戦車運用の魔術師
 
 浜甲子園さんと3回目のVassal対戦。J178 古き友です。ライン河を越えてドイツ国内に進撃したアメリカ軍だったが、そこにはノルマンディー以来の宿敵が待ち構えていた。6.5ターンの終了時にドイツの獲得した損害ポイントが37以下であることを条件として、アメリカが7個以上の石造複数へクス建物を支配しているか、38以上の損害ポイントを稼いでいたら勝利です。なお捕虜の点数は2倍になりません。麦畑は耕されていて、アパートは仕切りの無い1階建て建物になります。
 攻めるアメリカ軍は、内7個がエリートの15個分隊と9−2指揮官に、76LのシャーマンM4A3(76)Wが2両、105ミリ榴弾シャーマン1両、76LのM10駆逐戦車2両、75ミリの新型軽戦車M24が3両です。アメリカ軍はエリートで、可能な2両の戦車にジャイロスタビライザーを積めます。
 そして守るドイツ軍は、二線級4個を含む12個分隊と、パンター2両、4号戦車J型1両、3号突撃砲G型1両、IFE12火力のハーフトラック1台です。可能な戦車にはシュルツェンが付き、建物にはAFVを初期配置できません。
 浜甲子園さんがアメリカ、私がドイツです。


 地図上には勝利条件となる集落が3つありますが、ドイツはどこまで捨てるか。まずアメリカ軍侵入口近くは、集中攻撃を受けるだけなので文句なく捨て。そして中ほどの集落も、攻撃側は侵入口の集落で広い石造建物正面を確保できるのに、防御側建物は狭くて射撃決戦に不向きな上、脇に回られると退却回復が難しくなります。
 一方最後の大きな集落まで下がると、攻撃側にはTEMの高い足掛かりが少なく、逆に防御側は連なった石造建物を利用できます。これは防御側に有利な地形で、集中決戦を旨とする臥流戦術にとって、ここ以外で戦う選択はありえません。
 さて難しいのは戦車の配置です。アメリカ戦車はエリートでAPCR弾が多く、パンターの側面を撃ち抜くに十分な砲を持った高速戦車もいる上、ドイツ戦車は建物に初期配置できないので、守りにくくなっています。
 この状況で戦車を分割したら各個撃破されるので、ドイツは見通しの良い左側に全車集中配置したい所です。しかしそうすると高速戦車が上方向に回り込んで来て良くないと考え、パンターを1両だけ村の中央で上向きに置き、左側の林にはダミーを置いてごまかすことにしました。
 あとは上側のアメリカ軍入り口をファイアレインで見張るため、中機関銃を左側の林で戦車ダミーとスタックさせ、蓋を開けている戦車を狙撃兵から守るための護衛半個分隊を少し撒きました。

 これに対しアメリカの盤内初期配置は軽迫撃砲のみで、左手から2両の戦車とライダーを侵入させ、残りは上側から侵入します。まずは軽迫撃砲と煙幕迫撃砲を持った戦車3両が、次々とファイアレイン予定線上に煙幕を置いていき、3つの煙幕でLOSを遮ってしまいました。ああっ?こんな手があったか!そしてアメリカ歩兵のフルスタック4つが、安全になった道路を駆け抜けます。何もできず呆然と見送るドイツ。
 さらにアメリカは3両の戦車を右上まで進め、左から入った2両の戦車を森の陰まで進ませました。ドイツの計画はいきなり大狂い。しかしまだ負けた訳ではない。防御射撃でどこか撃てる所はないか?
 すると中機関銃からアメリカ歩兵スタックへの線が、生垣から少しだけ外れているのに気づきました。これを撃ってみると丁度LOSが通っていましたが、隠蔽のためピン止まり。移動の時に気付いていれば。
 さらに集落の中央にいたパンターが、唯一撃てるかもしれない真上ちょっと右のシャーマンを撃ってみると、これも丁度見えた。妨害があって砲を回したので5以下でしたが、見事命中します。また狙撃兵もアメリカ戦車を1つスタンさせ、ドイツは作戦で後れを取ったものの運で取り返しました。

