The U.S. Civil War マクレラン、グラント検証


 以前The Civil War(Victory Games)の指揮官の能力について検証してみましたが、最近GMTからリメイク版的なThe U.S. Civil Warが発売されたので、こちらも検証してみることにしました。前作ではマクレランが異常に過小評価、グラントが過大評価されていましたが、今作はどうでしょうか。
 The U.S. Civil Warでは、前作同様1戦力が5千人を表し、同一ヘクス戦闘です。しかし戦闘はずっと簡単で、各軍の戦力を表に当てはめ、サイの目に指揮官と地形によるサイの目修正を加えて、相手に与える損害を出します。指揮官は戦力によって1〜3人まで使用でき、修正は攻撃と防御に分かれています。より多くの損害を相手に与えたほうが勝利で、同数ならひし形、星がついている方がより上と判断されます。

戦闘結果表
指揮官(表)
指揮官(裏)


半島戦役・七日間の戦い (南軍攻撃)

北軍 10万人(20戦力)
修正値
マクレラン 2
サムナー 1
SAC 2
合計 5
損害中央値 3、3*

南軍 8万(16戦力)
修正値
REリー 2
ロングストリート 1
APヒル 1
SAC 2
合計 6
損害中央値 3

 通常の修正では互いの損害が史実より少なすぎるので、首都を巡る攻防で互いに本気を出したということで、双方特別アクションカード(2修正を与える)を使用したものとします。
 史実では北軍1万5千程度に対して南軍2万程度の損害を受けています。この戦いは退却戦で、北軍は塹壕を準備できませんでした。北軍が史実程度の損害4を南軍に与えるためには、5では足りず9の修正が必要です。修正は4足りないので、マクレランの防御修正は6が妥当ということになります。

アンティータムの戦い (北軍攻撃)

北軍 8万7千人(17戦力)
修正値
マクレラン 0
フッカー 1
バーンサイド 1
SAC 2
合計 4
損害中央値 3

南軍 4万1千(8戦力)
修正値
REリー 2
ジャクソン 2
塹壕 2
SAC 2
合計 8
損害中央値 3

 やはり南北戦争中屈指の激戦ということで、互いに特別アクションカードを使ったことにします。河や塹壕同様の窪地の道を利用できた南軍には、塹壕の修正をつけるべきです。
 史実の結果では共に1万2千程度と同等の損害で、南軍が撃退されているので、南軍の結果が3であれば、北軍の結果は3*が史実と同等になります。北軍の損害中央値が3*になるには、マクレランの攻撃修正は1.5必要です。
 ただこの戦闘結果表はクレイグ・シモンズによるアンティータムの戦いの戦力を意識していじったかのように、北軍は丁度17戦力でコラムが上がり、南軍は丁度8戦力で次のコラムに足りなくなっています。歴史群像の資料を見ると、北軍7万5千(15戦力)対南軍3万5千(7戦力)となっており、これで計算すると北軍はコラムが1下がって、マクレランの妥当な攻撃修正は4.5となります。
 またウィキペディアでは、北軍8万7千人(17戦力)対南軍4万5千(9戦力)となっています。これで計算すると南軍のコラムが1上がり、それだと結果が大きすぎるので両軍ともSACを使わなかったことにすると、マクレランの攻撃修正は3.5が妥当となります。

 これらの値を平均すると、マクレランの攻撃修正は3程度が妥当ということになります。なお今作では3以上の損害を受けると勝っても士気喪失し、「アンティタームでマクレランは勝ったのに追撃しなかった」というよくある批判はお門違いだということが表されています。

 今作でマクレランは防御修正だけはリー並の2になったので、一見正当な評価に近づいたかのように見えますが、実際の戦闘結果に当てはめてみると、相変わらずマクレランは異常な過小評価がされているのがわかります。軍指令官の時のマクレランの戦闘修正は0&2ではなく3&6が妥当です。まったく、マクレランを最弱将軍扱いしている人は、何を根拠にして言っているのでしょうか。
 では次に前作では過大評価されていたグラントを見てみましょう。前作ではリーより弱かったグラントが、今作ではリーと同じ2&2になっており、この時点で既に前作以上の過大評価に見えますが・・・

樹海とスポットシルヴェニア (南軍攻撃・北軍攻撃)

北軍 10万人(20戦力)・9万人(18戦力)
修正値
グラント 2
ミード 1
ハンコック 1
SAC 2
合計 6
損害中央値 3*

南軍 6万(12戦力)・5万人(10戦力)
修正値
REリー 2
ユーエル 1
(塹壕 2)
SAC 2
合計 7(5)
損害中央値 3(2*)

 連続で起きた樹海とスポットシルヴェニアの二回の戦いは、ゲーム上はどちらも同じコラムになり、結果も共に南軍9千、北軍1万8千程度の損害です。北軍は倍の損害を受けて敗退しており、このゲームでは同程度の損害を与えて勝つのが普通というのは、非常識なくらいグラントの過大評価です。
 スポットシルヴェニアで南軍の損害が北軍の半分になるには、北軍の目は修正後8.5にならなければならず、そのためにはグラントの攻撃修正は−6でなければなりません。
 そして樹海ではリーが攻撃したので南軍に塹壕が付かず、中央値は2*になります。北軍は戦力が多すぎて、どんなに低い目を出しても、その半分の結果といえる1◇が出せません。そこで同じ結果を出すのに必要な南軍のもう+2修正1行分を、17+コラムの1行−3修正分に置き換えると、グラントの防御修正は−9となります。
 しかし、−6?−9?なんでしょうか、これは?そもそもこのシステム大丈夫なんでしょうか? あまりにひどいので、フレデリクスバーグの戦いでシステムが機能しているのか検証してみます。

