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『……J……迎えに来て……』
SUGIZOからのそんな電話で叩き起こされたのが、なんと午前3時。
眠いっつってんだろーが! って喰ってかかった俺に、珍しく弱々しい声でそれだけ言って、SUGIZOは一方的に電話を切った。
着信表示はアイツの携帯のナンバーで。ってことはつまり。
「どこにいるか言わなきゃわかんねーだろーがー!」
うっすらと東の空が白み始めてる、まだまだ静かな街で、俺は思わず絶叫して、アタマ抱えて座り込んだ。
もちろん、SUGIZOの携帯にかけ直してはみた。が。
『……電波の、届かない所に、おられるか、電源が、入っていないため、……』
10回くらいかけてみて、それでもつながらない。俺に電話かけた後で電源切りやがったな、アイツ……。
それでも、動いてるモノがまだまだ少ないこんな時間に、あっちこっち駆けずり回ってSUGIZOを探してる自分を、自分で嘲笑いたくなる。
普段ならちょっとしたことでいがみ合う間柄の俺に、なんでアイツがわざわざあんな泣きそうな声で電話してくる必要がある?
いつもならそれを受けるのは真矢君か、せいぜいINORAN辺りだろうに。あぁ、RYUってのもアリだな。とにかく、その役割を担うのが俺じゃないってことだけは間違いないはずで。
なのに、なんでわざわざ俺だったんだ?
考えてみたって、答えなんか出ない。あんなふうになってるSUGIZOの胸中を完全に把握できるほど、俺はアイツを知り尽くしてるわけじゃない。
けど、どうしても気になる。なんで俺だったのか。
そこんとこを問いただしたくて、あとはまぁ仕事の都合ってモンもあるんだから、行方不明になられても困るってのもあって、俺は酒の残ってる身体を引きずって、ご丁寧にお迎えに上がろうとしてるわけで。
なーのーに!
「ったく、ここにもいねぇのかよ……どこ行ったっつーんだよぉ……」
ただいまの時刻。午前5時30分。もう夜ぢゃねぇよ、朝だよ、朝!
なんだってこんな清々しいことこの上ない時間に、あんなヤツ探してあっち行ったりこっち行ったりしてるんだかな、俺は。
だいたい、すでに2時間以上アイツに振り回されてるってのがそもそもおかしい。
そうだよ、俺が自分で駆けずり回んなくたって、真矢君とかRYUとかマネージャー辺り叩き起こしてバトンタッチすりゃいーんだよ。(←INORANにそんなことをさせる気はまったくない)
なんで俺が自分で走り回ってんだよ?
「……っつったって……なぁ……」
応える者もないのをわかってて、思わずつぶやいちまう。
結局、問題は最初のところへ戻るんだ。
SUGIZOが電話した相手が、なんで俺だったのか。
こればっかりは本人に聞かないとわかんねぇし、わかんねぇまんまじゃ俺もなんとなく気が落ち着かないっつーか。
思いっきり盛大に溜息ついて、俺は立ち上がった。
探すしかねぇだろ、やっぱ。
ヒト、が。
増えてきてる。少しずつ、確実に。
街が、動き始めたから。
だんだん増えてくる、機械的に動く人間の群れに混ざって、俺は駅の改札をくぐった。とりあえず、最低料金の切符買って。
車は近くの駐車場に置いてきた。車で簡単に行ける範囲で思い当たる所は、ほとんど全部見て回って、どれもハズレだったから、気分を変えて今度は電車。
改札抜けて、適当に階段降りて。
もうこの時期ともなると、朝はけっこう肌寒かったりして。汚れまくってるはずの空気が、冷えてるせいでそれなりに清々しかったりする。
適当にホームを眺め回すと、朝ならではの光景。
立ったまま半分寝てるサラリーマン。朝っぱらからきゃいのきゃいのと元気だけは有り余ってるらしい高校生。まだまだ完全に酔っ払ってる状態のおっさんとか、朝帰りもしないで仕事行く感じのOLとか、いろいろ。
線路挟んで向こう側のホームは、じきに電車が来るんだか、けっこうな数のヒトが並んでる。
こっち側のホームと似たようなヒトの群れが、滑り込んできた電車に隠れるのを、俺は何気なく眺めてた。
ヒトの群れを吐き出して吸い込んだ電車がゆっくりと動き出して、向こう側のホームが見えた、その時。
「……っ!」
思わずデカい声で叫びそうになって、あわてて言葉を飲み込む。
一呼吸置いて、もう一度向こう側のホーム見て。
さっきの電車から吐き出されたヒトの群れはもう階段に吸い込まれてて、ほぼ無人に近いそこ。
喫煙所って標示の、その下。
