1.  研 究 概 要

ゲオルク・トラークルは1887年、オーストリアのザルツブルクに生れ、第一次世界大戦が勃発した1914年、従軍先のクラカウで自殺同然の死を遂げた夭折の詩人です。彼の主な活動期間は1909年から没すまでの約5年間であり、作品数は戯曲も含めて200余りと極めて少ないのですが、ここではその中で代表的な作品、「Gedichte」の49編、「Sebastian im Traum」の49編、1914年から1915年に「Brenner」誌に発表された詩の14編、計112編を対象として、トラークル作品の独自性と表現主義的な傾向について分析を試みます。

具体的には、詩の形式、テーマ、トラークルに固有な色彩語という三つの観点から作品を捉えると同時に、初期の「Gedichte」から中期の「Sebastian im Traum」を経て、最後期のBrenner誌に発表された詩へ至る時間的な経過における作品変化についても考察します。しかし、表現主義的な傾向と言っても漠然として非常に曖昧なものになってしまうので、ここでは形式破壊と抽象化に焦点を絞ることにしました。

それでは具体的な分析に移る前に、作品を理解するうえで重要な要素となる詩人の生涯とパーソナイリティーについて簡単に触れることから始めることにします。

 

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