 第1ターン後半、ピンで逃げられなかったアメリカ兵をもう一度中機関銃が撃つと、蛇の目で1KIA。そしてドイツは集落の上側に狐穴を掘った後、パンターを起動しますが箱車で失速。そのためドイツ戦車の移動は微調整に留まります。
 続く前進射撃で失速パンターが煙越しにM24を撃ってみると、目は4で指揮官によってぎりぎり命中。ドイツはサイの目好調です。そして突撃でドイツ歩兵は強力な射撃戦列を組み上げました。
 第2ターン、このくらいの損害は移動のための必要経費。アメリカは中ほどの集落を占領すると共に、煙幕を撒きながら戦車と歩兵が右手にやって来ました。正面だけではぶ厚い石造戦列を崩せないことを見越しての移動です。安全な所を通って移動したため、互いに大きな損害は無し。


 2ターン後半、ドイツは戦車や歩兵で準備射撃してみますが、いまいち効かずピン止まり。そしてアメリカ軍の右シフトに合わせて、歩兵の一部を右に送ります。するとアメリカ歩兵の強力な火力により、パンツァーシュレックを含むドイツ2個分隊が混乱させられました。
 第3ターン、入念に配置されたアメリカ部隊が、焦点に煙幕を置きながら移動し、中央のパンターらの監視を抜けて大きく右側に回り込んで来ます。防御射撃では左側のドイツ戦車が、遠くのアメリカ1個分隊を混乱させたくらい。

 3ターン後半、アメリカ軍は広がりながら近づいて来ています。戦車を2両倒してドイツは有利だと思っていましたが、移動射撃に強く高速なアメリカ戦車があちこちに展開しているので、ドイツが単にこのまま待っていると、急所に回り込まれて一気に不利になりそうです。ではパンターで打って出るかと、アメリカの布陣の弱点を探しますが、どこを見ても隙が無く、下手に出ると脇を突かれてやられそうです。ここはドイツ、じっとこらえて急所を塞ぐよう配置換え。
 まず強いシャーマンが両方共右側にいるので、パンターも中央前面に集めて対抗します。ここは石垣があって右側面からの攻撃にも強いのです。そして左端にいた4号戦車を引っ込ませ、中機関銃分隊を町の内部に呼び寄せました。さらに町の右側にも歩兵防衛線を敷いて、全周防御態勢を完成させます。
 そして第4ターン、アメリカはスモークマジック全開で目くらまししながら、ドイツ軍を半包囲する形で全面対決態勢に入りました。この決戦はどうなる?


 4ターン後半、うーん、なんかこの形勢、もう全然ドイツ有利に見えない。石造歩兵戦列は本来かなり固いはずですが、右側は戦車と共に狙われていて安全とは言えない。左側もM24が煙幕を張った上で、歩兵を載せたM10が突っ込んで来ると、止め切れそうにない。さらに一番右に回り込んだシャーマンは、多分指揮官とジャイロ付きで、パンターの背後を狙って来そう。もしかしてドイツの方がむしろ不利なのでは?
 ただ待っていては負けそう、かと言ってあまり前に出るのもバズーカがあって危険。そこでドイツは、まず左の森のアメリカ分隊を撃って混乱させると、中央のパンターが2へクスだけ前進します。そして105ミリ砲シャーマンを撃ってみますが、緊急機動されて外れ、さらに隣へ撃った機関銃も故障。賭けに負けたパンターはすごすごと1歩後退しました。
 この動きによりパンターが微妙に突出した形になったので、右のパンターと左にいた4号戦車は両側面を守りに行きます。また他の歩兵は一旦後ろに隠れて防御射撃を避けましたが、煙越しに撃ってきた中機関銃スタックに3を出され、左の建物で隠蔽1個分隊半が混乱。これはまずい。左の防壁が維持できないかも。
 続いて前進射撃で右パンターが林の影のM24を狙ってみると、運良くLOSが通って命中。ラッキー。しかしこの賭けは本当にドイツの勝ちだったのでしょうか?次ターンで明らかとなります。

