我々は防御側ではない
 
 シチリア上陸作戦「ハスキー」の初頭、第505パラシュート連隊を率いるジェームズ・ギャビン大佐は、降下した部隊を集めて移動している最中、戦車のエンジン音が近づいてくるのを聞いた。それは反撃に出たヘルマン・ゲーリング装甲師団だった。
「大佐!ティーガーが5両も接近してきます。我々には対戦車砲も無く、バズーカでは奴らに勝てません。後ろの丘に布陣している味方に合流して、守りを固めましょう!」
「それは完全なる誤りである!我々は防御する側ではない。ティーガーなど恐れるに足らず。丘の部隊も呼びよせ、全軍で奴らに攻め掛かるのだ。貴様ら、続けー!」
「た、大佐ー!」

 という訳で、今日のASLはU30スワッティング・アト・タイガー。タイガーをおびき寄せるというような意味なのでしょうか。アメリカ空挺と歩兵の混成部隊が、ドイツの跨乗兵を乗せたティーガーと遭遇し、さあどうしようという状況から始まります。
 どちらも初期配置がほとんど決まっています。アメリカは10−3指揮官(ギャビン大佐)率いる19個分隊が道路を移動中で、いくらか配置に自由のある6個分隊と75ミリ短砲身野砲(徹甲弾なし)が丘にいます。そしてドイツは10−2、9−2指揮官のいるエリート5個分隊を分乗させたティーガー5両が丘の脇で列をなして機動中で、第3ターンにはエリートもう6個分隊がアメリカから見て右奥の道付近から出てきます。
 バズーカは弾薬不足のため9以上で故障し、ギャビン大佐が死亡するとそれを見たアメリカ兵は全員LLMCを強制されます。
 ドイツの勝利条件は複雑です。もしティーガーの損失が2両以下で、かつ稼いだ損害ポイントがアメリカの2倍以上(最低でも1は必要)で、さらに6個分隊相当以上をアメリカ側のボード2に入れていたら、その時点で即勝利。あるいはティーガーの損失が1両以下で、10ターンの終了時に24損害ポイントを稼いでいても勝利です。

 勝利条件がドイツに課されており、ティーガーが強力なことから、一見ドイツが攻撃側で、アメリカは手前の丘に逃げて守るシナリオのように見えます。
 しかしアメリカにはティーガーを正面から倒せる兵器がありません。そのためアメリカ軍が逃げると、ドイツは正面からティーガーで接近し一方的に撃ちまくることができます。これで半個分隊でも除去してしまえば、ドイツはアメリカ軍がいない方に歩兵を前進させるだけで勝ててしまいます。
 ですから実はこのシナリオはアメリカの方が攻撃側で、丘を利用してドイツ軍を奇襲することに気付かなければ、たいてい負けるようになっているのです。
 それを踏まえて戦力評価をすると、アメリカは丘の上からドイツ軍を攻撃することにより、攻撃補正1.5倍を得て12%の優勢で予想勝率8割となります。しかし今までに例の無い特殊な戦闘形態なので、評価が正しいかどうかは分かりません。
 子供がドイツ、私がアメリカです。


 第1ターン、アメリカ軍は全ての部隊がドイツ軍に向かって前進し、近くにいて届く部隊は丘に登って脇から隣接して、ドイツ軍に近接攻撃を掛けようとします。ティーガーは機動中で歩兵もそれに跨乗中なので、ドイツは火力がかなり制限されます。
 しかしそれでもドイツは緊急脱出も覚悟で撃てるだけ撃ち、1個分隊半を除去してしまいます。アメリカは10−3のギャビン大佐も含めて前進射撃をしましたが、歩兵を一部混乱させたものの除去はできませんでした。
 ドイツはティーガーをアメリカ軍に向けて停止させ、歩兵は後方の建物などに避難させます。そして歩兵火力では勝っているアメリカですが、射撃戦ではやはり大した結果を出せません。しかも混乱して逃げてきたアメリカ9−1指揮官を、大佐の力で9以下一発回復と思ったら、12を出して負傷。おかしいな。


 第2ターン、正面からティーガーに狙われている丘で攻撃を続けるのはもう無理そうなので、アメリカ軍は左右に分かれて攻撃することにします。左に回り込んだ部隊は、林で混乱しているドイツ兵を撃ったものの、損耗させることはできませんでした。そして右手に回り込んだ部隊は、隠蔽のまま丘の端に頭を出して、脇から覗き込みます。
 肉薄してきたアメリカ兵に対し、ティーガーは砲と機銃で撃ちまくりますが、ここで故障が続出。2両が砲故障、1両が同軸機銃故障となります。そのためアメリカの1個分隊が背後の建物に回り込むことに成功しますが、ティーガーへの白兵戦は危険すぎてちょっと踏み切れません。

 第3ターン、ティーガーの狙っていない所であちこち顔を出し、何とか戦果を上げようとするアメリカ軍。しかしティーガーの隣の岩場に隠蔽状態で進んだアメリカバズーカ分隊が、戦禍で12を出してまさかのディスラプト。うーん。ただ幸か不幸か隣が戦車なので、潰走だけはできました。結局アメリカの戦果は無し。
 そして後半にはドイツの増援が到着します。ドイツは煙幕を撒き、それに隠れてドイツ兵を逃がそうとしましたが、大佐に煙越しで撃たれて彼らは混乱。さらにドイツはバズーカに側面を狙われているティーガーを救おうと、砲の故障したティーガーに丘を一段登らせ、隣から機銃でバズーカ分隊を撃とうとします。
 しかし別のバズーカがその側面を3ヘクス先から撃つ。確率はあまり高くありませんでしたが、うまく当たって走行不能。判定チェックをパスしたこのティーガーは、機銃を撃ちましたが効果はなし。そこでドイツはさらにもう一両の故障ティーガーを回して向かわせようとしたら、なんと4へクス先から石壁を越えてバズーカが背面に命中し、破壊されてしまいます。
 これでドイツは2倍の損害ポイントを満たせなくなりました。ティーガー1両のCVPは大きく、ここから強大な火力のアメリカ軍相手に打ち勝って、再び2倍あるいは24VPを稼ぐのはまず無理。走行不能のティーガーはいずれ破壊されるでしょうし、ドイツの増援も丘の頂上から機関銃で見張られて大きくは動けません。ドイツ投了です。



 変わったシナリオでいつもの基本戦術はあまり役に立たず、勝敗はアメリカが正しい作戦に気づけるかどうかでだいたい決まりそうです。

 
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