SMILE






5





 スタジオの片隅。
 機材で狭苦しくなったスペースの角っていうのはなぜか、ぽっかりと空いてることがある。
 そこに身体を滑り込ませてしまえば、誰にも見つからない。
 独りになりたいのに、そのために家に帰る暇すらない時、俺はよくスタッフの目を盗んでそんなことをしてた。
 人の気配がある空間で、人に見つからないように。
 そうやって独りになっても、なんの解決にもならないけど。
 そんなこと、知ってるけど。

 それでも、小さな子供みたいに膝を抱えて瞳を閉じて。
 俺は独りになる。



「……ギタリスト一匹、見ーっけ」

 不意に頭上から降った声。
 俺の独りの時間を邪魔して、人の輪の中へ連れ戻そうとする、その声。

「……放っとけよ」
「やだ」
「放っとけって」
「やだ」

 まだもう少し、独りでいたかった。
 だけどその声の主は譲らなくて。

「アナタがここ好きなのはわかるけどね……」

 軽い溜息と一緒に落とされる声。
 俺の膝の上でころころ転がって丸くなって、棘のないそれはすんなりと俺の中へ入ってくる。

「出てきてくんないと、俺の好きなアナタの顔が見えないからね」

 そんな言葉をさらりと言ってのける声の主に、俺は少しだけ笑った。

「あ、もったいないなぁ……どうせ笑うならさぁ」

 途端に零れてきた言葉の意味がつかめなくて、ふと顔を上げてしまった。
 そうしたら。

「そう。そうやって顔上げて笑ってよ……」

 声の主は機材ラックに乗り上げるようにして、俺の顔をのぞいてた。
 その、子供みたいな顔に笑みが刻まれるのを見て、俺も笑った。
 なんだか妙に幸せな気分で、なんとなく笑いたくなった。

「あ。笑った」

 俺が笑った途端、声の主は嬉しそうにそう言って、俺に手を差し出してきた。
 その手を遠慮なく全体重で引っ張って身体を起こす。
 声の主は苦もなく俺を引き起こして、そして。

 もう一度、笑った。

「……見ーっけ」

 そう言って笑った相手の、その笑顔を、好きだと思った。








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