「なんだってこんなとこに……!」
うめくようにつぶやいて、俺はこっちのホームに滑り込んできた電車に乗ろうとするヒトの群れに逆行した。階段を一段飛ばしで駆け上がって、さっき見てたホームへ二段飛ばしで駆け下りる。
ほとんど無人に近いホームを、なんでこんなにムキになってんだって自分でも思うくらい全力で駆け抜けて、喫煙所って標示板のとこへ。
「なんでこんなとこにいやがんだ、てめぇは!」
足を止めると同時に、思いっきり怒鳴りつけてやった。
標示板の真下、灰皿の隣に座り込んでたSUGIZOは、俺の声でようやく顔を上げた。
で。
「……おっせぇよ、ばぁーっか……むかえにこいってゆったらさんびょうでこい……」
「……てめぇ……殴るぞ」
半ば以上本気で言ってやっても、まったく反応なし。
寝てるなら放っといて帰ろうと思ったんだけど、踵を返しかけた俺のジーンズの裾を、SUGIZOの手がしっかりつかんできやがった。
「……むかえにきたんだからつれてかえれ……」
「……なら立てよ。オヒメサマだっこなんかしてやるつもりはねぇからな」
「……じゃあおんぶ……」
「ざっけんな、てめぇ! ホントに置いて帰るぞ!」
「……やだ……たたせろ……」
イライラしながらも、ジーンズつかまれたまんまじゃ俺も動けないし、しょうがないから腕引っ張って立たせてやった。そしたらSUGIZOは、今度はちゃっかり俺のシャツの裾つかんできて。
「……離れたら置いてくからな」
そこまでは面倒見てやんねぇ。ぜってぇ面倒見てなんかやんねぇ。一度は探して拾ってやったんだ。それ以上のことなんかぜってぇしねぇぞ。
固く心に誓って、俺はシャツの裾に妙な重みを感じながら階段を上がった。
「で、どこ行きゃいいんだ?」
少し前に入った駅を出て、車入れた駐車場へ戻って、助手席にSUGIZO放り込んで、運転席に座ってから、俺はようやくそう聞いた。
ちゃんと送ってってやんないと、またどっかで座り込みかねない。そう思うくらい、SUGIZOは妙に衰弱して見えたから、そこまでは面倒見てやろうって気になった。
「……どこでもいー……俺んちじゃないとこ……」
なのに、隣から聞こえたのはそんな言葉で。だからってじゃあどこ行けっつーんだか……。
俺は軽く溜息をついて、車をスタートさせた。駐車場を出て、俺の自宅の方角へハンドル切ってから言ってやる。
「じゃ、とりあえず俺んち。文句は聞かねぇからな」
隣からの返事はない。寝たのかと思ったけど、SUGIZOは窓の外をじいっと見つめてる。
俺はもう、今日って日になってから何度目になるかわからない溜息をついて、アクセルを踏み込んだ。
「そこら辺にあるモン、踏むなよ」
家にSUGIZOを招き入れて、最初にそれだけ言い渡す。SUGIZOはおとなしくそれに従って、床に散らかってるモノを避けながら、リビングのソファに腰を落ち着けた。
「……俺にもー……みずー……」
俺が冷蔵庫から水出して飲んでたら、背中にSUGIZOの声が漂流してきた。
しょうがねぇからグラス持ってってやると、SUGIZOは小さなガキみたいに両手でグラスを持って、ちょっとずつ飲み始めた。
「……食ってねぇのかよ」
「……しょくよく、ない……」
いつもの早口はどこ行ったんだってくらい、SUGIZOから出てくる言葉は少ない。
ようやく半分くらいグラスを空けると、SUGIZOはテーブルにグラスを置いて、うつむいたまま口を開いた。
「……シャワー……浴びたい……」
言いながら、もう立ち上がってる。
「……いーけど、なに着る気だよ?」
って、聞いてみただけなんだけどな。どうせ「なんか貸せ」って言うに決まってる。まぁ、そのくらいべつにいいけど。
「……なんかかして……」
やっぱりな。軽く溜息ついて、俺はSUGIZOの肩を軽く押した。
「わぁった。出しといてやるから行け」
バスルームの場所だけ教えて、ヤケにしょぼくれた背中がリビングから消えるのを見送った。
リビングのドアが閉まる音を聴きながら、俺はSUGIZOに聞こうと思ってたことをまだ言い出せてないことに気がついた。
SUGIZOが上がるのを待って、俺もシャワー浴びた。濡れた髪をタオルで掻き回しながら、ジーンズだけ穿いてリビングに戻る。
そこにSUGIZOはいなくて、奥のベッドルームのドアが少し開いてた。
寝てないみたいだったから、俺のベッド占領してんだろうな……っつったって、俺だって朝っぱらから振り回されてたから眠いんだけど!