フレデリクスバーグ(北軍攻撃)

北軍 12万人(24戦力)
修正値
バーンサイド 0
フッカー 1
サムナー 0
合計 1
損害中央値 2*

南軍 7万(14戦力)
修正値
REリー 2
ロングストリート 2
D.H.ヒル 2
塹壕 2
合計 8
損害中央値 3

 史実の結果は南軍5千に対し北軍1万2千の損害です。妥当値を出すのが難しいですが、両軍目が悪くて7.5の目を出した結果、南軍の戦果は2.5(1.25万人)になったと考えます。7.5の目で北軍が1の結果の境目5.5の目になるには、バーンサイドの攻撃修正は−3でなければなりません。なんだ、このシステム・・・

コールドハーバー(北軍攻撃)

北軍 11万人(22戦力)
修正値
グラント 2
ミード 1
ハンコック 1
SAC 2
合計 6
損害中央値 3*

南軍 6万(12戦力)
修正値
REリー 2
APヒル 1
塹壕 2
SAC 2
合計 7
損害中央値 3

 東部でのリーとグラントの対決最後の野戦で、南軍3千に対し北軍1万2千と、グラントは4倍もの損害を出す信じられない敗北を喫しています。
 ここまで敗北はこのCRTでは再現できないので、この戦力で最大の損害差になる目で勘弁してあげます。北軍の損害を最大の3*にするための2修正1行分を、17+の列の1行−3修正分とします。そして南軍の損害を1*の低いほうにするため、もう−12修正が必要です。するとグラントの攻撃能力は2−3−12で−13ということになります。
 はあ?−13?ひどすぎる・・・

チャタヌーガ (北軍攻撃)

北軍 7万人(14戦力)
修正値
グラント 2
シャーマン 2
トーマス 1
合計 5
損害中央値 2.5

南軍 4万(8戦力)
修正値
ブラッグ 1
ハーディー 2
塹壕 2
合計 5
損害中央値 2

 史実では北軍5800に対し南軍6700の損害と、南軍の損害は15%多い程度です。ゲーム上の損害は史実より多めになっていますが、南軍の損害が2なら北軍は2*程度でしょう。するとグラントの攻撃修正は0.5程度が妥当となります。実際にはブラッグの能力はもっと低く、グラントの修正もそれに合わせて下げなければならない気がしますが、それを考え始めるときりがないのでそのままの数値を使います。

シャイロー(南軍攻撃)

北軍 5万5千人(11戦力)
修正値
グラント 2
シャーマン 1
塹壕 2
SAC 2
合計 7
損害中央値 3

南軍 4万(8戦力)
修正値
A.ジョンストン 1
ブラッグ 1
SAC 2
合計 4
損害中央値 2

 グラントが防御側となった戦いであるシャイローは、史実では北軍1万3千に対し南軍は1万1千の損害で、北軍の損害の方が多くなっています。しかし戦場にとどまったのは北軍なので、両者同等の2損害とすると、グラントの防御修正は−5となる必要があります。塹壕については戦況図に記載があり、外して計算することはありえません。

 グラントが攻撃したスポットシルヴェニア−6、コールドハーバー−13、チャタヌーガ0.5を平均すると、グラントの攻撃修正は−6程度と考えられます。グラントの攻撃能力がバーンサイド以下というのは、リーに完敗を喫し続けた事実から考えれば当然のことです。
 一方グラントが防御側だった樹海−9、シャイロー−5を平均すると、グラントの防御修正は−7になります。防御側有利なこの時代に防御側で完敗できる能力の持ち主ですから、こんなものでしょう。
 結論としてグラントの戦闘修正は−6&−7が妥当になります。はあ、グラント、弱すぎるにもほどがある。まったく、グラントを最強将軍扱いしている人は、何を根拠にして言っているのでしょうか。


 以上の結果からThe U.S. Civil Warは、マクレランの過小評価、グラントの過大評価がかえってひどくなっています。しかも戦闘に対する将軍の能力の影響が史実に比べて小さすぎ、妥当な能力を算出すると極端な数値が必要なシステムとなってしまっています。For the Peopleの「3倍に満たない戦力差は戦闘結果に影響なし」という大胆な(そして恐らく適切な)システムにデザイナーが馴染めず、このようなシステムにしたのかもしれませんが、全然史実の結果が再現できません。
 ただ戦闘結果表の正確さに拘らなければ、The Civil Warにあった、毎ターン巨大な北軍が沿岸間をテレポートできるとか、グラント、シャーマン、トーマスを昇進させることが最優先という序盤の謎戦闘といった致命的問題が解決され、面倒なだけだった海軍ルールは選択ルールになったり、アクションは1ターン4回に固定されてだらだら長引かなくなったり、増援もアクション中でなくまとめて配置できるなど、欠点だったプレイアビリティも大幅に改良されています。
 完成した傑作と言われるゲームをテーマだけ変えてマネして、元ゲームよりふた回りも三回りも改悪したようなどうしようもない作品がたまにあります。それに比べればこのゲームのように、古くて不完全なゲームの明らかに悪いところをしっかり改良して、同じテーマのリメイクとして出す方がずっと良いと思います。
 
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