて問題というようなものはありませんでした。
どうもカードドゥリヴァンのゲームは、ハンニバル、パススオブグローリー、フォーザピーポー(GMT初版)の三大傑作以後、ルールを読んだ時点でやる気になれない、やってみたけどつまらないの凡作、駄作続きでしたが、スパルタクスでようやくまたやれるものが登場したという感じです。(Empire of the sunなどは良いという話も聞きますが、一方的な戦争は戦略級のテーマとして私は今一つ興味が涌きません。)スパルタクスが四大傑作に入れるかどうかはまだわかりませんが、少なくとも悪いゲームではないと思います。
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