金融商品の甘い罠
近ごろ銀行預金の低金利に乗じて、絶対有利を唱う金融商品が賑わっています。しかし世の中そんなにうまい話があるものでしょうか。おいしそうな金融商品の裏に隠された罠について考えてみます。
1.個人向け国債
これは日本国が莫大な財政赤字を補う一環として、個人にも買える10年物国債を発売したものです。銀行預金より高い利率、今後金利が上昇しても利率はそれに連動すること、1年以上たてば1年分の利息を返すことでいつでも換金できるなど、元本保証かつ高金利で、銀行預金より絶対有利な商品だと、怪しいファイナンシャルプランナーは言います。
しかしそこには危険な罠があります。もちろん第一に国が債務不履行をやらかしかねないというのもあります。実際そのようなことは過去や世界には珍しくなく、日本も戦争の時にやらかしています。ところが個人向け国債の危険はそればかりではなく、そのしくみ本体にも内在しているのです。それは中途換金の時に返す利息は、税引き前の金額だという事です。この危険さはほとんど説明されていません。
いいかげんなファイナンシャルプランナーは、「税金分もうちょっと取られるけど、1年半以上預ければ元本を割ることはないから」などと言います。ですが次の例を見てみればこれが大嘘だとわかります。
たとえば最初の2年間の利率が0.5%で、3年目は5%になり、3年で解約したとしましょう。5%は長期国債の利率としてはごく一般的なものです。すると最初の2年の利息は税引き後で0.5*2*0.8=0.8%です。そして3年目は5*0.8=4%がつきますが、1年分の利息5%を引かれると・・・「おおっと、なんてこったい!3年も預けたのに0.2%のマイナスかよー!」
ではもっと長く持っていれば安心でしょうか。仮に最初の8年間の利率が0.5%で、9年目が20%で9年たって解約したとしましょう。国債の信用不安やインフレなどがあれば、長期金利が20%というのはそれほどめずらしい率ではありません。この場合最初の8年は税引き後0.5*8*0.8=3.2%、最後の1年は20*0.8=16%がつきますが、最後に1年分20%を引かれると・・・「うっひゃー、なんてこったい!9年も預けたのに0.8%のマイナスかよー!金返せー!」
ここで「金利が20%もつくならそのまま満期まで持ってればいいんじゃないの?」と思う人がいるかもしれません。しかし金利が異常に跳ね上がる時というのは、それ以上にインフレになっており、金利が物価上昇に追い着かないのが普通です。
こんな時銀行預金なら解約してもそれなりの利子がもらえ、外貨なり現物なりを買うことができます。しかし個人向け国債を買ってしまったが最後、インフレで目減りするのを甘んじて受けるか解約で元本割れするか、苦渋の選択をせまられることになってしまいます。こう考えると個人向け国債は、大きなインフレが起きても個人資産が海外に逃げ出して円が暴落しないようにするための、巧妙な仕掛けとも思えてきます。
歴史上財政破綻で大インフレになった国は、日本も含めて数多くあります。それでも莫大な借金を抱える今の日本が、今後10年間大インフレになることはないと、あなたは断言できますか?
2.外国為替証拠金取引(FX)
知っている人はこれが危ない商品の代名詞だと分かりますが、まだまだこれを「よく言われるような危ないものではない」とだますサイトや業者が後を絶ちません。そういう所は「昔は詐欺業者がたくさんいたけど、今は規制する法律ができたし、信頼できるところを選べば大丈夫」「自分でリスク管理ができれば危なくない」「他の外貨商品に比べて為替手数料は安く利息は多いから、一時的に為替が悪くなっても、ずっと持っていれば安全有利な外貨預金として使える」と甘い言葉を並べます。
しかし法律は詐欺業者の消滅を保証しませんし、一般人にはどれが怪しい業者か見分けはつきません。有名でよく紹介されていても、ぽっと出の業者などいつ悪徳業者に変貌するかわかりませんし、取引のためのコンピュータツールにいかさまが仕掛けてあっても素人ではまず分かりません。
しかもLTCMに代表されるヘッジファンドの破綻などでわかるように、プロでも相場のリスク管理は難しいものです。まして素人に対して「リスク管理をきちっとすればいいだけ」と要求するのはかなり自分勝手な言い分です。
さらに持ち金の何倍もの取引をするレバレッジを使わず、外貨の買いだけをやっていれば、FXは絶対有利な外貨預金だと嘘ぶくのもほんの今だけのまやかしです。FXで金利に見えるスワップは、実は預けた金で得る本当の利子ではなく、日本円を借りて外貨に替えて貸したその金利の差額を得るキャリートレードというものです。たまたま現在日本の金利がほぼ0のため、外貨を買うとまるまる金利がもらえているだけなのです。
もし外貨を買って為替が円高に動いてしまった場合、他の外貨商品なら金利をもらいながらいつまでも円安になるのを待つことができます。ところがFXでこれをやっていて、その間に日本の金利が上がると大変なことになります。他の外貨商品や円の銀行預金ならどんな時でもそれなりの金利をもらうことができますが、FXのスワップは金利差なので、金利のつもりでいたスワップが0になったりマイナスになったりするのです。「預ければ預けるほど利子をとられる?何が絶対有利な外貨預金だー!」後になって気づいても遅すぎます。
もちろんこれらのリスクを承知でなおも購入するというなら別に構いません。でも何も知らずに甘い言葉に乗せられて飛び込むと、どんな事になるかはみなさんマルチで経験ずみですよね。
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