For the People 2006年版の弱点
傑作ウォーゲームの新版・改訂版が出てみると、かえって悪くなっていたということは珍しくありませんが、傑作For the Peopleの2006年改訂はどうでしょうか。
1.南部州を支配するためには、今までに加えて州内の全ての資源都市を破壊し、脱出港を封鎖しなければならなくなった。
これによりバージニアとアーカンソーは、リッチモンドやリトルロックを守れば脱落しないようになりました。首都であるリッチモンドはもともと最優先で守られていますし、リトルロックも川地形なので、砦を作るだけでとても落ちにくくなります。
これでは北軍がいくら州内を荒らし回ろうと、南軍は要塞で寝ているだけで州を守ることができ、駆け引きも何もありません。歴史上南軍がバージニアを守るため、首都要塞から討って出て何度も激しい戦いを繰り返したのは、一体何だったというのでしょう。
これは明らかに改悪でしょう。
2.北軍の騎兵は失われても1ターンで帰ってくるようになった。
北軍騎兵の戦死に大きなリスクがあった以前のルールは、その可能性を最小限に抑えるように、大胆な戦略の中にも緻密な配慮を求められました。しかしこの変更では、数を頼みにして適当に戦闘を仕掛けられるようになり、初心者好みの荒っぽい展開が予想されます。
これはあまりエレガントな変更とは思えません。
3.南軍に支配されている北部州都ごとに、北軍の増援が1減る。
自然なルールの気もしますが、むしろ危機の時の方が志願兵が増えるのではないかという気もします。特に変更する必要は感じられません。
4.他の資源都市に連絡線の引けない脱出港は、閉鎖されているとみなされるようになった。
物資が届いても人がいなければ兵にはならないということなのでしょうが、それなら後で連絡線が引けても復活しないのは疑問です。それよりも問題なのは、クリテンデンの妥協カードは脱出港に使えないという規定が骨抜きになり、状況によってはこのカードだけで海域を封鎖できてしまうことです。ちょっと危険な修正です。
5.砦の構築に必要なカードが、南軍は3になり、北軍はどれでも良くなる。
物資量の差を表したい気持ちは分かります。しかし南軍は戦略値3のカードを常に残しておかないと、ミシシッピ沿いの砦を全て破壊されただけで、いきなりミシシッピの支配を奪われることになります。しかも北軍は1のカードの使い道が他にほとんどないので、これを乱用して北部を1SP+砦による「地雷」だらけにするという、理不尽な北部侵攻妨害策が横行します。
この変更は大失敗でしょう。
6.南軍の砦が破壊又は捕獲されると、南軍は戦意1を失い、北軍は戦意1を得る。
戦闘でも中規模以下なら何もないのに、ただの砦が戦意に影響するのは疑問です。またこれにより北軍は、沿岸要塞の占領を使って、運の変化の衝撃をいつも効率的に利用できるようになります。納得のいかない変更です。
7.除去された砦は次のターンまで使えない。
実質南軍にのみ影響するルールで、南軍が砦を作り切っている場合、ミシシッピ河沿いの砦を1ターン中に全て破壊するだけで、北軍はミシシッピの支配を得られるようになります。6個目の砦を置くことだけに、なぜこんな大きなリスクを負わせるのでしょうか。
全く理不尽な変更です。
8.戦力のない所へ将軍を置き去りにできない。
他のルールの趣旨からして当然のルールです。しかしこのゲームでは、無能な将軍も戦死チェックの弾よけとして役に立つので、わざわざ規定を作らなくてもそのようなことはあまりしないでしょう。
9.元々の北部州のみが襲撃の対象になる。
北軍が襲撃を恐れて前半には中立州を取りたがらないのを、ヒストリカルに早く取らせる効果があります。しかし反面、ブラッグのケンタッキー侵攻は全く無意味だったことになってしまいます。またゲーム後半には南軍の積極策は可能性がなくなり、緊張感が低下してしまいます。さらに中立州関係のイベントが、ごく序盤に引かない限り無価値になってしまいます。マイナスの方が多い変更です。
10.Foward to Richmondによる活性化は強制になった。
南軍が2つの軍をリッチモンドとシェナンドゥ渓谷に置いてこれを使うと、ワシントンにいるポトマック軍はワシントン放棄を強要され、南軍は空になったワシントンをただ取りできてしまいます。しかも居座る南軍によって北軍は戻って来れないため、南軍はメリーランド、ペンシルバニア、デラウェア、ニュージャージーと支配を置き放題です。第3〜5ターンにこれをされたら、ほぼ南軍が勝ってしまいます。かと言ってプレイノートにあるようにモンロー要塞にもう1つの軍を置くのは無意味で、マクレランが行けばワシントンを守りきれなくなるし、必要なら南軍はそれを撃破するでしょう。
有力な対策は、発動条件を避けて軍をボルチモアに下げ、フレデリックに8戦力以上置いて1回でワシントンに入れないようにすることです。しかしデザインノートではリンカーンと民衆の進撃圧力を表すと言っているのに、これでは逆に北軍はリッチモンドから4スペース以内に軍を入れるのを避けるようになってしまいます。またこれによりワシントンが守りにくくなり、南軍はワシントン攻撃ばかり狙うようになるでしょう。
このルールは完全に壊れています。
11.強襲上陸修正を上げるカードは、全て修正を2増やすようになった。
前のルールでは、ニューオーリンズLA、サバインシテイーTXなどの南軍重要港湾は、2戦力を置くことでだいぶ持ちこたえることができました。しかしこんなに簡単に上陸修正を上げられたら、もはや港で守るのは諦めなければなりません。限られた戦力の中で、どこを守りどこを見捨てるか考えるのが南軍の醍醐味なのに、どこも守れないのでは全く興ざめです。
これは最悪の改訂でしょう。
以上私から見ると2006年版の改訂は、良くなったところはほとんど無く、悪くなったところばかりに思えます。しかし好運なことにクロノノーツゲームのサイトには、まだ2000年版の和訳ルールが残っています。もし2006年版をやってみて私と同じ不満を感じた人は、今でも2000年版をプレイすることが可能です。カードドゥリヴァンの最高傑作For the Peopleをぜひ試してみてください。
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