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太陽・作


「アラン、話しがある」
「なんだ、アンドレ。改まって。」
「オスカルには、内緒だが、俺とオスカルは、明日から休暇を取ることになっている。こんなときに悪いんだが・・・。」
「いや、別にかまわないが。隊長もえらく疲れているみたいだしな。少し休めばいいと思っていたんだ。でも、なんで隊長に内緒なんだ? 休暇のつもりなんか、まるでないみたいだったが。」
いつになく真剣なアンドレの表情を見て、アランは不思議そうに答えた。
「もしかすると、もう、戻ってこれないかも知れない・・・。いや、できたら、戻らせたくない」
「なんだって! なぜ?」
「理由は、いえない。」アンドレは苦しそうに答える。
「理由をいえないだと! そんな、そんなばかな。皆どれほど隊長のことを思っていると・・・。お前だって、わかっているはずだ。」
アランはアンドレに掴み掛かっていった。
「もちろん、もちろんわかっているさ。皆がどれほどオスカルのことを信じているか・・・。わかっているが・・・。俺は・・・。」
アンドレの眼に涙が浮かんでいるのを見つけ、アランは驚愕した。
「アンドレ、わかったよ・・・。隊長やお前が大した理由もなくそんなことをする訳がないな・・・。」
アランは何かを悟ったように静かにいった。

「アラン、俺たちはジャルジェ家のアラスの別荘に行く。今晩中に出発するつもりだ。ついては最後にひとつ頼みがある。ないことを望んではいるが、もし、出動命令が出たら、別荘まで急使を頼みたい。本当は、知らせたくない。知りたくないのだが。」
アンドレはアランの肩に手を置いて、強くいった。
「でも、俺はあいつに後悔をさせたくないのだ。それとも俺が後悔をしたくないのかな・・・。」
アンドレは自嘲するように笑った。

「アラン、オスカルはもらったぞ。もう触るなよ。俺のだからな。ははは・・・」
アンドレはアランの頭を軽く殴ると笑いながら去っていった。
「なんだって? この野郎! ふふ・・・。まあ、しょうがねえな。俺はずっとこのまま、片思いか・・・・。あーあ」
苦笑しながらアンドレを見送った。

 

 

 




とにかく一日でも早く、今の激務からオスカルを開放したい。
俺はそれだけを考えていた。
ただ、無理やり療養させたところで、どうなるものでもない。
それはわかっているのだが・・・。
俺はオスカルを失いたくない。何があっても。どんなことをしても。絶対に・・・!
俺の命と取り替えられるものなら、どんなに幸せだろう。
俺は、愛する人の死を見たくない。
でも、きっと。オスカル。お前は・・・。
困難から逃げた人生を悔やむだろう。
たとえ病気に立ち向かうという名目があったところで、お前は納得しないだろう。
お前に自分の思想を捨て、信念を曲げ、俺と生きてくれと・・・。
言えるのか俺に!
誰よりもお前を一番理解しているはずの俺に。
わかっているのだ。頭では・・・・。
お前がそんな人生を望んでいないことを。
でも、でも・・・・。俺はお前を失いたくない。

愛している。愛している。ああ、心が千切れてしまいそうだ。
やっと、手に入れたのだお前を・・・。お前の心を。
なのになぜオスカルを俺の手から奪おうというのだ。

オスカル、俺のためにお前にとっては不本意な人生を歩いてくれるか?
ごめんよ、オスカル。
お前の望まない人生かも知れない。
でも、お前のサファイヤ・ブルーの瞳で哀願されたら、俺は到底抗うことなどできないだろう。
かつてオスカル、お前の願いに俺が逆らったことなどあるだろうか?

神よ。俺にオスカルの願いを振り切る強さを与えたまえ。
そして、どうか奇跡を起こしたまえ。
俺の、俺のオスカルをお守りください。



     

 −つづく−