そんなことわかるようなヤツじゃないし、わかってたとしても平然とベッド占拠するくらいはするんだよな、SUGIZOって……。
俺はまた溜息をついて、冷蔵庫から缶ビール出して、それを片手にベッドルームへ入った。
案の定、SUGIZOは俺が貸したスウェット着て、ベッドの真ん中に堂々と転がってた。
「……おい」
プルタブ引き起こして、ビール一口飲んでから声をかけると、SUGIZOは閉じていた瞼を片方だけ上げてこっちを見た。寝てるわけじゃないらしい。
「……眠いわけ?」
サイドテーブルに缶を置いて、隣に放り出してあった煙草一本抜き出して、火つけてから聞いた。
SUGIZOは答えない。
「……寝てもいいけど、もうちょっとそっち側。俺が寝る場所くらい残せ」
「……なに……添い寝してくれるわけ……?」
かすかに笑いを含んだ声で、SUGIZOが言う。
「ばぁっか、んな趣味あるとでも思ってんのかよ。オマエがこんなに弱った顔してなきゃ、とっとと追い出すか、場所空けてやるにしてもせいぜいソファだ。ベッド半分空けてやるだけでもありがたいと思え」
「……なんだ……」
……おい。そこでそんなつまんなそうな顔で向こう側へ寝返り打つな。意味わかんねぇだろうがよ……。
「……なに……添い寝なんかしてほしいわけ? ガキじゃあるまいし、やめろよなぁ……」
こんなふうに茶化したら、いつものSUGIZOならすぐ機嫌悪くなる。
なのに。
「……添い寝って言うか、さ……」
微妙にさっきまでと、違う。SUGIZOの声、が。
吸い寄せられるみたいにSUGIZOに目を向け直して、こっちに向けられた背中を見つめて、言葉を待つ。
「……セックス、しねぇ……?」
向こう側向いたまま、それでも俺に聞こえるくらいの声で、はっきりと。
「……おい……冗談だろ……なに言ってんだよ。オマエ、そんな趣味あるわけ? 嘘だろ?」
笑いながら言ってやる。笑いがかなり引きつってるけど、思いっきりうろたえてんだからしょうがない。それでも、茶化す気になっただけ、まだいい。
なのに。
SUGIZOは、なにも言わない。答えない。
「……本気、かよ……冗談だろ?」
同じ言葉を繰り返しちまうくらいうろたえてる自分を、嘲笑う余裕なんてない。
なんだってコイツはこんなこと言うんだろう?
朝も早くから、普段は全然用事ねぇはずの駅で行き倒れ寸前になってるかと思えば、メンバーとして以上の付き合いなんかないも同然の俺相手にセックスしねぇかなんて……。
おかしい。
今のSUGIZOは絶対おかしい。
「……寝ろよ。疲れてんだろ。余計なこと考えてねぇで、とっとと寝ろ」
もう、なんで電話かけた相手が俺だったのかとか、そんなのどうでもよくなってきた。とにかく、SUGIZOが普段のあのSUGIZOに戻ってくれないことには、こっちが調子狂う。
だからそんなふうに言ったのに、寝返りを打ってこっちへ向き直ったSUGIZOは、俺をバカにしたように、笑った。
「……なに……怖い? 言っとくけど、オマエを抱こうなんて思ってねぇよ……俺が女役でいーからさ……」
「っ……んなこと言ってんじゃねぇよ! オトコ相手にセックスしようなんてバカなこと言ってねぇでとっとと寝ろっつってんだよ! そんくらいわかれ!」
いくらなんでももう限界だ。
SUGIZOは絶対におかしい。どうにかしてこいつを、いつもの……俺もよく知ってるSUGIZOに戻さねぇと……!
そんなこと思って焦って、俺はSUGIZOの傍を離れようと立ち上がった。ベッド明け渡すのが癪だとかそんなこと言ってる場合じゃない。
だけど。
「いやだ……J……頼むから……」
後ろから、腕をつかまれた。
風呂上りでまだ火照ってる俺の腕に、驚くほど冷えたSUGIZOの指がからみついて、俺の身体をベッドへ引き寄せた。
バランスを崩してベッドの端に座る形になって、俺はSUGIZOを振り返った。
腕に触れた指は人間とは思えないほど冷たかったのに、熱に浮かされてるみたいに潤んだ瞳と正面から視線を合わせちまって、俺は動けなくなる。
……なんで、そんなに切なそうな瞳で、俺を見る……?
「……SUGIZO……」
呼んだ声が、かすれてた。
呼ばれたSUGIZOは、静かに半身を起こして、俺の首にしがみついてきた。
「……J……今だけ、で……いーから……」
SUGIZOはその後を、言葉では続けなかった。
やっぱり人間とは思えないくらい冷えたSUGIZOの唇が触れてくるのを、俺は黙って受け止めた。