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カザラの壁の内側もまた、SUGIZOとINORANの想像を超えた。
夜番の見張りが次の者と交代するその隙を狙って南ゲートからカザラに潜り込んだのは、二人だけではなかった。最後の方で幾人か、門番に見咎められていたようだったが、二人は無事にカザラの壁を越えた。
少し歩いた先に、市場が見えた。テントの数がラウルとは文字通り桁違いな市場には、本当にありとあらゆるものが揃っていた。
食べ物の匂いに気を惹かれないわけではなかったが、持ち合わせのない現状を考えて我慢した二人は、まず武器屋を探した。
SUGIZOもINORANも、射撃はそれなりに得意だった。他にも、SUGIZOは体術、INORANはナイフの扱いが上手い。
けれど、体術以外の戦い方を選ぶためには武器が必要だった。
二人の手元には、SUGIZOがラウルを出る時に持って来た小型の拳銃しかない。
SUGIZOの父親が発掘してきた物を、SUGIZOが自ら改造して愛用してきたものだが、弾丸の予備がほとんどない状況なので安易に使うことはできなかった。
軽装備も甚だしい二人連れ、砂漠を歩く間に窃盗団などに出くわさなかったのは幸運だったが、もちろんカザラに入ったからと言って安心はできない。
とりあえずは、生き抜くための武器が必要だった。
食料や水は、少なくても手に入りさえすれば生きていける。それが例えば水溜まりの水でも、地面に生い茂る雑草でも、生きる糧にはなる。
けれど武器だけは、売り手を探して金を払って譲ってもらわなければならない。
露天商では高額をせびられることも珍しくないので、二人はカザラに定住している武器屋を探した。
しばらく歩くと市場を抜けた。その先に続く商店街の中で見つけた武器屋に、SUGIZOとINORANは迷うことなく足を踏み入れる。
小型から大型まで各種の刃物と銃と、様々な種類の爆薬。そういったものが雑多に並ぶ店内をざっと見回して、二人はそれぞれの得意とする武器の吟味に入った。
「いらっしゃい……カザラじゃ見ない顔だな。新入り?」
いつの間に現れたのか、店の奥で眠たそうに眼をこすった年齢不詳の男が、二人にそう声をかけてきた。
明るい栗色の髪を適当に後ろへ流しているせいで、左右の眼の大きさが少し違うことや、垂れ下がった目尻に似合わず目つきが鋭いことがわかる。
「新入りってどういう意味?」
言質を取られないよう慎重にSUGIZOが応えると、男は途端に表情を変えた。
退屈そうだった眼に強い好奇心を浮かべて、SUGIZOとINORANを交互に見比べる。
「文字通りだよ。南から入ってきたんじゃねぇのか?」
薄いながらも面白がっているらしい表情を見せる男の言葉に、SUGIZOはさすがに詰まった。
自分たちの行動を言い当てられたことに動揺もしていたし、どうやってこの場を切り抜けようかと焦る気持ちも強い。
男の興味をうまく逸らすことができるような性格ではないのだ。語彙と知識は豊富でも、こんな場合に駆使できるほどの話術を持っているわけではない。しかし、あっさりと認めて開き直るほど浅はかな子供でもない。
男の言葉を肯定してしまってはそのままコミュニティ軍に突き出されてしまう可能性が高いので、SUGIZOは黙った。相手の反応次第で次の手を考えようと思ったのだ。
そうやって対策が後手に回ってしまうと、より不利になっていくだろうと想像はついたが、SUGIZOにもそれ以外どうしてみようもない。
そんなSUGIZOの心中に察しがついたのか、男は片方だけ頬を緩めて再度口を開いた。
「黙るなよ。べつにコミュニティ軍に突き出そうとか考えてるわけじゃない。うちで武器を買おうっていう相手を即座に軍に突き出したら、売上が減るしな。で、どう?」
