Believe ― SEQUELAE






3





 それから俺たちは、10代のガキみたいにじゃれあってベッドに重なり合って、お互い好き勝手に相手のカラダで遊び合った。
 ただ抱き合ってみたり、幼稚園児かって思うようなキスして笑ったり。
 繋げたカラダを離した後、シャワー浴びながらどっちがキスマークが多くついてるか数えてみたり。
 昼間からそんなことして遊んで、腹減ったから二人で飲みに行って、また俺の部屋に帰って、抱き合って。
 俺たちが互いに言い合った「ここにいろ」っていう言葉はべつに、四六時中べったりくっついてろっていう意味じゃないんだけど。そんなのわかってるんだけど、なんとなく離したくなくて、なんとなく離れたくなくて、一緒にいた。
 きっと明日、二人一緒に仕事行ったりしたら、スタッフもメンバーも驚くんだろう。それでなくても今の俺たちは、昨日まで二人そろって機嫌悪かったんだから。それがいっぺんに機嫌良くなって、しかも二人一緒に仕事行ったら、間違いなく驚かれる。
 そんな悪戯してみるのも悪くない。
 日付が変わってもまだしばらく繋いでたカラダを離して、くわえた煙草に火をつける。起き上がろうともしないSUGIZOの、汗に湿った髪を撫でていて、ふと思い出した。
「オマエはなんで俺に抱かれたんだよ?」
 結局のところ、その答えをまだ聞いてない気がする。思い出したついでに聞いてみたら、SUGIZOはさも面倒くさそうに目を開けて、悪戯っぽく笑った。
「それはあの時言ったはずだぜ?」
 そう言えば『生きてるヒトのカラダがそこにあれば、それでよかった』って言ってた。
「あれだけ?」
「まぁ、そのデカい図体にのしかかられて、動けなくてあきらめたってのもあるけど」
 今度は恨めしそうに睨まれた。苦笑しながら煙草を持ち替えて、俺はSUGIZOの顔中に小さなキスを降らせて遊んでみる。
「それだけ?」
 遊びついでに耳元で囁いてやる。くすぐったそうに身をすくめたSUGIZOは、次の瞬間には不機嫌そうな顔をして俺の肩を押し返した。
「……なにを言わせたいんだよ」
 不機嫌全開な声で言われて、初めて気づく。俺はSUGIZOになにかを言わせたいらしい。
 言わせたいっていうよりは言ってもらいたい方か。
 まだ、お互いの望むことしか伝え合ってないから、わからないことがある。
 SUGIZOが、俺をどう思って俺に抱かれたのか。それがわからない。
 その答えを、自分の望む言葉でSUGIZOに言ってもらいたい、と。どうやらそういうことらしい。
 それを聞き出したくて言ってみたんだけど、機嫌の悪いSUGIZOはたぶん答えてくれないだろうな、っていうことくらいは想像がつく。
 そうなると、こっちから先に折れて心境を暴露してみせるくらいしか、俺には方法を思いつかない。
「……どうもオマエにハマったらしいぜ?」
 意味が伝わるのに、少し時間がかかったらしい。SUGIZOは少し経ってからやっと、驚いた顔をした。
「……それが、俺を好き放題に抱きまくってた理由?」
「さぁ? あの時は自覚なんかなかったけど」
「……変なの」
 ようやく悪態をつく余裕が戻ってきたらしいSUGIZOが呆れたように呟いても、俺はまったく気にしない。
 認めてしまうのが嫌だったわりに、一度認めてしまえばこんなにも簡単なことだったのかと自分でも呆れるくらい、抱え込んでた「なにか」は、簡単なものだった。
 すごく簡単な、今まで生きてきていろんな人間に対して抱いた感情と同じものだった。
 その感情を抱いた相手が、長くつるんできたメンバーで、同じ男でっていうだけで、なんで認められなかったんだろう。
「変でもなんでもいいんじゃねぇの? きっかけはこうじゃなきゃいけない、なんていうルールがあるわけじゃないんだし」
 そんなセリフ吐けるのも、認めてしまって楽になったから。
「それはそうだけど……」
 SUGIZOは少し言い淀んでから、俺を見上げて笑った。
「気持ちが後からついてくるのって、俺だって経験あるけどさ……だからって先に性欲満たそうとする辺りが、Jはドーブツだなって」
 嘲笑うように言いながら、SUGIZOの笑顔はどう見ても幸せそうで。だから、自嘲してるんでもないし、俺を嘲ってるんでもないっていうのはよくわかる。
「自称『BEAST』だもん、当たり前じゃん?」
 そんな言葉でSUGIZOを呆れさせておいて、もう一度爆弾を放り投げてやる。
「オマエは?」
 まだ答えを聞いてない。認めたくないと思って抱え込んでたものを、俺には認めさせておいて、自分は黙ってるってのは反則。SUGIZOの答えを聞くまで引き下がらないつもりで、俺はSUGIZOの顔を上からのぞき込んだ。
「……なにが?」