 第5ターン、吹き始める不穏な突風。まずアメリカ歩兵が左で煙幕を撒くと、M10がそれに隠れて回り込んで来ます。そして1両目が3号突撃砲の側面までやって来ましたが、これは町中の中軽機関銃がスタンさせなんとか止めました。
 続く2両目は対空ハーフトラックが撃って、ライダーの半個分隊は混乱。しかし頭を隠していたM10は、そのまま4号戦車の後ろに回り込みます。なんと4号戦車は回して撃っても4以下でしか当たらないのに、M10はAPCRがあって6以下を2回も振れるぞ。勝ち目の無い4号はsDと緊急機動で逃げますが、そうか、煙幕は突風だとすぐ消えて意味ないのか。
 その後アメリカは、パンターを狙って左前面で歩兵を突っ込ませ、右手では戦車支援を受けながら歩兵戦列に近接します。前のターンに受けた損害もあって、ドイツは全てを止め切れません。
 そして満を持してM24が、果樹園を抜けてパンターの側面に回りガンデュエル。そうか、こいつ修正を半分にして先撃ちできるのか。そして目は2、致命的命中、パンター炎上!ぐえええ!
 何という戦車運用魔術。ドイツはかなり考えて安全にやったつもりでしたが、あっさりと破られ危機に陥ってしまいました。しかも左前面の建物には、アメリカ半個分隊が白兵戦を仕掛けて来て、ここが落ちると流れが完全にアメリカのものになる。
 分水嶺となるこの白兵戦は、戦力3対2でアメリカ有利です。気合の籠るサイを振ると、なんとドイツが一方的にアメリカ兵を倒す大逆転勝利。九死に一生を得たドイツですが、この幸運を全体の勝利に結びつけられるのか?


 5ターン後半、ここで殊勲の半個分隊がパンツァーファウストを当てれば、あっさり勝ち。というドイツの甘い願いは虚しく潰え、3号突撃砲は無事M10を倒したものの、いろいろ困難が難しい。どうしたらいいかよく分からないけど、ここはもうドイツ総攻撃だ!
 まず左側機関銃2スタックが撃ち、パンターに隣接したアメリカ分隊を損耗混乱に。続いて対空ハーフトラックが、M10に近づいて機関銃戦を挑む。これは火力もモラルもドイツ側が有利で、M10に頭を引っ込めさせれば、4号が突っ込んで一方的に撃てる重要な手です。しかし前から危険に気づいて撃ち続けていたアメリカ軽迫撃砲が、ここでついに有効打を与えて走行不能、無念。
 それならば最後の手段、パンター出撃しかない。バズーカを避けて上の建物を周りながら、M24の後ろに出る。しかしこれにM24は緊急機動し、パンターの射撃は外れ。さらにそこの歩兵への銃撃も、1つピンにしただけ。
 こうなるともはや4号戦車は脱出不能で、スモークディスチャージャーも失敗し、逃げ切れずに炎上しました。ただM24が機動して火力が減ったので、そこに隣接する建物へパンツァーシュレック兵と半個分隊が突入に成功します。

 そして第6ターン、M24の所のアメリカ歩兵が撃ちましたが、パンツァーシュレック兵は倒せません。そこで指揮官とジャイロを積んだ76Lシャーマンが、パンターの側面を狙う賭けに出ます。シャーマンはパンターが視界に入ると、撃たれる前にジャイロ頼みの機動射撃。しかし残念ながらこれは当たらず、パンターが振り向いた後の追加射撃でシャーマンを倒して38VPを達成し、ドイツの勝ちとなりました。

 

 実はこのシナリオの戦力評価は、ドイツ7%の優勢で予想勝率7割でした。この優勢な戦力できちんと集中決戦戦術を使い、序盤に2両のアメリカ戦車を倒すという幸運に恵まれれば、本当ならドイツは楽勝のはずでした。ところが実際にはぜんぜんそうならず、最後はかなり難しい戦いで非常に苦労しました。これはどうしたことなのでしょう。
 それにはこの浜甲子園さんとの三連戦に共通する2つの理由があります。まずは浜甲子園さんの戦車運用戦術が非常に優れているということです。戦車の数々の装備やルールを最大限に生かし、歩兵と連携して効果的な場所に移動し多くの場所に脅威を与える、まさに戦車運用の魔術師です。
 そしてもう一つは、どのシナリオも攻撃側に高速戦車や煙幕の使える戦車が多く、防御側の守るべき場所がある程度広く、後方に回り込む余地があったということです。このようなシナリオでは戦車戦術の与える影響が大きくなります。
 私たちの集中決戦戦術は、歩兵主体のシナリオではかなり威力があり、戦力の優位があればそれを運用で覆すことはできないと今まで思っていました。しかし戦車戦術が重要なシナリオでは、上手に戦車を用いれば、これを覆しうるのが分かりました。そして特に今回のシナリオでは、損害ポイントによる勝利が両者にあり得るため、点数になりやすい戦車戦の影響がさらに大きくなったのだと思います。

 
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