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海に来る時っていうのは大抵、車にボード積んでるもの。
なんだけど、今日はなんとなく波乗りする気分じゃなくて、ボード積まないでここへ来て。
来てみれば波はすごく穏やかで、だからちょうどよかった。
海に入ってる間は、他のこと考えてたら流されてしまうから、なにも考えないようにしてるけど。
今日は、海に触れないまま砂の上に座り込んでるから。
だから。
いろいろなことを考える。考えてしまう。
……SUGIちゃんのことも。
SUGIちゃんと一緒にいられる時でも、海へ来る時はいつも独り。
SUGIちゃんと一緒に来たことはない。
いつも、SUGIちゃんを置いてくる。
「だぁって……ねぇ……」
応えるはずもないとわかっていても、つい海に向かって呟く。
いつも忙しくて、いつも寝不足で、それでいて不眠症で。
そんなSUGIちゃんが穏やかに眠ってたら、やっぱり。
「起こしたくないじゃん」
SUGIちゃんはいつも、寝顔まで疲れてるように見えるから。
だから、浅い眠りからSUGIちゃんを呼び起こさないように気をつけて、家を出る。
SUGIちゃんの寝顔を見てると安心できるし。
「……起こせよ」
「……え?」
不意に後ろから響いた、少し掠れた声に、驚いて振り向いた。
視線の先には、まだ夜も明けきってないのにサングラスをかけたSUGIちゃん。
「RYU見ーっけ。海行くなら起こしてって、前に俺そう言ったよな?」
「……気持ちよさそうに寝てるのを起こしちゃ悪いと思って」
「いーの。俺が起きたいんだから」
そう言いながら、SUGIちゃんは俺の背中にしがみついた。
胸に回された白い手に触れたら、いつもは冷たいその手は、あったかかった。
「……浮気の現場なんか見たくないけどさ」
「SUGIちゃん?」
背中から直接響く声に戸惑う。
浮気って、浮気って……?
「RYUはいっつも、海に浮気しに行っちゃうから……すっっっっっげぇ悔しいんだからなー……」
なんとも恨めしそうなその声に、思わず笑う。
海に本気で嫉妬してるなんて、SUGIちゃんらしいというかなんというか。
「……ごめんね、いっつも浮気してばっかりで」
「謝りゃいいってもんじゃないよー……」
「うん。でも謝らないよりはいいでしょ?」
「そうだけど」
視界の隅で弱い風に踊るSUGIちゃんの髪が、昇り始めた朝日に照らされる。
「RYU、浮気はしてもいいからさ……ちゃんと戻ってきてよ」
「……うん」
それは、単に家に帰ってっていう意味じゃなくて、SUGIちゃんが家にいる間に戻ってっていうこと。
それがわかるから、俺は小さくうなずいた。
「……SUGIちゃん、帰ろう?」
完全に陽が昇った頃、俺は身体をひねってSUGIちゃんの肩を抱いて、立ち上がった。
SUGIちゃんは黙って俺と一緒に立ち上がったけど、すぐに口を開いた。
「……さっき、浮気してもいいって言ったけど、あれ、撤回する」
「どうして?」
どう見ても拗ねてるSUGIちゃんの手を引いて歩きながら問い返したら。
「だって、海にいる時のRYUって俺のこと見ないんだもん」
「んー……でもねぇ、SUGIちゃん?」
SUGIちゃんの言い分ももっともだけど、でもそれは、SUGIちゃんより海が大事ってことじゃなくて。
「俺、浮気してる間ってあんまり笑わないって、知ってる?」
「……ん、んん?」
「だからぁ」
いまいちわかってくれないSUGIちゃんの髪を抱き寄せて、耳元で言ってあげる。
「SUGIちゃんといる時の方がずっと幸せだよって言ってんの」
途端にかぁっと頬を染めたSUGIちゃんが可愛くて、俺はやっと笑った。
そうしたら。
「……俺、RYUが笑ってるのって、好き」
同じように髪を抱き込まれて、耳元で言い返される。
天邪鬼なSUGIちゃんの、珍しくストレートな言葉に驚いて顔を上げたら。
視線の先でSUGIちゃんは、はにかんだように笑ってた。
朝日に照らされたその笑顔を、曇らせたくないって、思った。