通院だけで
肩身の狭い通院〜地元の開業医の待合室〜
医院の待合室のベンチに座っているだけでも、それは耐えがたい世界…でしたでしょう。
 「おや、余所者がこんなところに座って…」常連さん方は遠巻きに祖母を囲み、ジロジロ見ながら聴こえるようにそういう言葉を放つ。
 タクシーで行き帰りするのを見ては「お金持ちだ」、着替えに手間取れば「お洒落なんかして、ココに居るからだ」と伝統的イジメ・嫁いびり的排除の手が、一患者である祖母にのしかかる訳です。
 かくしゃくとしていた頃の祖母なら「田舎者…」の一言も言っていたかも知れません、プライドの高い人でしたから。それが羊のようにおとなしく座って、小声で「あんたもここに居って…」と言うのですから、祖母も弱ったな…と。
 足腰がみるみるうちに衰え、数ヶ月の通院の間に終いにはタクシーを待つ数分間も立っていられない程になりました。これ以上、通院が出来なくなる日は近いと思っていましたが、その日は嫌な形で訪れました。
 通院しているご老人がたは、一様に「生活習慣病」あるいは「老化現象」のために通院されているわけで、定期通院の折に血液・尿検査が欠かせない方が多かった。医院のトイレは一つ(大抵はそうですが)で和式であるため、頻尿の治療を受けている祖母の場合は…。幸い、祖母にで無くて私に言ってくれた事が救い、と思っていますが「あの人がしょっちゅうトイレを使うから、尿検査の尿が取れない。あんた、何とかしてよ!」と何人かの患者さんに詰め寄られました。
 「申し訳ありません…」謝罪をしつつ、これが今、トイレに居る祖母に聴こえていませんように、と願いました。以来、医院には往診をお願いをしました。先生はご理解を下さっていたと思います。
 それがあってから一月ほど後、関西N県在住の妹(作者にとっての大叔母)が急死をしました。報せを聞いた祖母はショックで不眠状態になり、そこから今だ無いような状態になってしまったのです。
 翌朝、母の悲鳴で起きて行ってみると、ひどい異臭。祖母の部屋の戸を開けてみると、洗濯用に使っていたバケツが祖母の便器と化していました。畳部屋を母が半泣きで掃除しています。下痢が止まらないのです。トイレに誘導する間が見つからず、部屋にはぬれた新聞紙が敷き詰められた状態でした。
 とにかく母を出勤させて、後を掃除しましたが、その日は休日でデートの予定があった妹の手を借りざるを得ませんでした。掃除&祖母の着替え・トイレ介助を一人ではとても出来るものでは無いことを、妹は即座に理解してくれました。

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