「だから、なんで俺に抱かれてたか」
「……答えたじゃん」
「肝心なトコを聞いてない」
「肝心なトコって?」
「俺をどう思って抱かれてた?」
 言い逃れはさせない。回りくどい言い方じゃ逃げられると思ったから、ストレートに言ってやる。
「俺は、まぁ後から気づいた形にはなるけど、オマエを嫌いながら抱いてたわけじゃない。じゃあオマエは、俺をどう思って抱かれてた?」
 更に言い添えてみせると、SUGIZOはためらうように目を伏せて、それから小さく溜息をついた。
「……正直、最後にめちゃくちゃな抱き方された時はすっげぇ悲しかったけど……それ以外は……」
「それ以外は?」
「…………………………悪くはねぇなって」
 あからさまに視線をそらしながら、SUGIZOはいつもよりもずっと低く小さい声で、そう言った。
 なんだってこう、お互いに回りくどい言い方しかできないのか?
 答えは簡単。
 お互いに、ガラにもなく照れてるからだ。
 俺だってストレートに言うためにはそれなり以上に開き直らなきゃいけなかったんだから、ただでさえプライドの高いSUGIZOにとっては、こんな回りくどいセリフさえ、かなり開き直らなきゃ言えないだろう。
「……ああ……そう……」
 そのくらいは想像つくから、っていうのと、正直なところSUGIZOはもう少しねばるかな、と思ってたせいもあって、こんな間の抜けた返事しかできない自分が、ちょっと情けない。
 相手の呼吸に揺れる空気すら感じ取れるくらいに顔を寄せているのに、視線が絡み合わない。
 この状況で、なにを言えっていうんだか。
 ってことさえ、お互いに思ってるんだろうな。
 そんなこと考えてたら、SUGIZOが小さく笑った。
「なに?」
 やっと声をかけるきっかけができて、少し安心しながら聞くと、SUGIZOは笑いながらようやく俺を見た。
「……お互いに恋愛の達人が聞いたら泣きそうなコト言ってるなぁって思って」
「恋愛の達人って」
「ごく近くにいるじゃん、一人」
 そう言えばいたな。ラジオで恋愛相談かなんかやってた経験のあるヤツが。
 確かに、アイツにこんなやり取り聞かせたら、呆れるのを通り越してマジで泣かれそうだ。
「……ああ、そういうコトね……聞かせてみる?」
「やめとけよ。言ったら殴るぞ、泣くぞ」
 顔から笑みを消して、瞬時に怒気をみなぎらせたSUGIZOを見て、キレイだと思うっていうのはやっぱり、相当SUGIZOにハマってるってことか?
「んー……オマエに泣かれるよりは殴られる方がまだいいかな?」
 半ば以上本気で答えてやる。
 SUGIZOの泣き顔は見たくなかった。少なくとも、俺が泣かせることだけは、もうしたくない。
 あのキレイな雫は、キレイだからこそ、俺には毒。
 ところが。
「じゃあマジで殴ってもいい?」
 人が真剣に答えてるってのに、SUGIZOは途端に顔を輝かせて、そんな爆弾発言をしてくれる。
 どこからどうつながってそういう答えになるんだ、おい。
「俺が恋愛の達人サマにしゃべらなけりゃ、殴る理由はねぇよな?」
 努めて冷静にここまでの会話をなぞってみて、そこに行き着いた。さっきの照れまくりのやり取りをRYUICHIにしゃべらなければ、俺がSUGIZOに殴られる理由はない。たぶん。
 なのに。
「なくても殴る!」
 こうきたか。
 やたら楽しそうだった表情を、今度はまた怒りの色に染めて、SUGIZOは俺の下でじたばたと暴れ始めた。
 さっきまでぐったりしてたのに、どこにそんな元気があったんだ、こいつは。
「なんで!」
「なんか腹立つから!」
 もうここまで来ると理由もへったくれもない。
 それがないなら、こっちも無茶苦茶な理屈で動いてもいいよな。
 そう考えて、俺はSUGIZOのカラダを本気で押さえ込んだ。
「なにがだよ! んなことばっか言ってんだったら」
「だったらナニよ?」
 押さえ込まれて諦めたふうでもなく、偉そうに俺を見上げて、やれるモンならやってみろと言わんばかりの顔をするSUGIZOに、俺の方がマジで切れた。
「こーする」
 切れたって言っても、堪忍袋の緒が切れたんじゃなくて。
「っ……、んぅ……!」
 不意打ちのディープキスなんか仕掛けてみた。
 その直前に切れたのは、堪忍袋の緒じゃなくて、理性だったらしい。



 理由も理屈も理性もいらない。
 ずいぶんと遠回りした俺たちには、相手の存在だけで十分。
 認めてしまえば簡単なことだったのに、認めることをためらって、傷つけ合って、遠回りした。
 その分、これからはただ、ここにいれば。
 それだけでいい。








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