利己的と害他的
利己的や利己主義は非難の言葉として使われます。しかし本当に利己的なのは悪いことなのでしょうか?
利己的の反対語
「利己的」の反対語は何でしょうか?一般的な感覚でも辞書でも、「利他的」と言うでしょう。
ですが考えてみてください。一つの物事が同時に反対語両方の性質を持つことはありません(例えば「大きくて小さい」というのは、変です)。しかし商取引、契約、条約といった社会で行われる多くのことは、一般的にお互いの利益のためにするものであり、「利己的」かつ「利他的」というのは実によくある事です。つまり「利己的」の反対語が「利他的」というのは誤りなのです。
では「利己的」の正しい反対語は何かと考えれば、自分の利益と相入れないものですから、「害己的」であることが簡単に分かります。同様に「利他的」の正しい反対語は「害他的」です。
悪いのはどれか
では「利己的」「利他的」「害己的」「害他的」の中で、最も悪いのはどれでしょうか。普通に考えれば「害他的」でしょう。では2番目に悪いのはどれでしょうか。恐らく「害己的」でしょう。
つまり考えられる4つの性質の中で、「利己的」は少なくとも悪い方ではありません。それどころか先に述べたように、世の中に必要不可欠の商取引は利己がその原動力になっています。また犯罪が刑罰で抑止できるのも、利己がある故です。刑罰が恐くない、つまり「害己的」な人には刑罰が抑止力にならないのは、近年時々起こる自滅的凶悪犯罪や自爆テロなどで分かるでしょう。
つまり「利己的」であることは、良いことこそあれ非難されるようなことではありません。ではなぜ「利己的」はこんなにも悪いことのように言われるのでしょうか?
「利己的」悪玉論のわけ
2人で利益を取り合うゼロサムゲームでは、相手の損害イコール自分の利益となります。つまり「利己」イコール「害他」になります。全てにおいてこれが当てはまると勘違いしている所が、「利己的」悪玉論の原因でしょう
しかし現実社会は多人数ゲームですから、他者に与えた損害が即自分の利益になるとは限りません。他者に損害を与えることで自分の利益を得るのは、相手の協力が得られないので実現しにくく、犯罪に該当する場合は罰があることを考えると、利己を図る方法としては効率的ではありません。それよりも他者に利益を与えることで自分の利益を図る方が効率的です。
つまり本当に「利己的」な人は、不必要に「害他的」な行動をすることはなく、むしろ「利他的」に行動するはずです。ですから「利己的」を非難するのは誤りで、「害他的」を非難すべきなのです。
存在するのか?
しかしただ「害他的」なだけの人とか、ましてや「害己的」な人なんているの?と思う人もいるかもしれません。もちろんいないのが理想ですが、残念ながらたくさんいます。
「害他」の典型的な例はいじめや差別、戦争などです。これは古今東西を問わず存在するようです。また他人の利己行為を非難、妨害するのもやはり害他行為です。自分の利益にならない他人の損害を喜ぶとは全く情けないことです。それから「害己」についても、サービス残業、有休不消化、特攻など、外国人からは狂気にしか見えないような害己的行為が、日本では平気で行われたり賛美されたりしています。
しかし世の中にはさらに悪い「害己的」かつ「害他的」な人が少なくありません。先ほどの自滅的凶悪犯罪や自爆テロは極端な例ですが、自分の悪い境遇を改善するのではなしに、ただ境遇の良い他者に損をさせようという発言や行動をする人は想像以上に多いようです。「俺も苦労しているんだからお前らも苦労しろ」というのは全く意味不明の理屈です。このような人ばかりだと社会は悪くなるばかりです。
無私の利他主義は良いことか?
では自己犠牲の精神で行動する「害己利他主義」は善人の見本のように言われますが、本当に文句なく良いことでしょうか?実はこれが意外と善し悪しです。自分の受けた損害以上に他者に利益を与えれば、社会全体としては利益になります。しかし他者に利益を与えても、自分の損失の方が大きければ、社会全体としてはマイナスです。
どうも今の日本の異常な「お客様は神様主義」は、後者に陥っているように思えます。本来これは客をおだてることで金を引き出す策略であり、「利己利他主義」だったはずです。それが需要の減少で金を引き出せなくなる中で、自分の利益にならなくても客の利益を図るべきなどと言いはじめ、しまいには客であればどんな暴言、暴力も許されるかのような完全な勘違いをする者まででてくる始末です。
商取引は互いの利益のためにする対等な行為であり、金を払う方が偉いなどいう「拝金主義」は全く誤りです。消費者側が不当に強いこの誤りが値下げ圧力の強さとなり、いつまでも日本でデフレが続く原因のひとつなのかもしれません。
日本人は戦後たくさん働けばその分良くなると働いてきましたが、今や物が十分行き渡って需要が減り、需要を越えた労働は弊害しかもたらさなくなっています。利他のつもりが害己害他になっているのです。日本人はもっと遊ぶことを考えるべきです。そうすれば需要が増え供給が減ってデフレが解消し、利己が利他になることでしょう。
「世の中にゲームより楽はなかりけり。浮き世の馬鹿はやらず働く。」(元語 「世の中に寝るより楽はなかりけり。浮き世の馬鹿は起きて働く。」)
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