はじめに

この話は「愛する君のために」の番外編となっております。
33333番のキリ番をゲットされました『ミケさま』のリクエストで書かせて頂きました。レジーとオスカルのおちゃらけラブコメとなっております。(いえ、ミケさまのご要望は真面目な甘い話でした。すみません)

この二人は実を言うとこの時期に二人で一緒にいたことがありません。本編ではまだ初夏の設定ですし、前作「愛していると云ってくれ」はクリスマスで終わっています。

ですから、この話は「愛する君のために」の3部の設定場所(スタンフォード城)を使っておりますが、季節や二人の関係など本編とはまったく関係ございません。しかもこの話の中に出てくるバレンタインデーは現在の日本におけるバレンタインデーの設定です。作者に苛められてばかりいるレジーへミケさまよりのバレンタインのプレゼントです。レジーとオスカルの仲が良いのは許せないという方は、この話は読まないでくださいね。


甘党の俺の一番好きな・・・

太陽・作



「レジー」
オスカルは、部屋に入ると、入り口に背を向けて座っているレジーに声をかけた。
「なんだ?」
彼は読んでいた本を閉じると、長椅子に座ったままオスカルを振り仰いだ。そのすみれ色の瞳はあくまでも穏やかで優しかった。
「あの・・・今日は、何の日か知っているか?」
オスカルはドレスのポケットに入っているものを手で触りながら、話していた。
オスカルには珍しく、どことなくはっきりとしないものの言い方だった。
「今日? 2月14日だろう。ああ、バレンタインデーか。それがどうかしたか。」
「いや、別にどうということもないのだけれど・・・。」
「お前もいつもなら、どっさりチョコレート貰っているんじゃないのか?」
「うん、まあそうだが。違う! そういう事ではなくて・・・。だから、あの、例えばチョコレートを貰うとするだろう。」
「それで?」
「誰から貰っても、嬉しいものなのか。」
「そうだな。人によって違うかも知れないけれど、俺は嬉しいよ、誰からのものであっても。自分を好いていてくれる訳だから、嫌な気分の筈はないだろう。」
何でそんなことをわざわざ聞くのかといいたげな顔で、レジーは再び本を手に取った。
「そ、そうだな・・・。では、あ、あの・・・これ」
オスカルは彼の言葉を聞いて心を決めると、消え入りそうな声を出しながら、ドレスのポケットに隠していた包みを彼に渡そうとした。そのとき、本に視線を戻していたレジーはそれに気付かずに言った。
「今年はこんな所へ居るから、大好きなチョコレートがいつもより少なくてつまらないなあ。」
その言葉に、オスカルはまた包みをポケットへ隠した。
「少ない・・・? と言う事はもうチョコレートを貰ったのか、誰に?」
オスカルのその冷静さを装ったようなわざとらしい口調に、レジーは慌てて本を置き、自分の後ろに立ったままのオスカルに視線を戻した。そして、オスカルの眉がほんの少し吊り上っていることに気がついた。
「いや、誰って・・・あの、よく覚えていない。」
「覚えていないって。お前は誰だか分からない女性から、ああいったものを受け取るのか?」
「いや、ほら。くれるっていうものは、別に貰っておいてもいいかなと思って。受け取らないのも失礼だろう。」
オスカルの剣幕に、レジーは言い訳している自分の声が段々小さくなるのを感じていた。

「失礼します。」
「おっ、エミー良いところへ。」
レジーが嬉しそうに振り返ると、両手一杯に色とりどりのリボンで包まれたプレゼントを抱えたエミーが入ってきた。
(ああもう、最悪のタイミングだな)
「あの、
またレジー先輩にお届け物ですが・・・。あちらへ置いておきますね。」
エミーは、その場の気まずい雰囲気を一瞬のうちに察した。
「分かった。そこへ置いて行ってくれ。」
レジーは、殊更冷静に行った。
「あの、私は・・・。失礼します。」
エミーは、テーブルの上にプレゼントを置くと、そそくさと部屋を出て行った。

