その日はインタビュー責めの予定で、メンバー全員が息つく間もなく、入れ替わり立ち替わり猛攻を浴びせてくるインタビュアーの群れを相手に、悩んだり困ったり時には笑ったりしながら、各自に割り当てられた部屋で奮闘していた。
喫煙できる部屋にいるのに煙草に火をつける隙を見つけることさえ難しい、分刻みのスケジュール。そんな中、最近「長話をする価値」のある相手からどうかでインタビュアー毎に対応を変える、という技を身に着けたSUGIZOは、予定を少し過ぎた辺りでいい塩梅にお食事タイムを取ることができた。
運良く、と言うべきだろう。Jは少し前に食事休憩を取り、インタビューに戻ったという。SUGIZOの不機嫌スイッチが一つ減ったわけで、周囲も安堵していた。
そのSUGIZOが半分ほど弁当を胃に放り込んだ頃、お食事部屋に入って来たのはINORAN。表情に疲れが見えるのは皆同じだが、INORANは珍しく、あからさまに溜息をついて机に突っ伏してしまった。
SUGIZOが「お疲れ」と声をかけても、顔のそばに投げだした片手の指をひらひらさせただけで、言葉はない。それでも、SUGIZOの弁当の残りが三割になる頃にはINORANも起き上がり、なんとか栄養補給を開始した。だが、不機嫌そうな表情はそのままだ。
「なんか腹の立つ質問でもされた?」
SUGIZOがそう水を向けてみると、INORANはぴたりと箸と口を止めて、SUGIZOを振り向いてから、また溜息をついた。
「そっちの方がまだいいよね……ケンカ売り返しちゃえばいいんだし」
物騒なことを平然と呟いてしまう辺りが、INORANもおとなしいだけの不思議ちゃんではないのだという証拠である。
「でも違うんだよねぇ……保険のセールスとかさ、政財界の人しか相手にしないような高級クラブの人とかさ、そういうのを相手にしちゃった感じ。伝わるかな、あのねぇ……」
「……もしかして、丁寧すぎて気色悪いタイプ?」
「それ!」
きっぱりとうなずいたINORANに、SUGIZOは手を伸ばし、ぐりぐりと頭をなでてやった。その系統の話し方は、害はないのに何故かやたらと疲れることを、SUGIZOも知っている。
「ロックで生きてる奴相手に超敬語って、すげぇ矛盾だよね。それは疲れるのも無理ないよ」
「うん。『ですます』までで充分だと思う」
まだまだご立腹らしいINORANの言葉に、うんうんとうなずいた直後、SUGIZOはぴたりと固まった。今日ここまでに当たったインタビュアーの中で、そこまで丁寧すぎる話し方をする者はいなかったのだ。慌ててINORANに問題のインタビュアーの名を聞き、マネージャーに確認をとったが、どうやらその人物はSUGIZOの担当ではないらしかった。ほっとした瞬間に目を閉じたおかげで、SUGIZOは、同じタイミングでマネージャーが胸を撫で下ろしたのを目撃しなかった。
「なんかさぁ、ああいう、本来なら俺にできるはずのない話し方で押し通されると、ほんと困る」
やっと弁当を半分近く平らげてなお、INORANは眉間にしわを寄せている。
「どんなふうに?」
「自分の話し言葉まで変に感化されて、伝染しそう。自分で自分が気持ち悪くなる」
「ああ……うん、なんかわかる。引きずられるっていうか、ね」
本当に、かなり、ものすごく、INORANにとってやりづらい相手だったのだろう。同意したSUGIZOは、頭の隅で何かが引っかかったような気がして首を傾げた。
そこへ、INORANが言った。
「Jだったら引きずられたりしないんだろうけどね」
INORANにとっては、ただの感想だったはずのその言葉には、SUGIZOの起爆スイッチがくっついていたのだ。
「……ちょっと待って」
一時停止したSUGIZOの手から、マネージャーがそうっと箸を引き抜き、空になった弁当のパッケージと一緒に持ち去った。が、SUGIZOはそのまま動かない。
INORANの箸が弁当と口元を七往復した頃、ようやくSUGIZOはさっき引っかかったものの正体を声に出した。
「Jはさぁ、年上の人に対しては、最低限だけどちゃんと敬語使うよね?」
「うん、『ですます』程度だけど一応ね」
INORANが応じると、SUGIZOはふるふると両の拳を振るわせた。
「俺、すっげぇがんばって思い出してみても、Jに敬語使われた記憶がないんだけど!!」
「でも多分、俺もないと思うよ?」
「INORANはいーの! Jの奴、俺が一年上と知ってからも一切、丁寧にしゃべったことない! 絶っっっ対に、ない!!」
一気に爆発してしまったSUGIZOを見て、マネージャーが部屋の隅で顔をおおった。なんで自分はいいんだろう? と小首を傾げながら食事を終えたINORANは結局、SUGIZOを放置してインタビューに戻った。すっかり満腹になって眠気に襲われる代わりに、さっきまでの腹立ちをきれいに忘れて。
入れ替わりでご立腹になってしまったSUGIZOをなだめる役は、最後に食事しに来た真矢に託されたらしい。