言葉のついでに両手を降参の形に挙げた男に対して、警戒心がなくなったわけではない。けれど、少なくともすぐに危害を加えられることはないかもしれないと判断して、SUGIZOはわずかに肩の力を抜いた。
「……当たり」
「そうか。そっちの坊主も仲間だよな? ああ、違う。それじゃ少し柄が大きいだろ」
余所者であることをSUGIZOが認めても、男は軽く頷いただけで、ナイフの並ぶコーナーの前で立ち尽くしていたINORANの傍へ歩み寄った。
少しずつ大きさや形の違うナイフの中から一本を選んで、INORANが手に持って感触を確かめていた少し大きめのナイフと持ち替えさせる。
「刃の形はそれがいいんだろ? なら、柄はこっちの方が合うと思う」
男の言葉には少しの迷いもなく、選び出されたナイフはその言葉通り、INORANの手に馴染んだ。
INORANの手の形や大きさに合うように造られたのかと思うほど、なんの違和感もなく。
「……ほんとだ。これがいい」
「そうだろ? お前は?」
得意げに笑った男が、今度はSUGIZOを振り返る。
「銃は持ってるのか……弾が要るのか?」
SUGIZOが懐に銃を隠し持っていることを簡単に見抜くと、そう聞いてきた。
「弾も要るし、こいつの分は銃も要るんだけど」
まだ男を警戒しているのか、自分の背後に回ったINORANを指し示してSUGIZOが言うと、男はINORANに好きな銃のタイプを問うた。
好きと言うか得意と言うか、INORANは最初に持った物以外の銃を使ったことがない。単発式の拳銃で、SUGIZOの父親がラウルの近辺で発掘してきた時にかなり原型を留めていたものだ。
その形状や特徴をSUGIZOとINORANが二人がかりで説明すると、男は少し考え込んでから、二丁の拳銃を取り上げた。
「この辺でどうだ?」
二丁とも、外観がほとんど変わらないように思えたが、重さが違った。一方は多分、子供でも楽に扱える程度の軽さ。もう一方は逆に、慣れていなければ大人でも照準を合わせにくいであろう重さ。
INORANは幾度もその二丁を持ち替えては感触を比べて、重い方を選んだ。
重い方の銃でさえ、INORANがラウルで愛用していたものよりは軽かったのだ。男から手渡された軽い方の銃では、軽過ぎて逆に扱いづらいだろう。
SUGIZOも自分の銃に合うタイプの弾丸を選び、男に合計の金額を聞いた。それは二人の持ち合わせよりほんの少しだけ安く提示された。
「……カザラで俺たちをまとめて雇ってくれるような店ってないかな……」
会計ついでにSUGIZOが尋ねると、男は途端に膝を叩いて笑い出した。
「娼館なんかで良ければ、東にいくらでもある。でも、そんな所へお前らみたいなガキ送り込んだら、一生そこで終わるな…それは嫌だろ?」
北のゲートで別れた隊商の男と同じことを言われ、SUGIZOとINORANは焦って頷いた。それは嫌、と言うより、それだけは嫌、と言った方が正しい。
二人の焦り様を見てもう一度笑った男は、カウンターから少し身を乗り出した。
「それなら、うちで働くか? もっとも、武器の手入れができなきゃ話にならないけど」
「できる。武器を武器として使うより、むしろそっちの方が得意だもん、俺」
即答したSUGIZOににやりと笑みを返して、男はINORANに視線を移す。無言で答えを求められ、INORANも小さく頷いた。
二人とも、ラウルにいる間に武器を使ったことなど、実はほとんどなかった。練習だけは幼い頃から続けていたが、実戦経験は無きに等しい。だから、SUGIZOの言葉に嘘はない。
「なら、衣食住の全部、保証してやるよ。その代わり給料は少ないぞ」
楽しそうに笑った男の一言で、SUGIZOとINORANの当面の生活が決まった。