「レジー、これは全部バレンタインデーのブレゼントだろう。しかもエミーは
またと、言ったな。ということは、まだ他にもたくさんある訳だ。ほらカードもついているぞ。私に遠慮することはない、読んだらどうだ。」
「お前が読んでも別に構わないぞ。ただの儀礼的なカードだろう。」
レジーは立ち上がるとテーブルまで行き、プレゼントの山からカードだけを集めた。そして、立ったまま急いで目を通した。

(うっわー、まずい・・・)
「ほら、どれも別にどうっていうことは書いていない。挨拶程度だな。」
レジーは、素知らぬ顔でカードの束をポケットに入れようとした。オスカルは素早くその手をつかむと、シニカルな笑顔で言った。
「本当に私が読んでも構わないのだな。」
「ああ・・・」
レジーは諦めると、オスカルにカードの束を渡し、また椅子に力なく腰を下ろした。


オスカルはカードを開いた。

     あなたのキスはとってもステキ!    

 グレース 


   

         私の気持ちはおわかりですね(はあと)   

by ジャージームーン 

 

 

 あなたのくちづけはとろけるようでした(*^_^*) 

 

 イブ 

 

     あなたのキスはチョコレートよりも     

甘かったです

 ドリス 

 

 
わたしがもう少しスマートで美しくて、そしたら…、

そしたら愛しているということばを、

ひとことでもあなたに言えただろうに…   

 by ルイ 

 

あとは、あらかた同文につき以下省略・・・

オスカルは、自分では説明のつかない感情で身体が小刻みに震えだすのを感じていた。カードの束を彼の手に乱暴に押し付けると、ボケットに隠していた包みをレジーに向かって投げつけた。
「レジーのばか!!」

レジーはその包みを素早く拾うと、オスカルの片腕をつかみ、静かに言った。
「これは?」
「知らない。知るもんか。」
「オスカル・・・」
レジーは自分の身に起こった幸福が信じられなかった。こんなことがあるなんて。本当に。
「俺に・・・?」
オスカルは、凍りついたように青ざめていたレジーの顔色が、瞬時に薔薇色に輝いていくのを見つめながら、恥ずかしそうに小さく肯いた。

次の瞬間、オスカルは息が出来ないほどに抱きしめられた。オスカルの背中に回されたレジーの手から包みが滑り落ち、オスカルの視線の片隅で捕らえられた。
「レジー・・・」
二人は視線をゆっくりと絡ませた。オスカルの蒼い瞳に世界一幸せな男が映っている。その幸せな男の顔がゆっくりと近づき、彼女の柔らかい薔薇色の唇を捕らえた。甘い甘いくちづけが果てしないほどに繰り返される。くちづけは徐々に熱を帯び、深さを増して行った。息も絶え絶えになった彼女の膝から力が抜けていき、立っている力を奪っていく。

心もとない力で自分に縋る彼女をその逞しい腕でしっかりと支えながら、耳元にそっと囁いた。
「この金の髪のホワイトチョコレートを俺は食べてもいいのだろう?」
「え?」
レジーはオスカルを横向きに軽々と抱きかかえると寝室へ向かった。力の抜けてしまった身体で、自分に何が起きているのか分からないオスカルをそっとベッドに降ろすと、灯りを吹き消した。

「甘党の俺が一番好きなもの、それは・・・お前だよ。」
「あ、・・・」
微かな抵抗の言葉も、唇を塞がれ、夜に飲み込まれていった。僅かな月明かりだけが二人を照らし、部屋の中には衣擦れの音だけが聞こえる、静かな静かな夜だった。


 

「レジー・・・」


あ〜ら?


「そんな・・・」


 

ここも見る気?

 

「だめ・・・」


 

残念でした、はずれです☆

 

バシッ!!

 

 

「これは、義理チョコだ!」


次の朝――
エミーは長椅子の上で寝ているレジーを見つけた。
「こんなところで、どうなさったのですか?」
「別に・・・。大好きなチョコレートを食べ損なっただけさ・・・。」
「・・・?」
レジーの左頬には、しっかりとオスカルの手形がついていた。



一方、手形をつけた張本人のオスカルは・・・

「あいつ、ちゃんとホワイトデーのお返しくれるかな♪」

 

『ブルーシャーク』に忍び寄るお菓子業界の陰謀

『義理チョコ』恐るべし!

 

 

- おしまい-

2003/2/10

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