星に願いを

1764年のクリスマス

太陽・作

1764年12月24日

オスカルが、9歳の誕生日を迎えようとしていた夜の出来事でした。

「ねえ、アンドレ。ぼくはどうしてもサンタさんに会いたいんだ。」
「どうして?」
「どうしても、かなえて欲しい願い事があるんだ。だからサンタさんに直接会
って手紙を渡したいんだ。サンタさんに会うにはどうしたら良いと思う?」
「うーん、そうだね。クリスマス・ツリーの下で待っていたらどうだろう、今
夜遅くにきっと来てくれると思うんだ。」
「そうだね、そうする。今の内に手紙を書いておこう。アンドレは、願い事はな
いの?」
「ぼく? あるよ。」
「じゃあ、アンドレも手紙を書きなよ、一緒に渡そう。」
「うん、分かった。」

二人はそれぞれにサンタへの願いを込めた手紙を一生懸命書きました。

そして、その日の夜遅く。

オスカルの部屋のドアをそっと叩いて、アンドレが言いました。
「オスカル、起きている?」
「うん、待っていたよ。誰にも見つからないように行こう。」
二人はこっそり部屋を抜け出すと、階下の広間にある大きなクリスマス・ツリ
ーの下に隠れるように座り込みました。
「オスカル、寒いから、これを掛けて。」
アンドレは持ってきた毛布をオスカルの背中に掛けてやりました。
「アンドレ、二人で入った方が暖かいよ。二人で包まろう。」
「うん。」
二人は仲良く肩を寄せ合って、毛布に包まりました。

「ねえ、アンドレの願い事って何? 教えて。」
「じゃあ、オスカルの願い事を教えてくれる?」
「だめ、内緒だよ。」
「じゃあ、ぼくだって内緒だよ。」

二人は眠い目を擦りながら、一生懸命サンタを待ちました。
「アンドレ、サンタさん、まだかなあ。」
「まだ、みたいだね。」
「サンタさんって。トナカイと一緒に空を飛んでやってくるんだよね、今ごろ
どの辺りかなあ?」
「もうすくだよ、きっと。」
「サンタさん、迷子になったりしないよね。」
「大丈夫だよ、こんなに大きなお屋敷だし、去年もちゃんと来てくれたじゃな
いか。」
「そうだよね。」
二人は期待と興奮で目をきらきらと輝かせていました。
けれど・・・。

「ふあーっ、んーっ、眠い・・・。」
オスカルはつい、うとうと。
「オスカル、起きて。サンタさんを待っているんだろう。ねえ、ぼくも一人じ
ゃ起きていられないよ。」
「あっ、ごめんアンドレ。ぼく、がんばるよ。でも、眠いね。」
「そうだね、今何時だろうね、サンタさん遅いね・・・。」
今度はアンドレが、うとうと。
「アンドレ、起きて。」
オスカルがアンドレを起こします。
「あっ、うん・・・。ごめん、オスカル・・・」
「がんばろうね、・・・」
二人はサンタさんに手紙を渡そうと、う――んとかんばりました。
でも二人は、手紙を大事そうにその小さな手に握り締めたまま、肩を寄せ合い、
とうとう眠ってしまいました。

静かな静かなイブの夜、星の清らかな光が二人を照らします。

 

 


x
サンタさんへ

ぼくの一生のお願いがあります。
ぼくの大事な友達のアンドレ・グランディエのお母さんは、
お空のお星様になってしまったそうです。
もう二度と会うことはできないとばあやに聞きました。
でも、サンタさんの力でなんとか彼にもう一度だけ会わせて
あげることはできないでしょうか。
このお願いを聞いてくださったら、ぼくは一生クリスマスの
プレゼントも誕生日のプレゼントも何もいりません。
どうかお願いです。彼とお母さんを会わせてあげてください。


                                        オスカル・フランソワより

 

 


x
サンタさんへ

ぼくのお願いは、一つだけです。
どうかオスカルの願いを聞いてあげてください。
いつもがまんばかりしていて、わがままは決して言わない子です。

そのオスカルが、どうしてもサンタさんにお願いがあると
いうのですから、よっぽどのことだと思います。

どうかよろしくお願いします。


                 アンドレ・グランディエより              



「まあ、オスカルさま、アンドレ! こんなところで何を。」
ばあやの大きな声で二人は目を覚ましましたが、もう朝になっていました。
「しまった、もう朝だ。アンドレ、どうしよう。」
「眠っちゃったんだ、ぼくたち。」
「手紙、渡せなかったね。」
「うん・・・。」
「どうしても、渡したかったのに・・・。」
二人はしょんぼりしてしまいました。

「あっ、オスカル。この手紙!」
「手紙がどうしたの?」
「ほら、見て。」
オスカルが手に持っていた手紙を改めてよく見ると、それは自分がサンタに宛
てて書いた手紙ではなく、サンタからオスカルに宛てた手紙でした。もちろん、
アンドレが持っている手紙もアンドレ宛ての手紙でした。

二人は震える手で封を開け、手紙を読みました。

 


x 

  オスカルくんへ


君の願いをかなえてあげたいのですが、空のお星様を地上に
戻すことは神様が許されないので、残念ながらできません。

でも、お母さんからの伝言を預かってくることはできました。
これをアンドレくんに伝えます。

アンドレくんの願いは、君の願いをかなえてくださいというものでした。
君たち二人の人を思いやるやさしい心が、とてもうれしかったです。

すてきな願い事をどうもありがとう。

                            サンタより

 

 

 

 

  アンドレくんへ


オスカルくんの願いは、君にもう一度だけお母さんに会わせて
やって欲しいとのことでした。
でも、残念ながらそれは神様がお許しにならないので、
お母さんからの伝言を預かってきました。

自分の願いよりも、人のことを大事に考える君たち二人の
やさしさに心が温かくなりました。

すてきな願い事をどうもありがとう。

                            サンタより      

 

 

アンドレへ


お母さんは、あなたのことだけが心配だったのですが、
とても安心しました。あなたのことを本当に心より思ってくれる
お友達ができたのですね。

これからもいろいろなことを経験し、そして学んで、
立派な大人になってください。

お母さんは、これからもいつもあなたの側であなたのことを
見つめています。

                                                           お母さんより

 

 

 

 

二人は黙って手紙を読みました。二人とも涙で字が滲んで見えなくなってしまいました。嬉しいのか悲しいのか良く分かりませんでしたが、何かとても温かいものが込み上げてきて胸がいっぱいになりました。そして、お互いに見つめあうとにっこりと笑いました。

とてもステキなクリスマスの朝でした。
オスカルが9歳の誕生日を迎えた、思い出に残る朝のことでした。

―おしまい―