多人数ウォーゲームによくある問題
 
 多人数ウォーゲームは、盤上の作戦の優劣を争うのに加え、他のプレイヤーとの外交戦やより複雑な相互作用という要素が加わり、深いおもしろさがあるものですが、複雑さゆえに一歩間違えるとゲームがまともに機能しなくなることがあります。

1.ゲーム側の問題

敗者投票(作戦は勝敗に関係ないの?)
 ウォーゲームで相手に影響を与える手段は主に戦闘で、これは常に自分の損失と隣合わせであり、よくよく状況や作戦を考えてやらないとかえって自分が不利になる危険性があることが、無秩序な他者攻撃の抑制力になっています。しかし多人数ゲームで、カード攻撃などリスクが低く対象も制限されない攻撃手段が多数用意されすぎると、盤上の作戦の妙など関係なく、結局誰を生け贄にするかの敗者投票(勝者投票)をやっているだけになってしまいます。
 この最も極端な例は、今やほとんど語られることのないエポック社の神々の戦いでしょうか。このゲームは信者獲得戦争を繰り広げた後、その結果に応じた枚数のカードを獲得するのですが、勝敗は最後のアルマゲドンにおいてそのカードで誰でも好きなプレイヤーを攻撃し、生き残ったプレイヤーが勝ちという凄まじいものです。一人で過半数を獲得するというありえない大勝利をあげない限り、盤上のプレイに勝敗は全く関係なく、アルマゲドンでの敗者投票だけで決まってしまいます(うろおぼえな部分あり)。
 最近のゲームでは新戦国大名が、同盟国を通って再配置でき本拠への繋がりを切ると勝利得点にならないルールから、最終ターンに複数プレイヤーで協力すればどんな有利なプレイヤーも大抵最下位に落とせてしまう、かなりの敗者投票ゲームでしょう。

最後の逆転(今までのは一体なんだったんだ)
 最後まで勝敗のわからないおもしろいゲームの意味を取り違えたデザイナーが、最後の逆転をシステムに強力に組みこんだ結果、途中のプレイが勝敗にほとんど関係なくなってしまっているものがあります。
 上記の敗者投票ゲームの例もそれに当たるものですが、それ以外の例として、ウォーゲームではありませんがヒストリーオブザーワールドが挙げられるでしょう。これは最終ターンの担当国の引きと割り振りがあまりに強力で、それだけで勝敗が8割方決まってしまいます。

プラスサムゲーム(戦う意味ないでしょ)
 多人数ウォーゲームでは、争うことで損失を受けるより部分的な利益の獲得の方が有利と互いに判断すれば、妥協が結ばれることがあります。このあたりの判断・駆け引きが醍醐味の一つでもあります。
 ところがもし妥協しても、戦って勝ったのと同じ利益を両者とも得るとしたらどうでしょうか?多人数の中でその人たちだけが有利になるのですから、損失を伴う戦闘をする理由はありません。たまにそんな極端なプラスサムゲームがあります。
 具体的には例えばパックスブリタニカの共同支配です。これは1人で土地を支配したのと同じ収入を、共同支配者全員が得られるという不思議なルールです。まともな損得勘定のできない人で無い限り、あちこちで共同支配を作りまくることになるでしょう。パックスブリタニカの場合、それでもゲームは成り立ちますが、さすがにこれはすごすぎるということで、ネットでは共同支配の場合収入が減るルールも出ているようです。
 他にはHere I standがやはりプラスサムゲームの問題を持っています。このゲームでは土地を取られてもその相手に降伏すると、自分の損失は消え相手にVPが入るだけです。そして土地はいつでも交渉で人にあげられるので、八百長(わざと負け)やり放題です。例えば3人で組んでAはB、BはC、CはAに土地をあげてから、AはB、BはC、CはAに降伏します。結局土地はそのままで3人は労せずしてVPが入ります。この方法に限らず2人でVPとカードを交換するなど方法はいくらでもありますが、全てプラスサムゲームになっている事が原因です。これも問題が認識されたのか、続編では降伏ルールは変更されたらしいです。

2.プレイヤー側の問題

勝利を捨てる(なぜベストを尽くさないのか!)
 すぐに自分の勝敗を投げ出して、誰かを勝たせたり負けさせたりすることに喜びを見出す人が、たまにいるようです。本来多人数ウォーゲームは、多人数で勝とうとする互いの戦略を読みあい駆け引きをすることで、千変万化の複雑な戦略が繰り広げられることが醍醐味です。
 しかし多人数がゆえに自分の勝利を諦めて捨て身の攻撃をすれば、自由に誰かを勝たせたり負けさせたりすることは容易で、そんなことをされたら戦略も駆け引きもあったものではありません。そんなプレイヤーが一人でも入っていると、もはやゲームはゲームではなくなり、その人一人の安直なゲーム支配の快感ために、皆が犠牲になってしまいます。
 もちろん完全に勝利の見込みが無くなったプレイヤーが、気ままに振舞うのはしかたないかもしれません。しかしまだ少しでも勝利の可能性が残っているなら諦めず、皆の楽しい時間を奪わないようにしましょう。

「なぜベストを尽くさないのか!」

 
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