謎多き
 
 子供とコマンドマガジンの戦略級南北戦争をやってみました。かなり古いゲームをリメイクした物だそうで、プレイ時間もそんなにかからないらしい(4時間と書いてあるので倍でも8時間か)ので買ってみたものです。
 基本は募兵と建造の後、2回の作戦があって、それに南部の経済基盤と北部の政治状況が加わるという感じです。そして特徴は、2段階の支配地域とリアクション、北軍が南部の鉄道を使うには工兵で改良が必要、指揮官に名前が無く強さがさいの目と戦闘結果によって変化するなどです。
 特にこの指揮官の能力ルールについては、キャラが無いのはさみしいですが、VGのThe Civil Warがあまりに非現実的な運用(将来強くなる指揮官をまとめて育成のための戦闘をさせるなど)になるのに比べれば、歴史上の名前や強さを無視することでプレイヤーに指揮官の未来の実力が分からないようにした方が、現実的な運用になって良いでしょう。少なくとも下手にキャラ付けをして、The U.S. Civil Warのように全然史実の結果を出せないような誤ったレーティングをされるよりはるかにましです。
 ただ色々ルールが分かりにくくて、解釈や誤訳に時間を取られながら、ようやくゲームを開始します。子供が南軍、私が北軍です。

 第1ターン1861年春、まず南軍が作り始めたのは砦と兵器廠です。砦は少ない戦力で長期間その地点を守ることができますが、南軍は1ターンと2生産ポイントを掛けて、まず建設資材を準備しなければなりません。しかし北軍はタダでばんばん作れます。兵器廠はやはり1ターンと2生産ポイントが掛かりますが、完成すると毎ターン1陸軍戦力がもらえる非常に有用なものです。北軍の第1ターンは海軍を1つ以外製造できません。兵力の増援は北軍9に対し南軍7です。
 陸上では、東部は北軍が攻めて価値のある所がリッチモンドしかなく、とても北軍に攻められる力は無いので動きません。西部もケンタッキーが参戦するまで実質ミズーリでしか動けず、南軍指揮官が救援に来て勝ち目がないので、これも北軍攻められません。ほとんど動きなく終わりです
 第2ターン夏、南軍は兵器廠と砦を完成させ、リッチモンドとニューオリンズに置きます。北軍はこのターンから可能になった輸送船を作ってプラスキ砦を上陸占領し、陸上ではあちこちで砦を作ります。しかしやはり陸上で攻めることはできません。そして早くもケンタッキー州が北部につきました。
 第3ターン秋、南軍は再び兵器廠と砦を建造開始。北軍は輸送船と河川艦隊です。北軍はケンタッキーを通って進軍を始めますが、ナッシュビルからメンフィスまでの間で塹壕を作って守る南軍を倒しようがなく、その前で前進はストップします。そして北軍はモーガン砦に上陸します。
 第4ターン冬、南軍は2つ目の兵器廠と砦を完成。北軍は輸送船と鉄道工兵を作ります。両軍増援を加えて盤上を見てみますが戦力差が少なく、北軍はとても戦力2倍化の塹壕に籠る南軍に勝てません。どうすればいいんだろう。
 後番だった北軍はここで気づきます。東側を迂回すればナッシュビルの補給を切れるんじゃない?ということでやってみました。

第2インパルスでナッシュビルの部隊は、冬で移動力が少ない上に補給切れでさらに半減なので、移動力が4しかなく敵に近づけません。南軍は他から救援部隊を持ってきますが、やはり移動力が足りず攻撃まではできません。回り込んだ北軍も補給切れになりますが、親北部であるアパラチアには南軍の支配地域が及ばないため、さらに回り込んで救援の南軍の補給線も切ってしまいます。
 そしてここで南部の経済状況の確認です。東西をつなぐ鉄道の南側はモービルの所で切れていて、北側もチャタヌーガとハンツビルの間で切れたので、南部の経済圏が東西で分割されます。すると東側の重要補給センター分6に加えて重要港湾3で、南部の経済力は9にまで下がり、南部の生存経済値を下回って北部が勝利しました。
 と思って終わりにしましたが、後で誤りと分かりました。モービルとスパルタの間の航行可能河川に外洋艦は入れず、海軍だけではここの連絡を切れません。南部はモービル−河川−セルマ−鉄道−タラテガ−河川−ローマと何度も乗り換えて東西を繋ぐことができ、実はここは簡単には切れません。なのでまだ南軍は負けていませんでした。

 ルール的にも戦略的にも、とにかく謎が多い。今回の結果も全く偶然です。
 北軍は直接攻撃で南軍を倒すことはできず、迂回と鉄道切断によって南部を締め上げていくという思想のゲームのようです。南軍もそれに対応して防衛線を広げなければならないでしょう。
 またミシシッピ河の支配そのものには価値が無く、北軍の補給線としてのみ価値があるという考えのようです。確かに経済価値の少ない極西部との繋がりが切れても南部にはあまり関係なく、鉄道網の発達した北部にとってもここから海に出られることに大した価値は無いわけで、北部鉄道の延長に手間が掛かるこのゲームでは、補給線としての価値だけでも十分でしょう。北軍が南部を打倒したのはミシシッピ河の支配でではなく、あくまでアトランタから海への進軍なのです。デザイン思想に真っ向から逆らって、ミシシッピ河の支配を勝利の絶対条件とする日本版だけの選択ルールは蛇足だと思います。
 それから日本語ルールにはかなり誤訳、脱訳があります。例えば「水路か鉄道による補給線が始まるならば、同じへクスで陸上補給線を始まって終わることができる」という文が全く抜けています。これは分かりにくい表現で、訳者が意味の無い文章と勘違いしたのかもしれませんが、実は「自分のいるへクスを補給源として使えない」という重要な事を表しています。これが抜けているため誤りが起こり、「補給源にいる砦は補給が切れず難攻不落で困るから、防御効果は無しにする」などという、日本版だけの不要な選択ルールまでつけられてしまっています。
 それでも日本語ルールの誤りは英文ルールで確認すればいいのでまだ良いですが、原版も本当にこれでいいのかと思う部分があります。一番気になるのは、ワシントンには特に価値が無い(他の都市と同じ)ということです。今までいくつか南北戦争ゲームをやりましたが、どれもワシントンは最重要であり、これは斬新な発想なのか単なる漏れなのかちょっと分かりません。今回は一応ワシントンが落ちたら政治情勢−4(都市分含む)としてやりました。
 他にも河川艦隊は潮入川に入れると書いてないのに、地形効果表の潮入川では河川艦隊で渡河できるように書いてあります。これは今回河川艦隊も潮入川に入れることにしました。
 まだ誤りがあるかもしれず、戦略的にも良く分からないので、ゲームの良し悪しはまだ不明ですが、またやってみたいところです。

 
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